アレクの焦り・二
王子の静止も耳に入らないほど、フレスベルグの元へ行きたがるアレク。
そこには並々ならぬ事情がありそうで、王子とヴァレリアは首を傾げるのだった。
三人は馬に乗り、フレスベルグの元へ迎った。
ブツブツ‥‥‥
アレクは爪を歯で噛みながら何かを言っていた。
アレク、一体どうしたというの?
一行は薬の材料集めの時に来た場所に戻っていた。
その時フレスベルグが大きな虹色の羽根を羽ばたかせて襲いかかってきた!
『この場所から去れ! 穢れた人間どもめ』
「フレスベルグ!!」
アレクが声を上げる!
「フレスベルグ、何か事情があるんだろう? 事情があるからナワバリでもないここまで来て騒ぐんだろ!? 話してくれ」
『‥‥‥』
フレスベルグは高いところをぐるぐる回りながら様子を見ていた。
『ん? お前‥‥‥あの時の、ニーズヘッグか?』
フレスベルグの目はヴァレリアを見ている。
「いいえ、私はヴァレリアよ! ヴァレリアでもあり、ニーズヘッグでもあるわ」
『? 何を言っているのだ?』
「ヴァレリア、ちょっと」
と言って王子がヴァレリアを手招きする。
「?」
「すまんヴァレリア、一度ニーズヘッグを起こすぞ?」
「? ええ、それは構いませんが。でも一体何を‥‥‥」
『ありとあらゆる夜と朝に。ニーズヘッグよ、目覚めよ』
王子が何かを唱えたその時ヴァレリアの胸で眠っていたニーズヘッグが起きた!
『お前お前お前〜!! 都合よく俺様を寝たり起こしたりするんじゃない!!』
胸から飛び出してギャンギャン騒ぐニーズヘッグ。
『お前、ニーズヘッグか? ずいぶんと小さくなったな』
フレスベルグはそう言いながら近くの木に止まった。
『おおん? お前は、フレスベルグ! 久しぶりだな』
『ふん、さてはニーズヘッグを従えたのか? そこの女が? ハハッ! 傑作だ、まさかお前が人間にねぇ』
フレスベルグは小さくなったニーズヘッグを見て笑った。
『むーまぁそれは。俺様に隙があったからな、仕方ねぇよ!』
『ほぉ〜? ニーズヘッグがそこまで言うとは、面白い! そこの女とニーズヘッグ! ついてこい、俺の翼に乗れ。俺が来た理由を話してやる』
「お、俺も! 俺も連れて行ってくれ! ヴァナルカンドがどこにいるか教えてくれ!」
それを聞き、フレスベルグの動きが止まる。
『男よ、何故お前がその名前を知っている? 』
アレクが俯き、唸るように歯軋りをする。
「昔、俺を助けてくれたんだ」
『ヴァナルカンドが人助けェ? あいつは人を襲う事はあっても助けることはないと思うぜ?』
ニーズヘッグもまさかあいつが? という顔をして言う。ヴァレリアは完全に置いてきぼりだ。
一体この人たちは何を話しているのでしょう??
「ヴァナルカンドは俺を助けてくれた」
あの、悪魔のような双子から守ってくれたんだ!
『男、お前、名前は何という?』
「‥‥‥アレクサンドル」
『ほぉ、面白そうだなぁ。話を聞こうではないか、ならばお前もついてこい!』
そう言ってフレスベルグが三人を己の翼に乗せようとした時、レクター王子と目が合った。
『お前は‥‥‥』
キィィー‥‥‥ッン!
王子の瞳が金色に変わる。王子は自分の唇に人差し指を立てている。
(黙って行け)
フレスベルグは少し面食らった。
『は‥‥‥まぁいい。そこの三人はとりあえず乗れ!』
三人は各々(おのおの)馬から降りて、フレスベルグの背中に乗った。背中痛くないのかしら?
