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ヴァレリアとアナスタシア  作者: 杉野仁美
第三章 セト達の秘密
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第三章完結・何度生まれ変わっても

雪合戦をしこたま楽しんだレクターとヴァレリア。

ヴァレリアは疲れたのか唐突に眠ってしまうのだった。

 雪合戦をしこたま楽しんだあと、ヴァレリアは急に眠気が来たのでニーズと一緒に寝室で眠っていた。


 ニーズが暖炉に木を追加して部屋を温めてくれてたんだな。ヴァレリアの部屋は暖かかった。


 俺は眠くないし、階下のリビングで法律学の本でも読もう。一応王子なのだし。めんどくさいが。一応王子なのだし。はぁ‥‥‥。俺もセト達のように王位を捨てられる事ができたらなぁ。


「うーん。レ、レクター‥‥‥」


 ん?


 ヴァレリアの方を見ると、顔を少しあげてポロポロと涙を流していた。


「ヴァーリャ! どうした? どこか痛むのか?」


 俺は慌ててヴァレリアの側に駆け寄る。


「ヴァーリャ、大丈夫か?」


「レクター、私貴方に側にいて欲しいわ。なんだかとても寂しいの。またあの夢を見るかもしれないの。私があの炎の壁に閉じ込められる夢よ‥‥‥。その時はまたいつものようにレクターが助けてね」


 いつも私が助けて欲しい時に、いつも側にいてくれるレクター。


「私を助けて」


 涙をポロポロと溢しながら助けてと懇願してくるヴァレリア。夢の中のヴァレリアを助ける? おかしな事を言う。ヴァレリアは寝ぼけているのだろうか?


『この時期のヴァーリャは不安定なんだ。どうせまたその不安定さから来る戯言(たわごと)だから、王子はそんな顔する必要ないぜ』


 ヴァレリアと寝ていたはずのニーズがいつのまにか俺の側に来て耳打ちしてきた。


 戯言か‥‥‥。でもヴァーリャは悪夢に苦しんでいるんだよな。やれるか分からないが。俺とレーヴァテインの力ならもしかするとできるかもしれんな。


【いつも私が助けて欲しい時に、いつも側にいてくれるレクター】


『お、おい正気か王子? ヴァーリャの夢の中に入るなんてできるのか?!』


「ああ、できるかどうかわからないが、やってみるよ。ニーズヘッグ、俺の体を頼む」


『おん? どういう意味‥‥‥』


 王子がそういうと、糸が切れた人形のように王子の体が寝ているヴァレリアの上にバタンと覆い被さった‥‥‥。と、そんな事はなかった。


 ニーズヘッグがすんでのところでレクターの体を止めていた。


『うぐぐぐ‥‥‥。頼むってこういう事かよ! おもっ、王子でかいし重い!!』


 * * *


 〜ヴァレリアの夢の中〜


「ここがヴァレリアの夢か?」


 ヴァレリアの夢は妙にリアルだった。荒廃した土地に、どんよりとした天気。どこもかしこも岩だらけの道。まるで来るものを拒んでいるかのようだ。


「助けて!」


 えっ‥‥‥


 ヴァレリアと同じ声がする。確かに「助けて」と。まさか本当に閉じ込められているのか? 炎の壁に。


 どうしようか‥‥‥。ヴァレリアがどこにいるのかわからない限り、うかつに魔法は使えないし。


 俺は研ぎ澄まされた剣のような岩を前に立ち尽くしていた。


 その時俺の中の魔剣レーヴァテインがいつのまにか俺の腰にて光を放っていた。


(ヴァレリアの夢の中では、魔剣が使えるのか? これはいいな)


 俺は来るものを拒むかのように(そび)え立つ岩を魔剣レーヴァテインで切り開き、道を作った。


「あつッ‥‥‥!」


 そこにそれはあった。


 今までの険しい道とは比べものにならない。まさに炎の壁と言った表現が正しい。均一性を保った炎が何かを囲んで、まるで何かしら意思を持っているかのように、火を絶やす事なく延々と燃えている。


「ここにヴァレリアが?」


「誰? 誰かいるの?」


 炎の内側からヴァレリアの声が聞こえる。やはりヴァレリアの言う通り、炎の壁に閉じ込められているのだ!


