謎の隻眼の男
赤ちゃんに退行してしまったセクメトをエリーがあやし、セクメトは寝落ちしてしまった。
徐々に賑やかになる酒場。と、そこへ‥‥‥
※今回も短めです!
酒場は徐々に賑わっていった。
私はというと、まだレクターの膝の上に座っていた。
「レクター、そろそろ離してくれません? 私喉が渇きましたわ」
私がそう言うとレクターは無言で指先から光を出し、光を操って棚からソフトドリンクを用意して私の前に出してきた。
はぁ?! どういう事!? もうセクメトはエリーと一緒にどこかへ行ったというのに!
「あのねぇ! レクター!」
「ははは、どうやら王子様はよほどお嬢様を離したくないようだよ。セクメト以外にも、絡んでくるヤツはどこにでもいるからな。特にお嬢様は目立つから、王子様はそれが心配なんだろう」
オシリスさんがカウンターに戻って来てそう言う。
「そうなんですか?」
でも私以外にも素敵なお嬢様もいらっしゃるのに‥‥‥。私は髪も短いし、赤毛だし、まぁヴァレリア様が美しい事は否定しませんけどね‥‥‥
その時ドアの鐘がチリンチリンと鳴り、来客を知らせる。
「あ‥‥‥」
私は思わず声を出していた。入ってきたお客の方が、あまり見慣れない風貌だったからだ。
お客の方は長いボサボサの黒髪に伏し目がちな‥‥‥。これまた背の高い男だった(レクターやらセト達よりは低いけど)。何歳くらいかしら? 黒いコートだけを羽織っており、ほとんど半裸の身体中にはいくつもの傷跡が痛々しく残っている。何より血のような赤い目と、片目に眼帯をつけているのが印象的だった。
「お客さん、何か飲まれますか?」
「何か適当なのを頼む」
眼帯の男はそう言って私たちの隣に座った。よく見ると、かなり疲れている様子だった。
「あの、大丈夫ですか? その傷‥‥‥」
私は思わず眼帯男に話しかけていた。傷の中には完全に跡に残って肌に同化しているものもあれば、まだ新しい傷があるのを見てしまったからだ。
「おい‥‥‥」
レクターが私の腕を引き、首を横に振る。《関わるな》と言っているようだ。
「だって、血が出てますわ」
私はそう言うと、懐に入れていたハンカチを眼帯男に渡した。
「これ使ってください。あ! 未使用ですから汚くないですよ! 返さなくても大丈夫ですから!」
私がそう言って眼帯男を見ると、眼帯男は見える方の目を見開いてこちらを見ていた。
(あっ、ああああ私ったらまた悪い癖が出てしまったわ! でもほっとけなかったの! だって少しとはいえ流血してるんですもの!)
それにしてもこの方、見れば見るほどずいぶんと顔色が悪いですわね。
「これ‥‥‥。もらっていいのか? こんな上等の‥‥‥。布を」
男は重い口を開けてそれだけ呟いた。耳触りの良い、低くて優しい声だった。私はニッコリと笑って頷く。
「ありがとう」
男はそう言って早速傷にハンカチを当てた。白い布にみるみる血が滲む。えっ? 本当に大丈夫なのかしらこの方??
オシリスさんがいち早く気付いて焦ったように口を開いた!
「お客さん! いけない。そんな傷でお酒なんか飲んだら痛みが強くなっちまう。ここで休むか? 一応この店の上が簡易宿になってるんだけど」
眼帯男は怪我とオシリスさんの顔を行ったり来たり見て困ったように黙っている。
「オシリスさんそれいい提案ですわ! 眼帯男さんお代の事でしたら心配しなくて大丈夫! きっとすごく大きな魔物と戦ってきてお疲れなのでしょう?」
「ヴァレリア!」
レクターがガチギレして私の名を呼ぶ。私はそれを無視した。眼帯男はまた私の方を見た。今度は真正面から‥‥‥
「ヴァレリア‥‥‥。というのが、貴女の名前‥‥‥。俺は、アデル‥‥‥。妹を」
アデルはそう言いかけてバタンと倒れてしまった!
な、何者なんだ??この赤眼の男は‥‥‥
そしてヴァレリア様は何があるかわからないのに見ず知らずの人に話しかけててワロタ。
まぁ自分にもニーズヘッグがいたりレクターがいたりするので‥‥‥。あれ?ヴァレリア様は元々その辺の危機感がちょっとアレでしたよね?まだ直ってな(以下略
ここまでお読みくださってありがとうございました!
*アデルの名前とデザインに協力してくれたTさん、ありがとうございます!