覚醒
色んなメンツが揃った一同。
嫌がりながらも王子と添い寝をして即寝落ちしてしまったアナスタシア(ヴァレリア)様。
そんなことはすっかり忘れて今日の依頼に向かうのだった。
翌日、私達は街を出て、小高い山にいた。
「セトの知り合いが紹介してくれたのが薬の材料の採取なんですね。これなら魔物とのエンカウントも避けられそう」
ヴァレリアがウキウキしながら言う。
「油断すんなよ。もしかしたら小物でもいるかもしれないからな」
しばらく一同は依頼書に書いている草やキノコを黙々と採取していた。
「わぁ〜、結構力使いますね! このキノコなんか根っこが強くて中々採取できませんわ」
「エリー、そこをどけ。俺の剣で一掃してやる」
ズァアア!!!!
材料のキノコがセトの一太刀で一瞬で削がれた。
「わぁ〜! さすがセトですわ! ありがとう」
「まぁ普段世話になってる分このくらいは、な?//」
セトは照れたように言った。
「ケルベロス、お前これ採って来てくれたのか? お利口さんだねぇ」
三個ある口で大量に薬草を採ってきたケルベロスをユーリが褒めてなでなでする。
平和だなぁ‥‥‥ああ、エリーとセトのイチャイチャも久しぶりですわ。
私も採取しながらその様子を見ていた。同じく採取をしている王子と目が合った。仮にも一国の主が草を採取しているなんて‥‥‥なんか、ものすごくシュールですわ。その時、私はある事に気づいて思わず吹き出した。
「あはははは! 王子! 顔に泥がついてますわよ!」
「ん? どこだ? ここか?」
王子は至って冷静に聞き返し、逆の頬を触って確かめる。
「違う違う、そっちじゃなくてこっち! 取って差し上げますから」
私はなおも泥を払おうとする王子の腕をそっと取った。
「動かないで‥‥‥」
バチっと私と王子の目が合う。今の王子は海のように深い青の瞳。私はいつのまにか王子の膝に乗るような体勢になっていた。
「王子‥‥‥」
「ヴァレリア」
お互い目が逸らせないで、ずっと見つめ合っていると‥‥‥
『ケーーーッ!!!!』
その時虹色の羽根を持つ鳥が一同を襲う! 大きな鳥!
私の胸で呑気に寝ていたニーズヘッグが起きる。
『うるせえな! お? あいつはフレスベルグじゃねぇか!?』
「フレスベルグ?」
それを聞いたセトがガックリと項垂れた。
「まーた変な魔物かぁ? あいつ(セトの知り合い)、適当な事言いやがって。エリー! 王子の側にお嬢を!」
王子がそれを止める!
「待て、ヴァレリアの様子が変だ」
ヴァレリアはなんとフレスベルグに立ち向かっていた。
(大丈夫よ、私は)
というように王子にウインクをする。
「フレスベルグ、あなたは何が目的なの? 何故私達を攻撃するの?」
『フン、人間ごときに理由が話せるか! ん? お前はニーズヘッグか?』
「いいえ、ヴァレリアよ」
今ならやれそうな気がする! 直感的に私はそう思った。
ニーズヘッグの力が弱まっている今なら。そう、このニーズヘッグを‥‥‥取り込んでしまえる気がするのだ!
『ストゥルルエッダ!! ニーズヘッグよ、このヴァレリアの怒りの前に跪け!』
ヴァレリアの口から自然に呪文が詠唱される!
その途端、ニーズヘッグが苦しみだす。
『ぎゃー!!!! 小娘が! 生意気に‥‥‥この俺様を、支配しよう、などと‥‥‥』
「あなたこそ、私を見くびりすぎたのよ! 大人しくしなさいニーズヘッグ!」
悪魔にこの体を、好き勝手にされるものか! 私は悪魔の操り人形なんかにはならない!
私は、私の意思で生きる!
『グォォォーーーー!!』
ニーズヘッグは実体化を保てず、消えてしまった。
その瞬間ヴァレリアの紫の瞳が輝く!髪が伸び、爪も伸び、紫のオーラが全身を取り巻く。あらゆる感覚が研ぎ澄まされる!
「‥‥‥ッ!!」
『ウォォォォォ!!』
突然、ニーズヘッグの悪魔としての最後の断末魔が襲い、やがて収まった。
「ハァ、ハァッ、これは‥‥‥」
全身で感じる、私は悪魔の力を手に入れた!
これが、悪魔の力‥‥‥すごい、今ならなんでもやれそうな気がする!
ニーズヘッグを完全に支配したわ!
「ヴァレリア! なのか?」
王子がヴァレリアを見ながら問う。
「ええ、私はヴァレリアよ。大丈夫、ニーズヘッグは暴れていないわ。私の中で眠っている」
「お前‥‥‥まさか」
ニーズヘッグを支配したというのか?!
でもこの見た目、感じるオーラ、感覚、間違いない。
ヴァレリアは、ヴァレリアの意思を保ったままで悪魔を逆に体に取り込み、支配したのだ!
なんて女だ! こんな短期間で、悪魔を随えさせるとは‥‥‥
フレスベルグは飛行しながら様子を見ていた。
『何者だ? あの女? ニーズヘッグの気配はするのに同時に人間の気配もする』
「んん、なんだか背中がむず痒いわ!」
ヴァレリアがそう言った途端、背中からドラゴンの羽が生えた。
バリバリバリバリ!
「わぉ! ドラゴンみたいな羽根が生えてきましたわ! 何か実に爽快な気分だわ」
「うわー! お嬢様〜!! お嬢様が悪魔に!」
悪魔になってしまった!!
「エリー、大丈夫よ、私は悪魔にはなっていないわ。悪魔の力を取り込んだだけよ! フレスベルグと話をしてくるから後はよろしく」
悪魔の力を取り込んだ?エリーの頭が混乱してぐるぐるし始めた。
「あ、待てヴァレリア!」
ドラゴンの羽を利用して飛び立とうとするヴァレリアを王子が止める。
「俺もついていく」
私は頭にハテナマークを浮かべた。
「どうやってついてくるの? 翼もないのに」
「いや、俺は飛べるんだよ」
王子の瞳が金色に変わる!
「王子、足が! 足が光っているわ!」
「ハハッ、翼じゃなくてすまん。俺はこの足で空を飛ぶことができるんだよ」
そう言いながら王子はヴァレリアの手を掴み、ヴァレリアと共に飛んだ。
「わぁぁ! 私達本当に空を飛んでるわ!」
「行こうヴァレリア! みんな、話はつけてくるから、そのまま作業を続けていてくれ!」
「エリー、王子がいるから私は大丈夫よ! 心配はいらないわ」
そう言ってヴァレリアはポカンとしているエリーの方を向いて手を振る。
フレスベルグは人間が二人こちらに向かって来ることが分かって、慌てて逃げる。
「‥‥‥あれ、お二人とも空を飛んでた? お、お嬢様が、王子と空を‥‥‥うーん」
エリーはキャパオーバーで倒れてしまった。
「おい、おいエリーしっかりしろ! いや、本当にお騒がせな二人だな!」
倒れたエリーを抱きしめながらセトが言う。
「ぼ、僕は、羨ましいな‥‥‥ヴァレリアさんと二人で、飛行デート‥‥‥」
「ああ〜もうユーリまで‥‥‥そうだ! もうあの二人の事は忘れて俺らは今日の依頼をこなそう!」
セトは考える事をやめた。
すみませんサブタイトル間違えたまま投稿してました。
かっこいいヴァレリア様!
見事に自分一人で解決しましたね。
ここまでお読み下さってありがとうございます。