ライヒの街
前回天真爛漫なアナスタシア(ヴァレリア)様の胸の中で潰れかけたニーズヘッグ
文句を言いながらも、アナスタシア(ヴァレリア)様たちは馬の手入れを終えたユーリと合流し、改めて街の散策を始めるのだった。
『まったくひでぇ目に遭ったぜ』
私達は街のカフェでひと息ついていた。
ニーズヘッグがブツクサ文句を言っている。
「あはは、ごめんごめん」
私は危うく窒息しそうになったニーズヘッグに詫びる。ていうか悪魔に謝るのも何か変な話ですわ?
つい先日私はこの悪魔に酷い目に遭わされたのに。
『別にいいけどよ〜。てかこいつら俺様が怖くないのか?』
ニーズヘッグが周りを見渡して言う。周りはニーズヘッグを見ても、驚いたり怖がったりせず素通りしている。
「別に怖くはないと思うよ。サーカスの一員だと思われてるんじゃないのか?」
『サーカス??』
「ああ、先程それらしいテントを見た。今日はこの街の建立記念日らしいからな、道化師みたいなのもいたぞ」
私は身を乗り出して聞いた!
「サーカス!?道化師?記念日? 何それ知りませんわ、なんで王子がそんな事知っているんですか? ずっとお城にいたのに」
ヴァレリアは興味津々である。
サーカスだなんて見たことも聞いた事もないですわ!どんな事をするのでしょう。記念日に開催するほどだからきっと楽しい事なのでしょうね。
「シリウスから聞いて知っていた。このライヒの街やサーカスにも多少なりとも俺が金を出しているからな、その金が何に使われているか知っていた方が良かろう」
まぁ統治はこの街の領主に任せているがな。
お金?? 王子がライヒの街やサーカスやらにお金を出していたなんて知りませんでしたわ。そっか、王子だものね。
「うーむ、王子も私と同じくらい世間知らずだと思っていましたのに」
なんか悔しいですわ。
「ハハッ、俺も知っているだけで見るのは初めてだ。後で行くか? アレクも一緒に」
ユーリは馬の世話を終えて私達と合流していた。
「わぁ〜!王子ありがとうございます!」
私は嬉しくてついぎゅーと王子に抱きついた。
「ああ、しまった私ったらまたやってしまいましたわ。ごめんなさい」
「いいんだ、いつでも大歓迎だ」
ユーリが何故かイライラしている。
サーカスでは、派手な衣装を着た人達が、綱渡りをしたり、空中のブランコで手を渡しあったり。どれもこれも初めて目の当たりにするもので、私だけが
「きゃー!危ない!」
とか
「そこ!逃げて!」
とか騒ぐのでニーズヘッグにうるせえと言われ黙ってしまった。
「うへぇ、でも心配なんですもん」
私はつい力が入り、舞台に上がった人間が切断されるようなトリックの手品をした時に、腕の中のニーズヘッグを抱きしめていた。
『ぎゃー!死ぬ!死ぬ!俺様を絞めるんじゃねえ!!』
ユーリはその様子を見て笑っている。ユーリはニーズヘッグを特に怖がる事もなく、王子の説明であっさり納得した。
「お客様方、本日のラストを飾るのは、世にも珍しい三つの頭を持つ犬、ケルベロスだ!」
その出立ちに一同はどよめいた。
檻の中にケルベロスがおり、二つの頭は眠っていた。雪のような白い体毛に、澄んだ青と赤のオッドアイ。
「すごい!頭が三つですって!王子、ユーリ見て!一体どのくらいご飯を食べるのかしら!?頭が三つあるから三頭分??」
などとよく分からない分析をヴァレリアがしている。そのはしゃぐ様子を王子は眺めていた。
(ジューダの事を引きずっているかと思ったけれど。元気を取り戻して良かった。この街でサーカスをしていたのも運が良かったな‥‥‥)
「今日はこのケルベロスのラストショーだ!ケルベロスはこのショーを持って引退します!どうぞこのケルベロスの勇姿を最後まで見て行ってください!」
ケルベロスは大きな欠伸をすると、ノロノロと出てきた。
『ん?あいつ本物のケルベロスか?なんであんな小さいんだ?』
係員の誘導で、ケルベロスは舞台の端に寄った。
ケルベロス用の大きな火の輪っかが運ばれてくる。
「ええっ!?まさかあの輪っかをどうするの?潜るっていうの!?動物虐待でもがッ」
「ヴァレリア、落ち着け」
王子に口を抑えられてしまい、今度こそ私は黙って観ざるを得なくなってしまった。
「大丈夫、彼らは訓練されたプロだから」
ケルベロスは大きな火の輪っかを見た時に目つきが変わり、その体を器用に回転させながら火の輪くぐりを成功させた。その瞬間、割れんばかりの拍手が起こった!
誘導で舞台の中心に立ったケルベロスは、どうだと言わんばかりに堂々としていた。
「最後の火の輪くぐりが成功しました!どうか今一度ケルベロスに拍手を!!」
パチパチパチパチ!!
私は思わず膝に乗っていたニーズヘッグを落として立ち、拍手喝采を送っていた!
『いてぇ!!』
「すごかったわね!ユーリ!」
ユーリの方を見ると、ユーリの目には涙が浮かんでいた。
「ユーリ?」
「あのケルベロス、引退するのなら僕にくれないかな‥‥‥」
「えっ?ケルベロスを?」
そういえばユーリは馬といい、ニーズヘッグといい、人外の者に優しい。ニーズヘッグの事もあっさり受け入れてくれたし。
今まで人間に酷い目に遭わされたからかしら‥‥‥そう考えると私も涙が出てきました。
「うん、可愛い。もしOKしてもらえたら冒険に連れて行きたいな。ダメかな?」
「うーん、私はいいけど‥‥‥セト達が何と言うかしら」
『いいぜー!俺様にも話し相手が欲しかったところだからな!』
「何故お前が許可を出すんだ?」
王子にツッコミを入れられるニーズヘッグであった。
ユーリはとても優しいですね。悪魔も怖がらずに受け入れます。
ヴァレリア様ケルベロスを見た時の第一声ワロタ
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