いざセクメトの元へ!
場所は変わってここはレクターの別荘。
エリーはヴァレリアの隣で目覚めるのだった。
翌朝。
レクターとヴァレリアは手を繋いだまま寝ていた《レクターが離さなかっただけとも言う》。
「‥‥‥。ん?」
鳥のさえずり、そしてカーテンの隙間から差し込む眩しい光。
エリーが飛び起きた! しまった寝坊した!
「わわわわ! お嬢様すみません! 私とした事があまりの寝心地の良さに爆睡してましたわ! いつも固いベッドやソファで寝ていたもので」
ぱっとお嬢様の方を見ると、まだ熟睡してらっしゃるご様子。ああ、騒いで起こすところでしたわ! 私は慌てて自分の口を手で覆い、そのまま静かに退室した。
「ふぅ、でもおかげで頭がスッキリしましたわ。さてと、朝食の用意をしましょうかね」
チリリンと玄関の呼び鈴が鳴る。
「ん? こんな朝から誰かしら」
エリーが慌ててキッチンから
「はぁい、どちら様で‥‥‥」
「あっ、エリーさん。お久しぶりです」
そこにはユーリと、翼を携えた見慣れない上裸の男が立っていた。
ユーリ、と‥‥‥。こちらの寒そうな格好の方は誰かしら?ユーリの知り合い? ですわよね?
「ユーリ、遠いところへわざわざ訪ねてくださってありがとうございます。とりあえず中へ。紅茶でいいかしら?」
「ああ、エリーさんお構いなく! 今日僕がここへ来たのは王子に用事があって来たのです」
ん? 王子? また何か厄介ごとかしら?
「それで、できれば王子とお話しがしたいのですが」
上裸の男はエリーに行儀よくお辞儀をした。よくわからないけど何やら緊急の用事かしら?
「お待ちください。すぐ呼んできますわ」
* * *
「と、いうわけなんです。セトさん達は一足先に森に行っています。セクメトさんがいる湖には、王子が魔法をかけているので‥‥‥」
起きてきた王子にユーリが事の次第を説明する。セト達が先に森に向かっている事、セクメトがいる湖にかかっている魔法を解いて欲しい事、そしてホルスのこと。
追放されかけていたセクメトに同情し、ホルスがオシリスの酒場にセクメトを案内してしまった事など。
王子はエリーが呼びに行った時にはすでにヴァレリアの隣にはおらず、自室で準備を整えていた。
「わかった。セクメトの処遇は決まったのだな」
「はい、セクメトさんが本当に反省していたら故郷の兄弟全員にこちらのホルスさんに証言してもらって、もし反省してなかったらセトさんが兄弟代表で半殺しにするそうです」
と、ホルスが前に出て一礼をし、口を開いた。
「私はホルスと申します。セトお兄様、オシリスお兄様とは腹違いの兄弟です。二人には昔からよくしてもらって‥‥‥。今回の件は私にも責任があるので、私もついて行かせてください」
セト、という言葉にエリーがピクリと反応する。
「ユーリ、セトは大丈夫なの? その、シャツとか自分で洗えているのかしら?」
「ははは、大丈夫ですよ。ちゃんと毎日シワッシワです(笑顔)。それより王子急ぎましょう。セトさん達はお店が終わると同時に出発したので、もしかしたらもうセクメトさんの所に着いてしまっているかもしれない」
ちゃんと毎日シワッシワ‥‥‥。ユーリのその言葉にエリーは頭を抱えた。
「ああ、なんだそういうことか。ホルスと言ったか? ずいぶんと寒そうな格好をしているが、何か羽織らなくてもいいのか?」
「あ、いえ、私は‥‥‥」
「遠慮する事は無い。俺のマントを貸してやろう。心配ない、俺はあまり寒さを感じないのだ《レーヴァテインのおかげで》」
ホルスは初めてセトやオシリス以外の人間に優しくされた事に戸惑っていた。その様子を見てユーリが助け船を出す。
「ホルスさん、王子の言う通りですよ。王子は超人ですからちょっとやそっとじゃ風邪も引かないし、ビクともしないんです」
ホルスは王子の方を見た。このお方、あの日セクメトを氷漬けにしていた金色の方に似ている?
「で、では遠慮なく‥‥‥」
そう言ってホルスはマントを羽織る。暖かい‥‥‥
「ではエリー、ヴァレリアのことは任せたよ。俺たちは今からヴァレリアを襲った輩のところへ行くから」
「えっ?! お嬢様を襲ったって‥‥‥。まさかあの不届き者!?」
「そう。あの後しつこく戻ってきたので、少々お仕置きをしてやったのだ。まぁ悪いようにはしないよ」
「まぁ王子! ただの変態どすけべクソ王子に成り下がったと思っていましたのに!! 密かに不届き者と対峙していたなんて! 見直しましたわ! ええ、ここは私とニーズヘッグに任せて行ってらっしゃいませ」
「あ、ああ‥‥‥。行ってくるよ」
ど、どすけべ変態クソ王子?? エリー、ちょっとそれは言いす‥‥‥。まぁニーズヘッグにも言われたし、あながち間違いではないか。
「どすけべ変態クソ王子?? 王子、一体何をやらかしたんですか?」
ユーリがコッソリと聞いてきた。いや参ったな。ヴァレリアがセンシティブな時期にかけて色々ありすぎて、どこから説明していいかわからん!
「うーむ、なんでかな。俺にも分からん。ははは‥‥‥」
「ではお二人とも、私の背中に乗ってください」
そう言ってホルスが翼を広げる。ユーリはありがとうと言ってその翼に飛び乗った。どうやらユーリがここに来た時もホルスに乗ってきたようだ。
「あ、俺は必要ないよ。俺も飛べるから」
脚が金色に輝き、王子の体が浮いた。
「さあ、行こうか」
だが、その後ろ姿を心配そうに見つめる視線には気づかなかった。
どすけべ変態クソ王子と言いたかっただけの話でした。
いや気付いて?三人も男がおってなんで気付かないんですかね?
本格的に寒くなってきたのでお体に気をつけてくださいね!
ここまでお読みくださってありがとうございました。