ヴァレリアに話しかけるな!
この話は前話「王子の嫉妬」の後日談っぽい話です。
マクシミリアン公の話は深夜に渡り、帰宅する者もちらほらいた。
ヴァレリアは未だに残った食事を食べていた。
あいつよく食うな‥‥‥貴族だった時に(いや今も貴族なんだけど)あまり食えなかった反動か??
「レクター、私はいっそのこと馬主になろうかと思ってな」
「あはは、それもいいですね」
「レクター? 先程からあのお嬢様が気になるようだな?視線があのお嬢様に釘付けではないか?」
「いえ、そんな事は‥‥‥」
ふと見ると、シリウスがヴァレリアに話しかけていた。ヴァレリアは最初、怪訝な表情を浮かべていたが、やがて笑顔でシリウスを見る。
何を話しているのだ?やめろシリウス。ヴァレリアに話しかけていいのは俺だけだ。それにヴァレリアは何をしているのだ。お前は、その笑顔を俺以外に見せるな!
俺はギリギリと歯軋りをした。またドロドロとした気持ちが湧き上がってくる。
「おいカンタベリー。ちょっと‥‥‥」
マクシミリアン公が従者を呼び、何かを言っているがもうマクシミリアン公の話など俺には聞こえていなかった。
王子の目が金色に変わる! あらゆる感覚が研ぎ澄まされる!
俺はシリウスとヴァレリアが何を話しているのか耳を澄ませる。
「ヴァレリア様そのドレス、よくお似合いですよ。お城にいた頃はあまりお見かけしなかった色ですね」
「ああ、このドレスは私の瞳の色に合わせて特別に作らせたものだから‥‥‥今までは下品な色のドレスばかり着ててごめんなさい。不快だったでしょう?」
ヴァレリア様のクローゼットには、派手で下品な色のドレスばかりだった。その中でやっと見つけ出したのがこのドレスなのだ。
ヴァレリア様はお嫌いだったのか、クローゼットの奥の奥に押し込められていたけれど。
ヴァレリア様がよほど目立ちたかったのがわかるわ。でもそもそも土台が美しいのですから、そんな必死に目立とうと思わなくていいのに‥‥‥
まぁ、今夜限りですからもう私には関係ないのですが。
色々考えながらばくばく食べていると‥‥‥
「よく食べますね。こちらもどうです? 食べますか? まだ誰も口をつけていないですよ」
「あら、美味しそう! いただくわ」
思わず顔が綻ぶ。
「ヴァレリア様‥‥‥」
「?? 何ですか?」
シリウスが顔を赤らめていた。どうしたというのだろう?
「ヴァレリア様、もしよかったらこの後‥‥‥私の部屋に来ませんか?‥‥‥」
「えっ?」
ブチッ!
「シリウス!!」
突然レクターが大声を上げてシリウスを呼んだ。
「あ、はい!」
(えっ今の話もしかして聞かれてた??やばい!)
「すみません叔父様、しばらく席を外します」
「おう、行ってこい」
全てを見透かしたようなマクシミリアン公の言葉に背中を押され、俺は足早にヴァレリアの方へ足を向けた。
「シリウス、お前は叔父様の相手をしてこい。叔父様は馬が欲しいそうだ、そういう話はお前が得意だろ」
俺はシリウスとヴァレリアの間に立つ。
ヴァレリアは頭にはてなマークを浮かべたまま、食事をもぐもぐしていた。
「ヴァレリア、お前今日はもう帰れ」
「えっ、でもまだ食事が‥‥‥」
「食事くらい後で運んでやるから‥‥‥」
俺はため息まじりにそういった。この期に及んで食事の心配とは、全くヴァレリアは、危機感がない‥‥‥
俺はヴァレリアのズレ具合に少しホッとした。
「ではお先にお城に戻っていますわ。ありがとうございます。レクター王子」
そう言ってお辞儀をした。
マクシミリアン公にも
「本日はお招きいただきありがとうございました、素敵な一時でしたわ」
「うむ、良い良い。私も久しぶりに良いものが見れたから嬉しい」
どのような女性にも、いつもどこか醒めていて心を開かなかったレクターが、あれほど心を乱されている姿を初めて目にした。
しかもレクターは以前よりもずっと生き生きとしている。前はどのように美しい女性がいても、自分からダンスを申し込む姿など見たことがなかった。
マクシミリアン公はヴァレリアを見る。
なるほど確かに美しい娘、しかしそれ以上にこの強い意思を感じられる瞳の輝き‥‥‥
これはレクターが夢中になるのも頷けるな。しかもあんな風に人目を憚らず、その激情を剥き出しにして‥‥‥
「? では私はこれで失礼します」
エリーを呼んでヴァレリアは帰っていく。
(ニーズヘッグはどうでした?)
(それがぐっすり寝てて起きないですわ。てっきり暴れると思ってわざわざ隠れていましたのに)
(あら〜珍しい、ふふっ! 悪魔なのに、寝てる時は可愛いですわね)
コソコソ言い合いながらヴァレリアとエリーは城に戻っていった。
二人が完全に見えなくなったのを見届けて俺はシリウスの方を振り返る。
「さてシリウス、お前は何をしていた? 俺の婚約者を誘っているように見えたが?」
「えっ?さ、さぁ何の事ですかね?(汗)えっ? でも王子はもうあの方とは婚約破棄されたじゃないですか」
「それで?」
「だとしたら実質ヴァレリア様は今フリーなんですよね? 私が誘っても、いいと思うのですが‥‥‥」
「ダメだ!ヴァレリアは渡さん!」
レクターは怒気を孕んだ声を上げた。シリウスは王子の顔を見て戦慄した。いつのまにか瞳が金色に変わって、身体中から刺すような冷たいオーラが溢れている!シリウスは直感的に思った。
(こ、殺される!!)
「す、すみませんでしたぁぁぁぁぁ!!」
すみません長くなってしまいました
シリウス意外と積極的でワロタ。
次回は本物のヴァレリア様が出てきたり、少しだけ場面がウロウロします。
※本来貴族の方はあまりお腹いっぱいに食べない事が嗜みというか美学みたいなところ(諸説ありますが)だったので、ヴァレリア様は完全に反動ですね。笑
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ご拝読ありがとうございました。また読んでくださいね。