フレスベルグは三人が乗った事を確認すると羽根を広げて飛翔した。
「わぁ〜私達空を飛んでますわ!」
自分でも飛べるのに、不思議な事を言うヴァレリア。どこがどう違うのか、はしゃいでしまう。
『はしゃぐんじゃねえ! わァァァァ落ちる!! ヴァレリア! ヴァレリア!』
小さくなって魔力がほとんどないニーズヘッグはコロコロ転がって落ちそうになっていた。慌ててヴァレリアの胸に飛び込む。
「お前、ヴァレリアに触るなよ!」
『へへ〜! アレクサンドルだろうがユーリだろうが王子だろうが、誰もこの場所は譲れませーん残念でした』
「アレクごめんね。ニーズの魔力を私が吸い取ってるんだって、私の力が強すぎるんですって。レ、王子が言ってたわ」
「ふーん、ヴァレリアがいいんなら良いよ! でも、俺もちょっと怖いかな?? わー落ちるー」
嘘である。
「ふふっ、私も怖いですわ。しっかりと羽根にしがみついていましょう!」
「おっ、俺は! ヴァレリアと手を繋いだら、怖くなくなるかも!」
「?? あ、手? 私の?」
アレクがコクコクと頷く。
「ヴァレリア!」
「きゃあ!」
アレクはヴァレリアと強引に手を繋いだ。柔らかくていい匂い‥‥‥。幸せ‥‥‥
『お前ら、俺の上ではしゃぐな』
「そうだぞーアレク、俺もばっちり見てるからなぁ?(怒)」
ぎょっとして声の方を見ると、いつのまにか王子がフレスベルグと並んで飛行していた。
王子の背中にはフレスベルグと同じ鷹の羽が生えていた。
「レ、王子、ついてきてたのですね」
何故か安心した。
(当たり前だ)
ヴァレリアは先日の事を思い出していた。
「王子‥‥‥お前、足でも飛べたり羽根が生えたり一体何者なんだよ」
「無敵ですまんな」
王子はしれっと答える。
「それは私もそう思います。レ、王子は一体何者なんですか?」
(レクターの言う通りにレクターと呼んでいるのに、全然教えてくれない)
その時フレスベルグが声を上げた。
『そろそろ着くぞ、あれが俺の巣だ』
フレスベルグの向いた方へ視線を遣ると、洞窟のような穴があった。その奥に、フレスベルグの巣があった。
「わぁ〜ここが貴方の住処なのね」
『見てみろ』
フレスベルグは3人を下ろして誘導する。そこにはフレスベルグより小さな普通の鳥がいた。鳥は大人しく巣の中を見せてくれた。
そこには卵があった。
「卵? フレスベルグ、卵を守ってたのね」
『まあな、お前たちなら理解してくれると思ったからな。連れてきた』
フレスベルグは羽根を繕いながら言う。
「それで気が立っていたのか」
『うむ、だから荒らして欲しくなかった。ヴィゾーも卵を温めるために離れられないからな』
「ヴィゾー?」
『ヴィゾー、俺の妻』
卵を温めていたヴィゾーが軽く頭を下げた。
「へぇーへぇー素敵ですわ! 妄想が広がりんぐですわ! フレスベルグとヴィゾーの愛、一途な鷹の悪魔!!」
ヴァレリアはまた自分の世界にトリップしてしまったようだ。
その様子を見て王子が笑っている。
『なんだアイツ‥‥‥不思議な女だな。まぁいい。アレクとやら、お前は何故ヴァナルカンドを探している? 理由によっては教えてやらん事もない』
フレスベルグは自分専用の椅子?らしきものにどっかりと座った。
『俺も聞きたいぜ!』
ニーズヘッグがそう言ってヴァレリアの胸の谷間でふんぞり返った。フレスベルグに対抗しているのだろう、全然違うけど。
アレクは重い口を開いた。
俺はあの悪魔のような双子に平穏な日々を、ある日突然奪われたんだ。
リューフェロとリュツィフィに‥‥‥
作者「ヴ」好きすぎ問題
次回はアレクの過去が明らかに!
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ご拝読ありがとうございました。また読んでくださいね。