ヴァレリア
場所は変わって、ここはお城の奥‥‥‥
何やら女の苦しむ声が聴こえてきます
その頃、城の奥で苦しむ女が一人。
「ハァハァ、もう、この体は嫌ですわ。‥‥‥もうこうなったら、あいつの力を借りるしか‥‥‥」
何時もいつも、少しの事で高熱が出て‥‥‥。お嬢様方の前に出てもすぐに頭痛がする。何種類も薬を飲み、それでも立っているのがやっとのこの体‥‥‥
王子なら、レクター王子なら! このアナスタシアの病弱な体を心配して、すぐ訪ねてくださると思っていたのに!
何時もいつも、王子の訪れを待っていた! 待っていたのに。何故、王子は私の元を訪ねてこない!?
きっかけは下女の噂話だった。この噂話で、一気に私は不安になったのよ!
「最近王子は、城を出たヴァレリア様にご執心だと聞いたわ」
「ええ? 王子はヴァレリア様の事がお嫌いだったのではなかったの?!」
「私もそう思っていたの、でも何故か王子はしょっちゅうお城を抜け出してはヴァレリア様を探しているみたいよ、何故かはわからないけど」
(どういうこと??)
私は重い体を引きずり、部屋にある手鏡を見た。
「アナスタシア‥‥‥」
そこに映っていたのは黒髪に黒い瞳のアナスタシア。でも何故か、前までの輝きがない!そこに映っているのは、日に焼け、肌荒れをした、髪に艶もない、瞳にも覇気がない。今にも死んでしまいそうなアナスタシアだった。
思わず手鏡を落とす。
「そ、そんなァァ!! 嘘よ! 嘘よ! こんなのが私だなんて、アナスタシアだなんて!」
こんな醜い見た目では、王子が逢いに来てくれるはずがない!! こ、こんなはずでは。私は「アナスタシア」になって、誰もが祝福するレクター王子の花嫁になる予定だったのに!!
『ヴァレリア、困った時は俺様を呼べ、お前を守ってやる』
ハッとする。
そうだ、そうだよ。
まだ私にはとっておきの『ヤツ』がいるじゃない!
アナスタシアは重い体を引きずり、怪しい儀式に使われる部屋に入って行った。
ここで入れ替わりの呪術を行ったのよ。表向きは私専用の礼拝堂だから怪しまれる事もない‥‥‥
誰もいない事を確認し、アナスタシアは蝋燭に火を灯す。
「悪魔、私の悪魔。いるんでしょう?」
シーン‥‥‥
礼拝堂には耳が痛くなるほどの静寂が流れている。
「?? 答えなさい悪魔!」
静まり返る礼拝堂。彫刻の聖女エウラリアが、こちらを静かに眺めている。
「何よ! 何見てるのよ!」
所詮紛い物よ!何が聖女よ!今は貴女はお呼びじゃないのよ。
「ねえ!答えなさい悪魔! あの時契約をしたでしょ!」
その時、アナスタシアはある事実に気付いた。
まさか‥‥‥
悪魔が、いない!? アナスタシアと入れ替わった時に、悪魔も入れ替わったというの?
そういえばこの顔。この瞳、紫でもなんでもない真っ黒な瞳! 最初はこの真っ黒な瞳に憧れていたけど、感情が昂っても、紫に染まる気配もない。
思えば‥‥‥アナスタシアと入れ替わったあの時からずっと真っ黒な瞳。光を反射しても、涙を流しても、この黒曜石のような瞳は何一つ揺らぐ事がない。
まさか、入れ替わりの呪いをかけた時に悪魔も??
何、何なのこの不平等さは。鏡には輝きを失った気品の欠片もないアナスタシアだった誰かがいるだけ。
おまけに最後の頼みの綱の悪魔まで‥‥‥
「アアアアアーーーーッ!!」
絶叫してアナスタシアは倒れてしまった。
わわわわ何やらすごい事を聞いてしまった気がする。
まさかヴァレリア様に悪魔が??
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