アデルの装備ほぼ上裸問題
アデルの話を聞いて、一瞬で病気が治るという「青い薔薇」を探しにアデルについて行った一行。だがそこは‥‥‥
「この山なのか? アデルが探している『青い薔薇』が生えている場所ってのは?」
俺はアデルの案内でたどり着いたヴァナルカンドを助けた時の山よりもずっと高い雪山を見てため息を吐いた。
俺は良いが、何しろこの山は寒そうだな。これはコンスタン(王子の愛馬)始め馬は使えそうにないな。それにアデルは予想通り魔法も使えない。目標のためなら少々の怪我でも突っ込むバカだ。いや、理由が理由だけに一概にそうとは言えんが‥‥‥
「お前、アデルよ。こんな氷山に、そんな装備で行ったのか? 自ら死にに行くようなもんだ。仕方ない。一旦街に戻ってアデルの装備を整えるぞ」
アデルはマントの下はほぼ何も身につけてない状態だった。武器も簡易的な短剣しか持っていない。恐らく『青い薔薇』を摘むために使う予定なのだろう。
「あ‥‥‥。す、すまない。考えていなかった。ルエラを助けたい、俺も時間がない。ので頭がいっぱいで‥‥‥」
『ハハハ! まあそんな切羽詰まってたら我が身の事は後回しになるわな! 俺も大戦の時は逃げて隠れるのに精一杯だったからな。まぁ王子の言う通り、その装備じゃ凍死一直線だ。街に戻るぜ〜、ついでにパーティーも見直すとするか』
王子? このとんでもないオーラを放つ男は王子なのか?
「まぁニーズ! いつのまにか仕切るようになっちゃって! 可愛いわね」
『いやいや誰でも分かる事だろ!怒 ヴァーリャが鈍すぎるの!!』
「それにしても久しぶりですわねぇこの感覚! 冒険っぽい冒険をするのは久しぶりよ!」
ヴァレリアだけがウッキウキだった。まぁ、このヴァレリアの持つ空気感で俺たちが和むのはいい事だな。
* * *
お店にてーーーー
「アデル、早く選べよ。何せお前には時間がないんだからな。金の心配はするな」
王子はいつのまにか道具屋を貸し切りにしていた。余計な客がいて時間がかかるのが嫌だったのだ。貸し切りにするために王子に渡されていた額は相当なものだった。店員はそのせいか上機嫌だった。
「まぁ〜、このぬいぐるみ可愛いですわ! ニーズヘッグにそっくり!」
ヴァレリアはニーズヘッグにそっくりなぬいぐるみを抱いてはしゃいでいた。
『おん? 俺様そんな太ってないだろ?』
俺は頭を抱えた。何を選んで良いかわからない様子でオロオロするアデルと、ひたすら楽しそうなヴァレリアとニーズヘッグ。
俺がこのひたすらにめんどくさい状況をどうしようかと思っていた時、道具屋の扉が開いた。
「お嬢様、遅れてすみません。セクメトがぐずってなかなか離してくれなくて。やっと寝たのであとはセトに任せてきましたわ。ん、あちらの方ですか? 新たなメンバーというのは。貴方だったのね!」
エリーが来た。ニーズヘッグにアデルが怪我した時の回復役として招集されたのだ。
アデルの事はニーズヘッグに説明されて大体の事はわかっていたらしい。
「まぁ貴方まだそんな格好でいたんですか?? そんな格好でいればどこを怪我してなくても風邪をひきますわ。ほらこれとこれ、貴方は細身ですからサイズはこれでいいわね! 着てきてください!」
たちまちエリーがテキパキとアデルの装備を持ってきて有無を言わさず試着室に追い込んでしまった。
「あ、あの‥‥‥。俺は、そ」
何か言いかけたアデルの言葉を、エリーがシャッと試着室のカーテンを引いて無視した。
「口下手な男はセトで充分ですわ。付き合っていると日が暮れますのでね」
ははは、とそう言ってエリーが笑う。セトも戦士だったな。俺たちの前では饒舌なのだが、エリーの前では違うのだろうか?
