メンヘラかまちょのセクメト
セクメトの元におもむくユーリとホルスとレクター達。森に着くと一足先にセトとオシリスが待っていた。
セトとオシリスはとっくに湖の辺りに来ていた。
「セト、オシリス」
「おー王子、悪いな! わざわざ俺達の馬鹿な弟のために来てもらって」
「問題ないよ。さて、行こうか」
王子はそう言って手を振った。たちまち森の木々が避けていき、湖に立つセクメトの氷の彫像が現れた。
気配に気付いたのか、セクメトの緑の瞳がゆっくりと開いた。泣いていたのか、その双眸には涙のあとが残っていた。
「おー、セクメト。その様子じゃかなり反省したんじゃないか?」
「にいちゃん!」
セトの声に気付いたセクメトが途端に暴れ出した!
「にいちゃん! 待ってた! 俺をここから出してくれっさ」
「少しは反省したか?」
「した! したから! 早くここから出してくれっさ! 寒いよぉ」
セトの姿を見て安心したのか、セクメトは再び泣き出した。
「おお、これはいかんな。泣いてもらっては困る。水分を吸収してより氷が強固になってしまうのだ。セト、オシリス。もうセクメトを解放してもいいな?」
レクターが一応二人に問う。レクターもセクメトには憎しみしかないだろうに。
「セクメト、お前解放されたらばとっとと故郷で仕事ば探す事約束するっちゃ?」
「する〜! もうなんでもするから解放してくれっさ。セトにいちゃん! お願い」
「したら先に王子に謝るさね。お前の命は王子が握っとるっちゃけん」
王子と聞いて、セクメトはレクターの方を見た。王子‥‥‥。この冒険者みたいな格好をした男が王子? 王子ならもっと金ピカの派手な装飾をつけたり飾ったりするんじゃないのか?
セクメトは疑問に思いながらも、小さな声で「ごめんなさい」と呟いた。
「ふー、王子。セクメトは馬鹿だししつこいが、謝罪をするって事はかなり参ってるという事だ。すまん。解放してやってくれ」
「ああ、セトがそう言うならそうしよう」
ブワアァ!!!!
音と共に金色のオーラが王子を取り巻く! 王子の瞳が金色に輝く!
『青く若々しいその姿よ。お前の青臭さは許される お前の彫像を この雪原は冷たく拒む そして唯一許された湖は冷たく流れつつ お前の姿を二度と映しはしないだろう』
この呪文、どこかで‥‥‥。あの時の全身金色コーデの男が唱えていた呪文に似てる!
「わぁ‥‥‥。すごい。今の王子様は、あの時の金色の方にそっくりだ」
ホルスがうっとりとしてレクターを見ながら呟いた。
セクメトの体を覆っていた氷は解け、湖から吹っ飛ばされて、セクメトはその辺の大木にその巨体をぶつからせて転げた。
「いてぇ!! あっ!! 氷漬けになってないっさ! 解放された! にいちゃん達見て!」
セクメトは自分の腕や足を動かしてセトたちに見て見て、とやっている。
セトは呆れ気味にセクメトの方を見ると、深々とため息を吐いた。
「お前、解放されたらすぐ故郷に帰るって言うたな? ちょうどここにホルスば来とるけんがホルスと一緒にすぐ帰ってくれんね? にいちゃん達からの最後の願いっちゃね」
セトの言葉を聞いて、それまで笑顔だったセクメトの表情がみるみる変わって、怒りの形相になった!
「ホルス!! お前! 虫も殺さんような顔をしてからに! にいちゃん達になんば言いよっとや」
セクメトの叫びを聞き、オシリスが咄嗟にホルスを庇う。
「セクメト、セクメト落ち着け! ホルスば関係なか! ホルスは自分がここにお前を案内してきたのに責任ば感じてわざわざお前を迎えに来たっちゃだけばい」
「うるっせぇ〜!! 元はといえばホルスがこんなところに連れてこなきゃ、俺がこがん面倒な事にならんかったんじゃ!」
‥‥‥。セクメトのものすごいDQN理論に、セトとオシリスもポカンと口を開いたままでしばらく立ち尽くしていた。
「‥‥‥。セクメト。セクメトお兄様、その事については後ほど謝ります。今はもう帰りましょう。セクメトお兄様は『許された』だけであって、決して歓迎はされていないのですから‥‥‥」
「うるさいうるさい!! ホルスのくせに! 俺に命令するな!」
セクメトは再び目に涙を浮かべた。年下の弟に諭されたのがよほど悔しいらしい。
「セト‥‥‥?」
聞き覚えのあるその声に、その場にいる全員《セクメトは除く》に緊張が走った。エリーだ! 何故ここに!?