「ヴァーリャ、安心しろ。レクターだ、お前を助けに来た」


「レクター?」


 ヴァレリアの声が聞こえたその時一瞬炎が揺らいだ。


 俺は見た。炎の中に捕らえられたヴァレリアを。


 いや、この姿はアナスタシアだ! 長い黒髪に黒い瞳。間違いない、捕らえられているのはアナスタシアと入れ替わる前のヴァレリアだ!


 アナスタシアは昔はヴァレリアと同じく黒い瞳だったと聞く。ニーズヘッグの祠に行って、ニーズヘッグと契約してから紫の瞳になったのだと。


 大丈夫なのか?? ここでヴァレリアを救うのは俺にとって容易い。だがニーズヘッグは? 俺がヴァレリアをこの場で助けたとしたら、現実世界のニーズヘッグはどうなるんだ?


 今ここでヴァレリアを助けたら、夢の中とはいえ、現実世界を変えてしまう事にはならないのか?


【ニーズヘッグはもう私の一部なの。家族なの。ニーズは私のために悲しんでくれる、ニーズは私の喜びを自分の事の様に喜んでくれる! 私とニーズは一心同体なの】


 俺は前にヴァレリアがニーズヘッグの事について話していた事を思い出していた。


 だが今俺の目の前にいるヴァレリアはアナスタシアの姿だ!


 黒髪に黒い瞳のアナスタシア。


 だがその瞳の輝きは、俺に助けを求めながらも、意思の強い。


「ヴァレリア」の瞳だ。


 一か八か‥‥‥。


「頼んできたのは【今の】ヴァレリアだからな。何か意味があるのかもしれない!」


 バサッ!!


 俺は炎の壁を思い切り魔剣で薙ぐように払った。いくらレーヴァテインが魔剣といえど、剣を振るったところで炎の壁がどうとなるとは考えていない。この炎の壁は人智を超えた強力な魔力が宿っている。


 剣で風を起こし、炎が揺らいだ時に俺の魔法で炎に穴を開けて、中にいるヴァレリアを助けるのだ。


「集約された核膜(レウニール)!」


 ボッ! と音を立てて炎に穴が開く。俺はその穴にすかさず腕を伸ばす!


「ヴァレリア急げ! レウニールの効果より、穴が閉じる速度の方が早い!」


「レクター!!」


 ヴァレリアは俺に手を伸ばした! 俺はその手を取り、炎の壁が閉じるギリギリでヴァレリアを救出できた。


「はははっ! なんとかなるもんだな! どうだヴァーリャ、たとえ夢の中でも火の中でも俺はヴァーリャを助けられただろう?」


「レクター、ありがとう」


 えっ?


 ヴァレリアはいつのまにか、見慣れたいつものヴァレリアに戻っていた。緋色の髪。炎の壁と相まって燃えているように見える。


 でも瞳は黒いままだ。


 まさか‥‥‥。戻らないのか? ニーズヘッグは?! 俺はサーッと顔から血の気が引くのを感じた。


「レクターありがとう。私とニーズヘッグを救ってくれて。でも私とニーズヘッグが出会うのは、まだまだ先なの」


 ??? 何を言っているのだ? このヴァレリアは?


「私はヴァルキリアのヴァレリア。正確な名前は『ダルヒルデ』ずっと昔、前世でのヴァレリアの名前よ。ごめんなさい。驚いたでしょ? でも安心してね、必ず貴方の愛するヴァレリアに戻って、私は貴方に出会うから」


 そう言っていたずらっ子のように笑うと、ダルヒルデは自分の黒い瞳を指さした。


 ダルヒルデにはもう分かっているのか。いずれニーズヘッグと出会い、契約して、自分の瞳が紫になる事を。俺はその様子にホッと胸を撫で下ろした。先程までの全身が凍るような寒気はもう感じなかった。


(では。アナスタシアとヴァレリアが入れ替わるのも、わかっているのか? ダルヒルデは‥‥‥?)


