ヴァレリアの過去
前回、アナスタシア(ヴァレリア)達は呪われた村の悍ましい因習を聞き、激怒のままに依頼を断ってしまう
その時アナスタシア(ヴァレリア)の様子が突然おかしくなり....
「ヴァレリア、あの祠に近付いてはいけないよ、魅入られてしまうからね」
ヴァレリアは父アレクセイ・ド・ヴァンディエール侯爵と母ジャンヌ・ド・デティエール侯爵夫人との間に生まれた一人娘である。
(ポンパドゥールは領地)
幼い頃のヴァレリアは、それはそれは美しかった。下々の者達にも優しく、周りにも愛される、心まで綺麗な女の子だった。ヴァレリアが特に気に入っていたのが、侍女のアイシャだった。アイシャは歳もヴァレリアより少し上で、ヴァレリアにとって良き姉、良き友であった。
そんなアイシャには口癖があった。
「お嬢様、お嬢様がどんな時でも、アイシャは側にいますからね」
ヴァレリアが落ち込んでいる時には共に泣き、ヴァレリアが眠れない時にはずっと側にいて子守唄を聴かせて。ヴァレリアがアイシャを笑わせようと変顔をした時には友達のようにゲラゲラと笑った。
楽しかった毎日
喜びに満ち溢れた日々
アイシャがいれば、他には何も欲しくないと思えた。
それが崩壊し、ヴァレリアの心を壊したのは、あの祠がきっかけだった。
まさか、幼い子供特有の興味が、その後の人生にどういう影響を及ぼすか、考えてなどいなかったのだ。
ある暑い夏の日のこと。いつもは侍女のアイシャが側にいるのに、その日は違った。アイシャが少し目を離した時にヴァレリアのお気に入りの帽子が飛ばされてしまった。
私の帽子が!
慌てて帽子を追いかける。
『お嬢様! ヴァレリアお嬢様!』
やっと帽子を捕まえた時、アイシャの私を呼ぶ声が聞こえてきた。返事を返そうとした時、また声が聞こえた。
『ヴァレリア、ヴァレリア』
お父様?? 違う、誰?
『ヴァレリア様ー!ヴァレリアお嬢様!』
あれはアイシャの声?
「はーい、すぐ行くわごめんなさい! お気に入りの帽子が飛ばされちゃったの!」
突然木々がざわめき、悪寒が私の全身を貫いた。
えっ?
『ヴァレリア、こっちへおいで』
声のする方に私は近付いていった。
「誰?」
いつのまにか、私は近付いてはいけないと言われた祠に入ってしまっていた。祠の前には鍵が厳重にかけてあったけど、幼くて小さいからか、私は簡単に入れてしまった。
目の前にドラゴンがいた。
『ヴァレリア、やっと来てくれたんだな。ここは本当、埃臭くて退屈だったよ。お前の家の主は最悪だな。この高貴な俺様をこんな狭い祠に押し込めて、鍵をかけて。うまく手懐ければ守ってやったものを‥‥‥全く不届き者だ』
「むっ、それってお父様のこと?? お父様を悪く言わないで!」
『んー?お前、俺様が怖くないのか?』
「怖くないわ、貴方この祠の主なんでしょ? 近付いちゃダメだって言われてたけど、貴方ってそれほど怖くないわ」
『この祠の主?? ハハハ! お前の家主がそう言ったのか??』
そうだけど、私何か変な事言ってる?
『変な事ではない、間違えているよお前の家主は。俺様は高貴な悪魔「ニーズヘッグ」だ』
「へ?」
『俺様はお前のことが気に入った! お前の体を俺様の宿にしてやる。喜べ』
「や、やめて!悪魔なんて嫌よ!」
『ハハハッ! お前みたいな小娘が、悪魔から逃げられると思っているのか!!』
「いやーーーー!!」
* * *
「ん?」
天井? 私寝ていたの?
バタバタと慌しい足音が聞こえる。
「アイシャ!? アイシャ?」
「お嬢様!? ああ、目が覚めたのですね」
「アイシャは?」
「アイシャは‥‥‥すみません私の口からは」
なんだろう、すごく嫌な予感がする。胸がドキドキする。
「お前の侍女は処刑した」
えっ、お父様‥‥‥今なんと?
「あれほど祠に近づくなと言ったのに、ヴァレリアを一人にした挙句、祠を破壊した。アイシャの不手際だ」
「なんですって?!」
あの祠には自分が近付いて、私が自ら入ったのに!
瞳の色が邪悪な紫の色に変わる!
「きゃあああああ!!」
母が叫んでいる‥‥‥
何を叫ぶ事があるの??
貴方達がアイシャを殺したんでしょ?
ねぇ、私の大切なアイシャを、どうして処刑したのよ! どうして?
ド ウ シ テ !?
ああ、ヴァレリアの、ヴァレリアの綺麗な‥‥‥黒い瞳が‥‥‥
「悪魔の色に!!」
ゴウゴウと、音を立ててヴァレリアの周りを紫の邪気が包む。
許さない、許さないから!
『ヴァァァァァッーーーー!!』
私の中のニーズヘッグが咆哮を上げる!
緋色の髪が逆立ち、まるで炎のように赤く色づく!! ギラギラと紫の瞳が輝く!!
『アハハハハ! 俺様の思った通りだ! 最高だ! この激情! 憤怒! 全てが俺のエネルギーになる!』
気付いたら、私の屋敷中。惨憺たる惨状が広がっていた。
屋敷は炎で燃えていた。父と母はニーズヘッグが逃がして連れてきていた。
『お前らが死ぬと、ヴァレリアが困るからな』
振り向いたヴァレリアは燃えるような緋色の髪を振り乱し、黒かった瞳は紫に変色して、燃え盛る屋敷の炎に照らされてギラギラと輝いていた。
この日、美しく心の綺麗な誰からも愛されていたヴァレリアは死んだ。
『お嬢様、お嬢様がどんな時でも、アイシャは側にいますからね』
「嘘つきアイシャ! どんな時でも側にいるって言ったのに!!」
今よ! 私が側にいて欲しいのは今よ!
どこにいるの!?
早く私を見つけてよ‥‥‥
アイシャ、私のアイシャ!!
「アイシャ、もうどこにもいないのね‥‥‥」
涙を流し、ヴァレリアはその場で倒れた。
『ヴァレリア、困った時は俺様を呼べ、お前を守ってやる』
意識を失う前、ニーズヘッグの声が、聞こえた気がした。
次回はまた入れ替わったアナスタシア様が登場です。
場が二転三転して申し訳ありません。
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