ヴァレリアはヴァルキリア?!
前回セトとエリーがそれぞれ会いたい気持ちを押し殺し、お互いの身を案じる中。我慢の効かないわがまま王子レクターはエリーとの約束を破ってヴァレリアに会いに行ってしまう。だがそこで意外な事実を聞いてしまい‥‥‥
「レクター? あなたどうしてここにいるのよ」
「え?」
俺はレクター。先程三日間だけヴァレリアには会わないとのエリーとの約束を忘れてヴァレリアを抱きしめたわけだが、どういうわけかヴァレリアは怒っていた。
「早く出ていきなさいよ! 私の視界から消えて!」
「あ、ああ‥‥‥。しかし先程まで」
「いいから早く!」
ヴァレリアは完全にそっぽを向いてしまった。ふとエリーを見ると、肩をすくませてやれやれ、と言ったジェスチャーをしている。
「王子が悪いんですよ、あれほど今のお嬢様には会わないようにと言ったのに。なのに無理矢理会おうとするからまたお嬢様の情緒が不安定になってしまいましたわ!」
エリーは怒ったように言うと、ヴァレリアの腹に手をかざして何かを唱えている。あれは回復魔法?
「お、おい、ヴァレリアは大丈夫なのか!? 本当に病気ではないのか?」
「違いますよ!!」
「レクター‥‥‥。嘘よ。今言った事は全部嘘なの。側にいて?」
ヴァレリアを見ると、先程とは打って変わって瞳を潤ませ、懇願するように俺を見つめている。
「あ、ああ! ヴァーリャの気の済むまで居てやる! 腹が痛いのか? 俺がさすって‥‥‥」
『あのさぁ! このどすけべ王子! クソ王子! 今のヴァーリャは‥‥‥』
「は? レクターなんぞに触らせる腹などありませんわ! 私の肌はエリーとニーズにしか触らせないわ!」
「なんだと?」
『うわわわわ、ヴァーリャ! 俺様を巻き込むなよ!』
ニーズはそう言った後、ヴァレリアの谷間に逃げ込んだ! クソ! 羨ましい! 俺が地団駄を踏んでいると、ヴァレリアが俺の服の裾をクイクイと引っ張った。
「レクター、嘘なの。私‥‥‥。今の自分が自分でもわからないの。ただ、私が愛しているのはレクターよ。それだけはわかってるの」
「ヴァーリャ‥‥‥」
ふと先程のバルコニーでの事を思い出した。今のヴァレリアに聞いても大丈夫だろうか?
「ヴァーリャ、先程バルコニーにいなかったか? 何か、泣いているようだったが‥‥‥。あれは一体どうしたというのだ?」
「バルコニー?」
「ああ、何かを呟いていた」
俺はヴァレリアが唱えていた呪文のようなものを伝えた。俺が聞いたことのない呪文だ。ヴァレリアはこれまでも俺の知らない呪文を何回か唱えていた‥‥‥
【『一度も愛した事のない者へ。明日には愛する事を望みます‥‥‥。あるべきところへ、おかえりなさい』】
「ヴァーリャ?」
それを伝えた途端、ヴァレリアの持つ雰囲気が変わった。エリーも何かを感じたらしい。ヴァレリアの腹から手を離し、ゆっくり部屋を出て行った。
「魂よ‥‥‥」
「えっ?」
「レクター、私この状態になってからよく見る夢があるの。私が炎の壁に包まれて、熱くて叫ぶのに、壁の外側にいる方々には全然聞こえないの。まるでその場に炎の壁も、私の存在もないみたいに」
ヴァレリアはいきなりつらつらと話し始めた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ヴァーリャ、もう一度最初から落ちついて話してくれ」
ヴァレリアはすぅ。と深呼吸をすると、やがて夢の話の続きを話し始めた。
「‥‥‥。ということなの。最初は素敵な夢だと思っていたわ、でもその夢はだんだんと時を遡っていくの。そこで私は、私という人間は、ヴァルキリアの末裔ということがわかったの。炎の壁に閉じ込められているのは、多分ヴァルキリアだった時に犯した過ちの罰を受けているの」
「えっ??」
驚いた。ヴァレリアが太古の伝説のヴァルキリア※の末裔だと?? そんなものが、未だに脈々と続いていたとは‥‥‥。どうりで、俺が知らない呪文を使えるわけだ。
【※ヴァルキリアとは人間の戦士の魂の選定をし、見込みがある魂だけをヴァルハラという都に送りこんでいた伝説の女戦士である。レクターの時代には太古のものとして半ば人から伝え聞いた噂話程度になっていた。なお、何故ヴァルキリアが人間の戦士の魂をヴァルハラに送っていたのか?ユーリの先祖が戦士を集めていたと云う説が濃いが詳細は不明】
「末裔とは言っても、私に受け継がれたのは、せいぜい彷徨える魂を故郷に戻してあげるくらいの力で‥‥‥。泣いていたのは、多分」