 俺は何も言わずダルヒルデを見た。何かに気付いたようにダルヒルデは口を開く。


「そうね。私にはわかっていたわ。アナスタシアとヴァレリアが入れ替わった事も。ヴァレリアの心が弱く、アナスタシアの美しさに嫉妬し、呪いをかけた事も。全て、あるべきところに収まるため。あるべきところというのは‥‥‥」


 ダルヒルデは言いかけてやめた。いやそこ一番気になるところなんですが?


 ダルヒルデはしばらく俺の顔を見つめ、俺の頬にそっと触れた。夢の中だからか、体温は感じなかった。


「でも私は何度生まれ変わっても、誰に生まれ変わろうと、貴方を愛するわ。レクター。それだけは真実よ‥‥‥」


 ダルヒルデはそう言って微笑んだ。俺はその微笑みに顔が熱くなっていくのを感じた。瞳は黒いのに、その微笑みはヴァレリアそのものだった。


「ダンテ!」


 ダルヒルデが手をあげると、ダルヒルデは重装な装備にその身を包み、どこからか青色の美しい立て髪を持った馬が現れた。ダルヒルデはその馬に跨り、槍を携えた。


 いつのまにかダルヒルデの周りにはたくさんのダルヒルデと同じ装備をした女性が囲んでいた。


「レクターありがとう。ダルヒルデを救ってくれて。ダルヒルデ‥‥‥。ヴァレリアはいつかまた新たな争いが起きた時、世界を救う存在になるだろう」


 ダルヒルデの仲間の一人が俺に言い放つ。世界を救う? どういう意味だ?


「行くぞ!」


 ダルヒルデがそう(げき)を飛ばす。取り巻きの女性たちは素直にその指示に従い、どこかへ行ってしまった。


 * * *


『おー! 気がついたか王子? その様子じゃ救助に成功したみたいだな! おめでと〜』


 ニーズヘッグの声が聞こえる?! 俺はいつのまにかヴァレリアの隣りに寝かされていた。


『エリーも帰って来て一緒に食事を作ったところだぜ! ヴァーリャはまだ起きないけど、そろそろ降りて晩飯を‥‥‥』


 俺はたまらなくなってニーズヘッグを抱きしめていた! ニーズヘッグ! 生きている!


『ななななんだテメー!!// 王子! 普通こんな時はヴァーリャだろうが!!』


 わかってる、わかっているが‥‥‥。ニーズヘッグに出会わなければ、今のヴァレリアにも出会えなかった。出会ったきっかけが何であれ、すごく嬉しいのだ。


「ありがとう、ニーズヘッグ。生きていてくれて」


『だからそれはヴァーリャにやれよ! もーなんなんだよ!』


 口では嫌がりながらも、特にニーズヘッグは抵抗を見せなかった。


 俺は眠っているヴァレリアを見た。心なしか安心しているように見える。


【でも私は何度生まれ変わっても、誰に生まれ変わろうと、貴方を愛するわ。レクター。それだけは真実よ‥‥‥】


 何度生まれ変わっても、誰に生まれ変わろうと‥‥‥


 それは俺も一緒だよ。ヴァレリア。


 俺はそう呟いてヴァレリアの頬にそっと口付けた。




おおおいダルヒルデ!!あるべきところって何だよ!

私と王子と読者様が知りたいのはその部分!


第三章はセトたち兄弟の関係をメインに進行させてもらいました!セトの兄弟の説明の部分が自分でもどう説明したらいいか分からなくてセトと一緒に悩みました笑


ここまでお読みくださってありがとうございました!



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