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ヴァレリアとアナスタシア  作者: 杉野仁美
第三章 セト達の秘密
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フランシスの静かな怒り

前回フランシスの魔力と知恵を頼って、フランシスを蘇らせ(入れ替わったともいう)たユーリ。フランシスはとりあえずセクメトの話を聞くのだった。

「やぁこんにちは。僕はフランシス。ユーリの父親だよ」


 突然煙の中から現れたユーリの父親と名乗る男に、オシリスとホルスはポカンと口を開け、セクメトはくつわをはめられたままで目を見開いていた。


「ははは、ユーリには参ったなぁ。僕の魔力を買い被りすぎだ。僕は(よみがえ)ったと言っても本当は死んでいるのに」


 ユーリと同じ紺色の髪に紺色の瞳、髪型はインテリ系の短髪で前髪は横に流れている。ちょっと癖っ毛が入っており、前髪は流れているのでユーリのように目隠れではなく、服はユーリと同じで黒い。


 オシリスたちが呆気に取られているのをガン無視して、フランシスはまっすぐにセクメトの方へと向かう。


(ユーリのお父さん? 今ユーリが唱えていた魔法で召喚したのかな?)


 オシリスはホルスを自分の後ろにやりながら、静観することに決めた。


(ユーリのお父さんなら、セクメトでもなんとかしてくれるのか?)


「へぇ、君が問題児のセクメト君かぁ」


 フランシスはそう言うとセクメトの顔をまじまじと見た。


「ふぁっ! ふぁんふぁひょ!(なっ! なんだよ!)」


「綺麗な化粧だね。それにこの装飾、この国では見たことない。珍しい」


 そっとセクメトの顔に触れ、緑の瞳から涙のように引かれている線(化粧)をなぞる。そこでフランシスが何かに気付いたように口を開いた。


「ふーむ。セクメト君、君はなんだかんだ言いながらここを離れたくはないようだね。お兄ちゃん二人に会えて余程嬉しいんだね」


 フランシスの言葉を受け、途端に顔が真っ赤になり、バタバタと暴れるセクメト。


「おや、何か言いたいのかな? えい!」


 フランシスは杖を使って、セクメトの口にはめられていたくつわを取り除いてしまった。オシリスが「あっ」と小さな声をあげた。


「お、お前ば誰っさ!? ユーリ!? 余計な事言うんじゃなかっさ!」


「余計な事?」


「そ、その‥‥‥。にいちゃん達と会えて嬉しい、とか‥‥‥//」


「ああ、その事? 別に恥じる必要はないんじゃないかな?オシリス君達も、なんだかんだで君の事をわかってくれているようだし」


(なんだ? 何を話しているんだ? フランシスと言ったか。あのセクメトが大人しく話を聞くなんて‥‥‥。ユーリの時は悪態をつきまくってたのが嘘みたいだ。ユーリのお父さん? は一体何者なんだ? セクメトの巨体を前に、あんな近くで話しているし‥‥‥)


 オシリスは一人でハラハラしていた。拘束しているとはいえ、いつセクメトが暴れるか分かったもんじゃないのにと。


「じゃあなんでこがん事、俺を縛ったりするっちゃ? 他の兄弟達にはこがん事せんば、しないのに」


 セクメトは故郷の言葉で話しているのが恥ずかしくなったのか、急に普通の話し方に戻した。


 可愛いかったのに‥‥‥


「それは君が暴れるからだよ」


「じゃあ暴れんかったら、暴れなかったら! 俺は故郷に帰らなくてよか? ですか?」


「うーん、それはこれからの君次第だけど。可能性はあるかな? オシリス君に聞いてみるよ、ねえオシリス君」


「は、はい!」


 オシリスがホルスをさらに自分の背中にやりながら答えた。


「もしセクメト君がここに居たいと言ったらどうする? 少し話してみたけど、セクメト君はすごく反省しているようだよ」


 オシリスが間髪入れず答えた。


「いえ、それはいくらセクメトが弟でも無理です。セクメトはアホで馬鹿で、どうしようもない奴なんです。それに、俺たち兄弟だけじゃなく他の人にも迷惑をかけるに決まってます。現にお嬢様も襲いかけてます。そんな事をしておいて、この国の住人に受け入れられるはずがない」


 セクメトがオシリスの言葉を受けて再び暴れ始めた!


「なっ、なんやっそい!! オシリス! お前そがんホルスばっか庇いよって! 大体お嬢様って誰っさ! 俺は襲った記憶なんて‥‥‥。あ! もしかしてあの紫の瞳の女!?」


 それを聞いてフランシスがセクメトの動きを止めた。


「お前今何と言った? 紫の瞳?」


 紫の瞳‥‥‥。ガルシアの息子の婚約者のヴァレリア様の事だ!!