私が呪文を唱えると、その魂が話しかけてくるの。「ありがとう」って‥‥‥。それが辛くて。私は魂を故郷に戻してあげる事しかできないのがもどかしくて。だってその魂は
「もう肉体もない。待っている人もいない所に、ただ帰されるだけだから」
私のこの力は、月に一回訪れるみたい。力がなくなると、魂は見えなくなり、私も呪文を忘れてしまう。
「レクター、ここまでの私の話。信じられますか?私、アナスタシアと入れ替わった事でさえ割とおおごとで、さらにニーズヘッグも取り込んでる上、今度はヴァルキリアの末裔だなんて‥‥‥。情報過多すぎますわ。私自身が信じられませんわ。でももし、私がこの体でなくて、アナスタシアだったらこんな力はないはずよ。何故私ばかり‥‥‥」
うーむ、確かにそうだが‥‥‥
「俺は今更なんとも思わないよ、ヴァーリャの言う事を信じるよ。大体作者は後付けが好きすぎるんだよ」
「えっ? レクター今何かおっしゃいましたか?」
「いいえ何にも」
ヴァレリアはベッドヘッドにいくつも置いてある枕に寄りかかってため息をついた。
「一体何がどうなってこうなったか、自分でも分かりませんわ」
全ては、ニーズヘッグが始まりだったの。
ニーズヘッグがいなかったら、私は今頃どうなっていたかしら? 想像もつかないわ。ただ一つわかるのは私はニーズヘッグのおかげで解き放たれたのだと思うわ。
私は元々ヴァルキリアとして戦場を駆け回る女戦士だったの。だからお城から離れてみんなと冒険して暮らしている今がとても幸せなの‥‥‥
ニーズヘッグがヴァレリアの谷間から顔をぴょこんと出した。
『へへへ、俺様はこれでも昔はブイブイ言わせたもんだぜ! 女神も助けたしな! まぁそのせいか知らんが行く先々で変なことに巻き込まれるけど』
ブイブイて‥‥‥。それ今伝わるやついるか??
『ヴァーリャも気を落とすなよ。ヴァーリャが俺様を取り込んだ半端人間でも、ヴァルキリアの末裔でも、ヴァーリャはヴァーリャだろ! ヴァーリャが何になろうと、誰であろうと、ヴァーリャがヴァーリャである限り、俺様はヴァーリャが好きだ!』
「ニーズヘッグ! 嬉しいわ!」
いやいや、それ本来なら俺が言うセリフ! なんだ今のかっこよくて男気溢れるセリフは? 絶対俺が言うべき台詞だったよね!?
ニーズヘッグがこちらを見てドヤ顔をしている。ニーズ! 恐ろしい子!!
「それで、レクターはいつまでここにいてくれるの? 朝までいてくれる?」
「なりません!」
声と共に鉄製(ドチャクソ重い)のドアがバーンと開いて、鬼の形相のエリーが仁王立ちしていた!!
「王子、調子に乗るのもいい加減にしろよ、してくださいよ? お嬢様が許可しただけで私は許可してませんから! どうしても側にいたいのでしたらそちらで寝ていただけますか?」
そう言ってエリーはビシッと指をさす。エリーの指の方へ目を向けるとそこには硬くて小さなソファがあった。
「ま、待ってくれ! ソファで寝るのは一向に構わないが、せめて俺の身長に合わせたソファを」
「王子のクソデカ身長に合わせたソファなどあるわけがないでしょう? どうしてもと言うのなら、ご自分で用意して、ご自分で持っていただきましょう」
「ああ‥‥‥」
ヴァレリアと一緒にいられるなら、そのくらい造作もない事だ!
「レクター、ありがとう。エリーもありがとう。ニーズも。私は幸せだわ、こんな優しい人たちに‥‥‥。囲まれて‥‥‥」
そう言ってヴァレリアはパタンと気絶するように寝てしまった。
「疲れさせてしまったかな?」
「平気ですわ。お嬢様だけでなくこの時期の女性は眠くなるのですよ」
「そうか‥‥‥」
窓の外には雪がちらついていた。
「今夜は冷え込みが厳しくなりそうだな」
ヴァレリアはヴァルキリアの末裔か‥‥‥。でもそのような力を何故ヴァレリアに残しておいたのだろう。ポンパドゥール侯爵に一度挨拶がてら寄ってみようかな‥‥‥
そういえば俺はヴァレリアと婚約した時にポンパドゥール侯爵家に何も言わなかったな? えっ? そんな事ある?
ヴァレリア様の情報が過多すぎますね汗
最初はアナスタシアだったのがヴァレリア様に入れ替わり、その原因にもなってしまったニーズヘッグも取り込んでしまい、さらにはヴァルキリアの末裔という。こういうゴテゴテしたオプション大好きなんですすみません。
レクター挨拶に行ってなくてワロタ。でもニーズヘッグが嫌がるしなぁ〜。どうなる事やら(他人事)。
色々情報量多いと思った方は★★★★★で応援よろしくお願いします。
ここまでお読みくださってありがとうございました。