「ユーリと王子には悪いと思いましたけど、こっそりとあとをつけさせていただいたの。ごめんなさい。どうしてもセトが心配で‥‥‥。会いたくなっちゃって」
ぼぼぼという音が聞こえそうなほどセトの全身がたちまち真っ赤になる。
「エリー、おおおお俺も会いたかった‥‥‥//だが今はちょっと‥‥‥」
「? でもこの様子を見るに、もう用事は済んだのでしょう? だったら帰りましょう。服を洗濯してあげますから。あ、王子。お嬢様はだいぶ落ちついて来たのでニーズヘッグに任せましたから、その辺は大丈夫ですわ」
「あ、ああ‥‥‥。ありがとう」
エリーが一貫して冷静さを崩さず、キビキビと話す。その様子に、さっきまでピリついていた空気が一気に和む。
ただ一人、セクメトを除いては。今のセクメトはまるでメンヘラかまってちゃんのようだ。
「なんやっそいその女!? セトの女か!?」
セクメトはエリーに飛びかかろうとした。ちょうどいい! この女を人質に取って、なんとかこの地に置いてもらおう!
「危ない! エリー!」
セトがエリーを抱きしめた! 小柄なエリーがセトの巨体で見えなくなった! なんせ二メートルだ笑
『インデュラーレ!!』
ずっと黙っていたユーリが咄嗟に魔法の杖をセクメトに向けた! セクメトはエリーに飛びかかろうとした姿勢のまま固まってしまった。
「ああよかった。全くとんでもDQN発言をしたり、色々と非常識な方だ。エリーさん、大丈夫ですか?」
もっと早くこうしてればよかったな‥‥‥。だってセクメトさんがこんな変な人だと思わなかったし。
「ユーリ! 助かったよありがとう!」
セトがエリーを抱きしめながら言う。
「えっ、ええ‥‥‥。何ですの今の方は‥‥‥」
「こいつは、恥ずかしいが俺たちの弟だ。色々と問題児でな。今故郷に帰すところだったんだよ。それにしてもエリー。無事でよかった」
エリーはその言葉を聞きキョトンとした。
「あはは! 最強の方がたがこんなに揃っているのですから、もし万が一私がピンチに陥っても、誰かが助けてくれると確信してましたわ。私は考えなしに行動するお嬢様とは違いますから。その辺は一切心配していなかったですわ! 私が心配なのはお嬢様だけですよ」
エリーがそう言うと、その場が一瞬静まり返った。
と、セトが吹き出した。
「ははは!! 確かにそうだ! エリーが何も考えずに行動するわけねーもんな! ははは」
いや、確かに俺たちは強いかもしれんが、肝の据わりっぷりがすごいな! それもセトに会いたい一心で? エリー色々と凄すぎだな。さすがあのヴァレリアの女中だけの事はある。
豪快に笑うセトにエリーは軽々と持ち上げられた。
「エリー! 俺もずっと会いたかった!」
「私もですわ! セトに会いたかった!」
セトとエリーはしばらくお互いの頬を触り、見つめ合うと、どちらかというとでもなく唇を重ねた。
「わーホルス! 見ちゃいけません!」
オシリスが慌てて自身の手でホルスの目を塞ぐ。
「あはは! なんか、僕達お邪魔みたいですね! このまま一旦帰りましょう。王子は別荘に、僕らはオシリスさんの家に」
ユーリは器用に魔法の杖を使ってセクメトの巨体を引っ張って歩き出した。セクメトは口も固まっているので言葉を発する事ができない。
「あの、オシリスお兄様。目が‥‥‥」
見えないという感じでホルスはオシリスの手を外そうとする。
「ホルス! 俺がいいと言うまで我慢してて!! ね!?」
オシリスはホルスの目を塞いだまま、ゆっくりとユーリのあとをついて行く。
「お兄様? 私に乗った方が早く着きますよ? 手をはな‥‥‥」
「だめだめ! 俺が良いって言うまで!」
オシリスとホルスとユーリ(と固まったセクメト)はドヤドヤ、ガヤガヤしながらも去っていった。
セト達はよほど会いたかったのか、いつまでもイチャイチャしていた。
そこらの木の下に腰かけて見つめあって、何事か語らって、またキスをして‥‥‥。完全に二人の世界だ。
ふむ‥‥‥。俺も別荘に帰るとするか。一応セクメトは解放した事だしな。あとはオシリスとホルスが何とかするだろう。
セト達を見ていたら俺もヴァレリアに会いたくなって来た!! 昨日の夜から朝まで手を繋いでいたのに、もう恋しくて、会いたくてしょうがない!
待ってろヴァーリャ〜!!
もう耐えきれなくなってエリーをセトとあわせちゃったんだぜ。レクターはヴァレリアと無理矢理会ったのに、セトとエリーにだけ我慢をさせるの、良くないじゃないですか(笑)。
嘘です私がイチャイチャを書きたかっただけ(以下略
個人的にオシリスがホルスの目を塞いだところが可愛いと思いました。あなたはどのシーンがお気に入りでしたか?(?)
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