 僕はこの目で見た。スズメバチに変身してしまったシリウスを、あのように‥‥‥


 あの時、皆恐れて触れなかった中で、ヴァレリア様は優しさと愛だけをたずさえてシリウス君を助けた。


【「シリウス君を助けたい、その一心だけで彼に触れたんだ‥‥‥。なかなか出来ることじゃないよ!」


 僕は、ヴァレリア様の勇気ある行動に、忘れかけていた何かを思い出していた。


 無償の愛だ。


「ははは! どうやらヴァレリアは、フランシスまで虜にしてしまったようだな! まぁ仕方ない。俺もレクターも、ユーリもヴァナルカンドもニーズヘッグも、みんなヴァレリアに魅入られているからな!」】


 そのヴァレリア様を、この(セクメト)は襲いかけたというのか?


「‥‥‥。許せない」


 あのように心の美しい人を。


 フランシスの周りを黒く、邪悪な炎がメラメラと取り巻く。


「ねぇ、セクメト。確認したいんだけど、その襲いかけた女性の名前、覚えてる?」


 杖をセクメトに突きつけたまま、氷のような笑顔を浮かべたまま。フランシスは尋問し、セクメトの口を少しだけ動かせるようにした。


 答えはわかっているはずなのに。


「ヴァ、ヴァーリャ‥‥‥。紫の瞳がキラキラして、美しかっ」


 再びセクメトは口の動きを止められてしまった!


「そう、ありがとう。セクメト。君には特別にあの魔術書に書かれていた呪いの魔法をかけてあげるよ」


 な、なんだ? フランシスさんの雰囲気が急に変わったような‥‥‥。オシリスはホルスを庇いながらフランシスの違和感に気付く。


 セクメトは首を振って嫌がる素ぶりを見せるが、フランシスに動きを止められているので逃げられない!


「またヴァレリア様に解毒されてはいけないからね。今度は解毒も効かない、見た目も中身も最悪な姿にしてあげるよ!」


「‥‥‥ッ!!」


 セクメトが最後に見たもの、それは怒りに燃える黒い炎と、同じく怒りに燃える紺色の双眸(そうぼう)


『アモル・トゥッシスクゥェノン・カリドゥ!』


 ボッ!!


 セクメトの体が黒い炎に包まれる!


「セクメト!!」


 オシリスが慌ててセクメトの方へ駆け寄る!


 パァン!! と炎が一層激しく燃え上がり、オシリスの行く手を阻む! オシリスは諦めたようにその場にガックリと膝をついた。


「セクメト‥‥‥。馬鹿だな‥‥‥。お前ば本当に、馬鹿だ、こんな風になるために‥‥‥。故郷ば出てきたはずがないとに。ほんまに、なんばしよっとや」


 オシリスは静かに肩を震わせて泣いていた。その肩にホルスが手をかける。


「お兄様、お兄様。安心してください。どうやら殺されてはいないようですよ」


「えっ??」


 ホルスに言われてオシリスが顔をあげる。


「えっ!?」


 オシリスの目の前には、小さくなったセクメトがいた。


「セクメト?!」


「にいちゃ、だー! しぇくめと、さんしゃい!」


 どうやら見た目だけでなく記憶も退行しているらしかった。だーだーと言って両手を広げ、抱っこを求めるセクメトにオシリスは最初こそ戸惑っていたものの、セクメトが無事だったことに無意識に安堵のため息を吐いた。


「セクメト、一番可愛い時に退行してしまったんだな」


 オシリスに軽々と抱き上げられているセクメトを見て、ホルスが笑いを(こら)えるように横を向いた。先程まであんなに暴れていたのに、今オシリスの腕の中でだーだー言っているセクメトは可愛いすぎた//


「ははっ、結局見た目は最悪にはできなかったな。どうもシリウスのスズメバチを見てしまってから、僕は気持ち悪いもの全般苦手になってしまったようだ。でもその姿になったからにはもう元の姿には戻れないよ。しばらく、いや永遠に反省してね☆」


 フランシスは笑みを浮かべて、オシリスに向けていたずらっ子のようにウインクをした。もう怒ってはいないようだ。


 (ほんとはもっと醜い姿に変えようとしたんだけど、オシリスの弟だからねぇ)


 フランシスの周りを覆っていた黒い炎はいつのまにか消えていた。



怒ると怖い奴らばっかりですよねこのメンバー。私がそういうのが好きですからしょうがないで(ry


セクメトが幼児退行してしまった!


2023年まであと少しですね。寒い日が続くので皆様あったかくしてお過ごし下さいね!


ここまでお読みくださってありがとうございました!


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