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ヴァレリアとアナスタシア  作者: 杉野仁美
第一章 ヴァレリアとアナスタシア
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歪んで見えない

前回、ヴァレリアの体の中にいたという悪魔の力によって一人で裏山に来てしまったアナスタシア(ヴァレリア)

ジューダとジューダを守っているヒュドラの悍ましい姿に戦慄すると同時に、ジューダの悲しい話を聞いてしまうのだった

 一方その頃、シリウス達と話を付けてきた王子は、ヴァレリア達のいる村に向かっていた。


(ヴァレリア?)


 妙だな、ヴァレリアの声が聞こえた気がしたが、何かあったのか?


「仕方ないな、『目』で見てみるか」


 レクター王子の瞳が金色に輝く!そこには異形の者と対話している様なヴァレリアが映った。


『くくく、ヒュドラか。面白い』


「ヴァレリア? あんなところで何をしてるんだ?」


 ジューダは赤い門の更に奥の、凶々しいオーラを放つ鎖で繋がれていた。身体中にわけのわからない文字が書かれており、髪がばらけに伸びて男か女かも分からない。ただ濃い紫の瞳がギラギラと不気味に輝いていた。


 ジューダが私を見る!

 正確には、私の中に居る悪魔を見ている。


『ほう、これが「ジューダ」か、それを守っているのが毒の神「ヒュドラ」。村に呪いをかけたのも恐らくコイツ(ヒュドラ)だろうな、元はヒュドラは村の守り神だったはずなのに、酷い話だ』


 悪魔がしみじみと話す。


『ヒュドラ、出てこいよ』


 ヴァレリアが口を開く。だがその言葉は、明らかにヴァレリアの意思で発せられた言葉ではない。


 何が起きてるんだ?


 レクター王子は足をジューダとヴァレリアのいる山へと向けて走り出した。


『‥‥‥誰だお前は?』


『俺様はニーズヘッグ。悪魔だ、なぁヒュドラ? こんな暗いところじゃなくてもっと面白い所に行こうぜ!』


『フン、私のことは放っておいてくれ、私はこの子を守らなければならないのでね』


『この子って、ジューダの事か?』


『ああそうだ、村人達に裏切られた可哀想な子だ』


『はぁ』


 ジューダはこの神社の鳥居の辺りに捨てられていた。当時は子を捨てる事は何も珍しい事ではなかった。ところを親切な村人に保護されて、愛を受けてすくすくと育っていた。思えば、あの時がジューダにとって最高の時間だっただろう。

 

 ジューダの人生に暗雲が立ち込めたのは村に大雨が降り続け、不作が続いた頃だった。突然ジューダの育ての親が何者かに殺された。犯人はわかっていた。


 もちろん村人達の仕組んだ事だ。飢えに苦しんだ村人達は手段を選ばなくなり、狂っていき、やがてジューダを、私に捧げてきたのだ。


 ジューダは一度ならまだしも二度も捨てられ、誰も信じられなくなった。


 今は私の中で眠っているこの哀れな子を、守らなければならない。

 三度目の裏切りは、あってはならない‥‥‥


『ふーん、つまらんなぁ。そんな人間の醜さが生んだようなものを守って何になるというのだ?』


『お前ごときにはわかるまい、長い間人間を(ないがし)ろにしてきたお前には』


『お前もやってんじゃねぇか! 村に瘴気をばら撒いて、呪いをかけているじゃないか? これは人間を蔑ろにしてないと言えるのか?』


 呪いは解けるさ、村人が間違いに気付いたその日に。

 間違いに気付いていないから、いつまでも苦しむ。


『ふーん、なら諦めるか』


 ヒュドラの意志の強さを感じた悪魔は、ヒュドラを諦めた。


 その時フッとヴァレリアの意識が戻る。


「あ、私‥‥‥。今‥‥‥」


「誰だお前は! 俺を殺しに来たのか?!」


 突然ジューダの周りを瘴気が蛇のトグロのように取り巻き、ジューダが唸り声を上げる。ジューダがさっきまで大人しかったのは私の中の悪魔とヒュドラが対話していたからだ!


 凍りつくようなその瘴気に、私はガタガタと震える。


 ああ、やはりこんな所に来るべきじゃなかった。


「頼む!! 俺を殺してくれ!!!! こんな風になってまで生きたくはない!!!!」


 まさに絶叫と言える、嗚咽のような魂の叫び。


 一度ならず二度も捨てられ、人身御供にされてしまったジューダの叫び!


 私はいつのまにか泣いていた。私は、何故こんなにも立ち尽くしている!?

 哀れなジューダを前に、救いの手を差し伸べる事も、望み通り殺してあげる事もできない!


 いくら意思を失っているとしても、ジューダは、元は人間で‥‥‥


「できないのか? 何故できない!?」


「わ、私は‥‥‥」


「できないのなら死ねぇ!!」


 ジューダの瘴気に塗れた毒の触手が、私に向かって振り下ろされる!


 ああ私は、どうすれば良かったの??何をどうしたら、この哀れな子を救えたの!?助けられたの?!


「何をしてるんだ!! 危ない!」


 えっ‥‥‥


 まるでスロー再生のように、金色の光が弧を描き!私の前に立ちはだかる!


 ズシャァッ!!


「ウッ‥‥‥!」


 そこにいたのは。私の前に、まるで私を守るかのように立っていたのは。


「レクター‥‥‥王子‥‥‥?」


 王子は肩から手にかけて、大怪我を負っていた。


 ドクンッ!


 その傷を見た時。心臓が跳ね上がった。


「レクター王子!血が!」


 ドクンッ、ドクンッ!


「ハハッ、俺とした事が、少し油断してしまったな」


 照れたように笑う王子の顔が。


「大丈夫か!?怪我はないか!」


 心配そうに見つめるその顔が。


 ドクンドクンドクンッ!


 ゆがんで‥‥‥見、え、な、い‥‥‥


「よくも‥‥‥」


 ドクンドクンドクンッ!!


「よくも‥‥‥王子を‥‥‥」


 お望み通り。


「お望み通り殺してやるよォ!!」


はぇえ?ヴァレリア様はどうなってしまうのぉ??


王子ー!!


ここまでお読みくださってありがとうございます!!




この話が良いと思ったら広告の下にある☆に点を付けて行ってくださいね。良くないと思ったら☆にZEROを付けて行ってくださいね!


ご拝読ありがとうございました。またお読みに来てください。

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