その頃酒場では?
レクターとヴァレリアが何わろてんねん劇場を繰り広げている中、オシリスの酒場ではセクメトの処遇をどうしようかとセト達が話し合っていた。
俺はセクメト。あれから何日経ったのだろうか? あの男、王子? とか呼ばれていた褐色の肌の男の不思議な力で、俺が立っている湖の周りには鬱蒼とした木々が空まで届き、太陽の光さえ届かない。
「クソッ、恐らくそう時間も経ってないだろうに、何日も経っているように感じる! にいちゃん達はいつ助けに来てくれるんだ?」
ガサっと森の木々が風で揺れる。あたりには動物もおらず、光は届かず、暗闇が続き、今が昼なのか夜なのかもわからない‥‥‥
「にいちゃん達、怖いよ‥‥‥。寒いよ。グスッ」
(大丈夫だ、セクメト。俺がついてる)
「セトにいちゃん」
(セクメト大丈夫か? 怖くないか?)
「オシリスにいちゃん、怖いよ。怖いよぉぉ! わぁぁぁん!」
森はしんと静まり返り、答える者は誰もいない。
* * *
時刻はちょうど、レクターとヴァレリアがベッドで手繋ぎデート(笑)をしていた時だった。
オシリスの酒場では、セクメトの処遇についてセトとオシリスとユーリが話し合っていた。
「なぁ〜、あいつどうするよ? そろそろ解放してもいいか? なんか、目に見える形でもうここには来ない約束を残すとか、ここに来るとすっげえエグい罰がくだる呪いをかけるとかしたら、いくらあいつがしつこいと言っても来ないんじゃないのか?」
俺はセト。王位だの何だのやってる兄弟達にウンザリし、王位を捨て故郷を捨てて自由に生きてきた男。
今はお嬢の女中エリーザベトに沼っている。てか沼っているってなんだよ! 相思相愛だ! 両思い!
「ユーリ、そういう呪いはかける事できないのか? ある特定の条件を満たしたらバチが当たるとかいう」
「うーん、あるにはあるんですが、その呪いって必ず呪いの対象を殺しちゃうんですよね。流石に殺しちゃうのはやりすぎですよね? なんだかんだ言ってセクメトさんはお二人の弟さんですし」
ユーリはそう言いながら魔法の杖を器用に使い、俺の空になったグラスに酒を注ぐ。
情緒が安定している時のユーリは、虫も殺せないような顔をしているくせにさらっと怖い事を言う。ギャップがすごい。
「殺すのは、やりすぎだな。うーむ、どうするべきか。王子なら何とかできるかな? でも王子は次にセクメトがお嬢に何かしたらすぐ殺しちまいそうだな」
カランカラン‥‥‥
その時酒場の入り口の鈴が鳴り、客が入ってきた。あれ? あいつどっかで見たような‥‥‥
「お前、ホルスじゃん」
ホルスは半人半獣の母親から生まれた腹違いの弟だ。セクメトと違いこいつは大人しすぎるほどおとなしい。
「ご無沙汰してます。お兄様」
ホルスは鷹のハーフなのだが、どうやら今は翼はしまっているようだ。銀色の髪に緑の瞳、俺ら兄弟でかい奴が多い中で、こいつは割と小さな奴だ。
ホルスは兄弟たちが王位のことでごちゃごちゃしている中でハブられてたんだよな。翼があるから兄弟達にいいように利用される事が多かった。なのにこいつは嫌な顔ひとつせずそれに従ってパシリに徹してたよな。
俺のホルスの印象は、お人よし、純真無垢だ。思えば俺はこいつが心配だった。人を信じて疑わないその心に、いつか悪意を持った誰かにつけ込まれるのではないかと。
「ホルス、元気にしてたか?」
「セトお兄様、今回はすみません。私がセクメトを運んできたせいで、何か大変な事を起こしたようで」
「なんだ? 知ってたのかよ」
「はい。ここにセクメトを連れて来たのは私なので、気になって逐一見に来ていたのです。そしたらセクメトが氷漬けにされている現場を見てしまって。私はただセクメトが氷漬けにされている様子をただ見ている事しかできなかった。なにしろセクメトをそのようにしていた金色の方が怖くて近付けませんでした」
金色の方? 王子の事か? 確かに王子は怒ったら怖いからな《特にお嬢関係》。そういえば俺の周り怒ったら怖い奴多すぎだな? 普段どんだけ仮面被って生きてんだ? いや、分かるけどね?
王子は王子としての立場上何か色々あるんだろうし、ユーリは二重人格だし、オシリスは接客という職業柄、ニコニコしてないといけないからな。
「ホルス! やぁやぁ! よく来てくれたね!」
と俺が思っていると席を離れていたオシリスが戻ってきてホルスを抱きしめた。
思えばオシリスは兄弟の中でも特にこのホルスを気にしていたな。他の兄弟達より小さく、馬鹿にされがちだったのをオシリスが庇っている光景を何度も見た。
「ホルス、お前は優しいから心配していたよ。よくあの兄弟達から逃げられたな、兄ちゃんは嬉しいぞ」
ホルスはオシリスの腕の中で冷静に言った。
「オシリスお兄様、お久しぶりです。でも今日私がここにきたのはセクメトを連れて帰る為です。私は故郷を天空から見守らなければ。翼があり、視野が広くて良い目を持つ者は私だけしか残っていませんから」
「あら残念」
「おっ? セクメトを連れて帰ってくれるのか!? ありがてぇ!」
ホルスは俯きながら答える。
「はい、でも‥‥‥。連れて帰ってもまたここに戻って来る可能性がないとは言い切れません。セクメトは、何しろしつこいですから。故郷もイシスを殺しかけた事で追放されかかっています。私もそれでセクメトに同情したのが間違いでした。私がここに来たのはセクメトが迷惑をかけた責任を取る為です」
あーあいつそういえばそんな事言ってたな。ったくめんどくせぇ。
「ホルス、気にする事はないよ。元々はセクメトが自分で蒔いた種だ。ホルスが何とかしようとする必要はないんだ」
オシリスがホルスの頭を撫で撫でする。
めんどくせぇが、確かにこんな小さな弟にあの馬鹿の事を丸投げしちゃ可哀想だ。
「問題ない、ホルス。お兄様たちに任せてくれ。オシリス。明日王子の別荘に行くぞ」
そしてもう一度森に行って、そこでセクメトが反省していないようなら、今度こそ俺がこの手で‥‥‥
ホルス可愛い〜!小さいといってもセト達デカい男達から見た小さいですから、170センチくらいはあると思いますよ(適当)。
次回、氷漬けにされたセクメトは許されるのか!それともセトにぶちのめされてしまうのか!?
もぉ〜私はいつになったらセトとエリーのイチャイチャが書けるわけ?
ここまでお読みくださってありがとうございました!