本物だったから?それとも。
4人が泊まっていた宿に突然窓ガラスを割って入ってきたレクター王子は、アナスタシア(ヴァレリア)を無言で攫っていくのだった。
ユーリをヴァレリア達が仲間に迎えて少し後‥‥‥バルカ城にて。
「さあさあ、王子新しい書類ですよ。それに目を通してサインしておいてください、それから今日の予定ですが、オーギュスト様のお城で‥‥‥」
レクターから返事がない。
机の上には『ヴァレリアを探しに行く、今日の予定はそちらで何とかしてくれ』と置き手紙があった。
「へ?」
まさかと思ってシリウスが王子の椅子をこちら側に寄せて見ると、そこには王子のカツラを被った案山子が座っていた。
「王子ィィィィィィ!!」
シリウスの絶叫が城中にこだました。
一方その頃、私達の泊まっていた宿の窓ガラスを割って入って私を攫った王子はどこへ行くとも言わず私を抱えたまま疾走していた。
王子の足のあまりの速さに私は王子の体にしがみつくしかできなかった。
やっと王子が歩を緩めた。私を抱えたままで‥‥‥段々と腹が立ってきた私は王子に向かって声を上げた。
「ちょっ、ちょっと王子! 下ろしてください! それにどこへ連れて行くんですか!? どこへ連れて行っても私は仲間のところへ戻りますよ!」
そう言うと王子の足がピタリと止まった。
「お前、あんな危険な男がいる所へ戻るのか?」
「アレクは危険じゃないですよ! 全然危険じゃないです!寧ろ王子の方が今は危険人物ですよ」
「何?」
(アレクっていうのか、アイツ)
「王子は何を考えているのかわかりませんし、いまいち目的もわかりません! 今日だっていきなり現れて何しに来たんですか?? お城は? 政務は? 謎がめっちゃ多いんです王子は! 王子の事をあまり知らない庶民にとっては王子の方が不審者ですよ!」
王子の腕の中で私は顔を背け、怒った様子でふんぞり返った。
「‥‥‥すまん」
「えっ?」
意外にも王子の口をついて出た言葉は謝罪だった。その王子の意外な言葉に私は変な声が出た。
「あの後城に戻ったはいいが、お前の事が気になって、また様子を見に来てしまった。そしてお前が泊まっている宿を見つけて。お前が、男に襲われていると思って‥‥‥つい、頭に血が昇って」
それって私を心配してくれたって事?
「それならそうと言ってくださいよ! いきなり窓を割って現れて、殺気を振りまいて! 私達の中で王子の好感度はダダ下がりですよ! ここはお城じゃないのですから、自分の意思で言葉を伝えないとわかりません。シリウスがいるわけじゃないのですから!」
そう言って王子の両頬をつねる。
王子はポカンとしている。
「びっくりしましたか? これはお返しです、最初にびっくりさせたのは王子の方なのですから」
私は怒った様子はそのままに続けた。
「それに、ここはお城ではないのです。王子を守ってくれる衛兵もシリウスもいな‥‥‥ぅ」
私が言い終わらないうちに王子が私の唇を奪った!
「また‥‥‥!!」
王子はしまったという感じで自分の口を抑えた。
「すまん、お前の言葉が。あまりにも可愛いくて‥‥‥」
は‥‥‥
はぁぁぁぁぁぁ!?
「ど、どこが可愛いんですか!? 私は怒っているんですよ!?//」
「ははっ、可愛いな」
そう言って王子はまた私の顔中にキスの雨を降らす。
(今まで俺にこんな剥き出しの感情をぶつけて来る女はいなかった。いつもどこか怯えて、俺の顔色を伺って、自分の立場を失う事に怯えて、本音で話す者などどこにもいなかった)
「ぶべらっ!」
私は王子の顔を思い切り退けた。
「もう! いい加減にしてください! いくら王子でも我儘は許しません! まずは今までの数々の非礼を反省してください! ここはお城ではないのですから」
「どうすればいいのだ?」
「‥‥‥お城に戻るつもりなら私達には二度と関わらないでください。政務に専念して下さい! そして一刻も早く婚約者を決めて、結婚をしてより立場を強固なものにして下さいませ。それが王子としての役割だと思います」
「城に戻ったら、もうお前には会えないのか?」
「そうですよ。私は婚約破棄をされた身で、もう侯爵家‥‥‥は一応ありますけど、肩書きだけですわ! もう今はただの『ヴァレリア』なのですから」
何故か今も毎日のようにヴァレリア様のお父様からお金が送られてくるけど。
「その話は白紙に戻すと言っただろう」
王子が私の顔を覗き込んで言う。いつのまにか瞳が金色に変わっている?うう、この目、苦手だわ。
「ぅっ、でも一度は、王子は了承しましたわ! 私はこの耳で確かに聞きましたもの!」
「どうすれば良い? 俺もお前と共にいたい」
今、わかった。
「えっ」
妙な気分だ。俺は、ヴァレリアの事は嫌いだった。
どうでもいい女の一人だった。だが‥‥‥
こんな風に、立場も身分も構わず俺に接してきたのはヴァレリアだけだ。
「どうやら俺は、お前に心を奪われたようだ」
そう言って王子は私の手を引き、王子の胸に当てた。
ドクドクと、心臓の高鳴りが聞こえる。
「あ、王子の心臓が‥‥‥」
そう言うと、王子と目が合った。
「こんなに心を揺さぶられたのはお前が初めてだ」
また唇を奪おうとするので慌てて手で防いだ。
「まっ、まだ私には、王子の気持ちはわかりませんわ! それにこういう事は! 好いたもの同士がすることです!」
「ははは、ではどうすれば分かってくれるのだ?」
王子は愉快そうに私を抱きしめた。
「‥‥‥。そ、れは‥‥‥」
気付いたら私の心臓も高鳴っていた。何故?私はまだ王子の事、好きか嫌いかもわからないのに‥‥‥
王子の胸の高鳴りが、本物だったから?それとも‥‥‥
王子はどうやってアナスタシア(ヴァレリア)様の居場所を突き止めたんですかねぇ
シリウス可哀想(笑)
無自覚両片想いっていいですよね!
一番推せます(結局好き)
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