まだわからない、この気持ち
フレスベルグを追っていた王子とアナスタシア(ヴァレリア)様だったが、途中で
王子がお城からの使者が向かっていることに気付く。
思い出したようにヴァレリアはあ、そうだと言った。
「お城からの使者様が来るんですよね? でしたらこの姿はまずいですわね」
「ああ、そういえばそうだな」
今のヴァレリアは、人間の形はしているが、何せ悪魔のような羽根が生えているため、初見だと面食らうだろう。今のヴァレリアは悪魔と人間のハーフのような見た目をしている。
『スノッリエッダ』
ヴァレリアが何か唱える。背中の羽根は引き、髪も爪も元の長さに戻り、ポンッという音と共に小さなニーズヘッグが出てきた。と同時にヴァレリアに怒鳴った。
『お前お前お前! よくもこの俺様の力を利用したな!』
ニーズヘッグは気のせいか半分泣きべそをかきながら捲し立てた。
「まぁまぁ、このまま私の胸を住処にしてもいいですから。大人しく私に支配されなさい」
ね? というヴァレリア。
「ちょっと待て、それは俺が嫌なんだが」
ヴァレリアの胸を住処にするなどはけしからん。
『ううー! この俺様が、こんな小娘に‥‥‥』
ぐずぐずとニーズヘッグは本格的に泣き始めた。
『クソォ〜〜〜〜!!』
ボインッ、と音を立ててニーズヘッグはヴァレリアの胸の谷間に入っていった。
『まぁ、ここを住処にしてもいいってんなら、お前に従ってもいいぜ♪』
柔らかーい、ニーズヘッグがヴァレリアの胸にすりすりする様子を見て王子がキレた!
「おい! お前、俺のものに触るんじゃねえ!!」
それを聞いたヴァレリアもキレた!
「誰が貴方のものですって!?」
「お前は、俺の! 婚約者だろうが!」
「とっくに破棄されましたよ! それは!」
ギャーギャー!! と言い争う二人。その内に早馬が王子の元へ到着した。
「ヴァレリア、俺は絶対お前を諦めんからな」
「ふっ、ふん! できるものならやってみなさいよ!」
王子はご苦労と言いながら使者から手紙を受け取った。
胸の中のニーズヘッグは疲れたのか眠ってしまっていた。
* * *
手紙を受け取ってからの王子は難しい顔をしていた。
「ヴァレリア」
「ん? 何ですか?」
私達は先に宿屋に戻り、一階部分のレストランで食事をしていた。
「これはマクシミリアン公からの晩餐会の招待状だ。お前も名前は聞いた事があるだろう?」
「ええ、前バルカ国王の弟君ですよね。それが何か?」
私は目の前の肉料理を食べながら王子の話に相槌を打つ。前までは食欲が進まなかったのに、この体になってからごはんが美味しくて堪りませんわ!
「その晩餐会にお前もついて来てほしいのだが?」
「ゴフッ」
私は食べていたものを喉に詰まらせた!急いで水を飲む!
「な、なななななんで? 何故ですか? もう私は」
「これは身内の晩餐会だし、婚約者云々(うんぬん)は関係ないよ。王子としてでなくレクターとして、ヴァレリアに側にいてほしいんだ。付いて来て欲しい。頼む」
「レクターとして‥‥‥」
ヴァレリアは色々と考えを巡らせた。
よく考えればレクターには今まで数えきれないほどの恩がありますわ。ジューダからの攻撃から守ってくれたのもレクターだし、ニーズヘッグの魔力を弱めてくれたのも‥‥‥
まぁ、そのお礼に、付いていってもいいかな‥‥‥
ふとヴァレリアは気付いた。
(あれ? レクターって、私のこと‥‥‥なんだかんだでいつも助けてくれてる?)
私はレクターの顔を見る。
私は、この人の事を知らない。この人のチート級の能力の理由も。お城で何をやっているのかも。レクターもそれは同じはず‥‥‥
なのに何故、レクターは私を助けてくれるのかしら?一国の王子なのに?何故?
私が、一番誰かに側にいてほしい時に、側にいてくれるのかしら。
「なんだ? 俺の顔に何かついてるか? それとも俺の顔に見惚れたか?」
「べべべ、別に見惚れてなんか!」
(「可愛いな、ヴァレリアは」)
私は先程レクターに言われた言葉を思い出した。思わず顔がカーッと熱くなる。
「わ、わかりましたわ! 今まで沢山助けて頂いたし、そのお礼に王子‥‥‥レクターについて行きます」
「よかった」
ほっとした様子で笑うレクター。その様子に私もほっとしてしまった。
まだこの気持ちが何なのか良くわからない。でも、レクターには笑っていてほしい‥‥‥私のために、傷付いて欲しくない。
「本当に、何なのかしら。この気持ちは」
ドクンドクン‥‥‥
この胸の高鳴りは、何なのかしら?
すみません短かったですね。
この後の話の繋ぎに、どうしても入れたかった小話です
まだ自分の気持ちがわからないヴァレリア様!
この慎重さがいいと個人的に思います!
ここまでお読みくださってありがとうございます。