「まぁお嬢様! いけませんわそんな危険な重装備! 重くて動くどころではありませんわ」
エリーの視線の先には重装備に身を包もうとするヴァレリアがいた。あいつまだあんな重装備にこだわってたのか。そんなに欲しいか? 重いのもそうだが、絶対似合わないと思うぞ。
「この甲冑がいかにも戦士って感じで良いのですわ! 一度でいいから着てみたいの!」
「いけません! お嬢様がもしお怪我をしたら危険です! 危ないですから脱いでください! あと申し訳ありませんがお嬢様には似合っていませんわ」
「え〜? 似合わないのかぁ残念」
エリーにそう言われて、ヴァレリアがしぶしぶ重装備を脱ぎ始めた時‥‥‥
シャ‥‥‥。と試着を終えたらしいアデルが控えめにカーテンを開けた。装備は見えず、アデルの眼帯の半顔だけが試着室から覗き、控えめに言って不気味だ。
「あら! 着ました? 見せてちょうだい」
シャッ!!
「おお、だいぶマシになったんじゃないか?」
アデルは皮でできた服の上に鎧を着け、同じく皮製のズボン。ベルトには花を摘むための短剣と、長剣が何本か刺さっていた。それに皮製の編み込みブーツ。
頭部はフードとマントとマフラーが一体型になっている。そのマントを翻してアデルは立っていた。
「こ、こんなあったかい装備は着た事がない。皮なんて‥‥‥。俺が用意できたのはせいぜい麻くらいで‥‥‥」
アデルは目をキラキラさせて装備を触りながら感動していた。
『ははは! 王子のおかげだな!』
王子‥‥‥。そうだ、聞きたかった事があったんだ。思えばこの凄まじいオーラの男性と、同じく凄まじいオーラを感じる「お嬢様」と呼ばれている紫の瞳の美しい女性‥‥‥。
この二人は何者なんだ?
それに、このドラゴン‥‥‥
アデルの視線に何か気付いたニーズヘッグが、改めて一人一人の紹介をし始めた。
『そういえば挨拶がまだだったな! 今更だけど紹介してやるよ! そっちの仏頂面の青い瞳の男はレクター。この国の王子だ。その隣の見るからに世間知らずなお嬢様はヴァレリア。紫の瞳が綺麗だろう? ヴァレリアは王子の婚約者なんだぜ。そしてそのお嬢様の女中がエリーザベト」
えっ? えっ? 待ってくれ?
レクター? この国の王子? 婚約者?
『そしてラスト! 俺様はニーズヘッグ。ヴァーリャの守り神であり、ヴァーリャとは契約しており、ヴァーリャが死ねば俺様も死ぬ! つまり俺様がこの中で一番重要なポジション(立ち位置)ってわけだ!! ガハハハ! 改めてよろしくな! アデル!』
えっえっ? 待ってくれ? このドラゴン今サラッと怖い事言わなかったか? このドラゴンとあの美しい女性、どちらかが死んだら死ぬって‥‥‥
結構重い話じゃないか? 何故、何故そんな重い宿命を背負っているのにこの美しい女性とこのドラゴンは楽しそうにしてるんだ!?
あの美しい人は、ヴァレリアというのか。
眩しい‥‥‥。ヴァレリアの底抜けに明るく、周りを太陽のような光で包み込むような輝きが。
重い境遇にありながら、俺とは全く違う。
『お前たちを産んだせいでグレースは死んだ!』
俺の頭に父アーサーの言葉がこだまする。
あの時からずっと閉ざしてしまっていた俺の心。
俺が最後に心から笑ったのはいつだっただろう? もう忘れてしまった‥‥‥。それほど自分の事はどうでもよかった。
だが今初めて、俺もこの美しい女性のように、心から笑いたいと思った。
アデルの装備整えるだけの話で終わってしまった。汗
まぁ自己紹介もお互い(雑だけど)済んだ事だし気を取り直してもう一度雪山にチャレンジだ!!
果たしてアデルが心の底から笑える日が来るのか!?笑って欲しいですね。
ここまでお読みくださってありがとうございました!