セトの悩みとエリーの悩み
この話は前回の話を読まなくても大丈夫です。セトが説明してくれますんで。
俺はセト。お嬢の女中の押せ押せアタックでいつのまにか俺の方がズブズブに沼にハマってしまった哀しき男だ。
彼女の名前はエリーザベト。俺はエリーって呼んでいる。
最初はいかにも世間知らずなお嬢様方がオドオドしてたところを、気まぐれに助けてやったのが出会いだったな。
あの時のお嬢とエリーの格好、今でこそ多少マシにはなったが、お嬢なんかでかい羽根付き帽子かぶって何もかもちぐはぐだったし、エリーに至っては武器の一つも持ってなかったし。
俺がたまたま通りかけたからよかったものの、一体どうするつもりだったんだ? あの世間知らずな二人の事だ。まさかあんなバケモンが出るとは思ってなかったんだろうな。
ああ、そういえばエリーは回復魔法が使えたなぁ‥‥‥。
回復魔法が使える魔法使いって少ないんだよな。大体の魔法使いがユーリみたいな攻撃魔法を使いたがるから、回復魔法は地味だからって覚えないんだ。ユーリは正統な魔法使いで覚えている魔法も膨大だが。
嫌な事思い出したぜ! 俺は先日そのユーリに飲み比べで負けたんだった! チクショー! ユーリのやつ、虫も殺さないような顔して、涼しい顔して。
そういえばあいつ、もっとモテてもいいのにな。アレクの時みたいに前髪を上げたらなかなかのイケメン、その上酒も強いし。もったいねぇ‥‥‥
‥‥‥。話が脱線しちまった。
何が言いたいかというと、俺は今猛烈にエリーに会いたい!!
エリーは今お嬢の世話のために王子の別荘に行っている。
エリーは、あまり自分の事を話さないけど、よく動くし、気がきくし、とととととにかく可愛いんだ!! 薄桃色の肌、青と緑を混ぜたような瞳に、いつもは頭の上の方でまとめられている金髪が、休む時には解いて、軽くウェーブがかかって、どこかの国のお姫様と言われても納得のいく美しさ!
俺たちの故郷にはない色ですごく美しい。と思う。
エリーは豊満でない事にコンプレックスを感じているみたいだけど、おおおお俺はむしろそっちの方がいいというか、好きというか‥‥‥。
【「これだからダメなのですわ、セトは力加減ができないの、だからいつまで経ってもショース《靴下》の一つも履けないのですわ、まぁそれがセトのいいところなのですけどね」】
あの時のエリーのいたずらっ子のような笑み‥‥‥
でも、エリーにとって一番大切なのはお嬢なんだよな‥‥‥
なんだこれ。そう思うとモヤモヤするな‥‥‥。いや、今は特にお嬢がデリケートな時期だからっていうのはわかっているけど。
「なんだセト、まだ起きてたのか。ただいま」
「オシリス‥‥‥」
働いていたオシリスが帰って来た。という事は朝か?
「まぁ俺たちはありがたいことに一日くらい寝なくても平気だからその辺は便利だよな」
オシリスはそう言いながらも、着々と仕事着を脱いで楽な格好に着替えて、寝に行ってしまった。夜中起きていた俺にフォローしてったのか? やさし!
オシリスは誰にでも優しいよな、嫌いだって言ってたセクメトも結局助けるし。
さすが客商売やってるやつは気配りの王だなぁ、俺には絶対無理。気配りといえばエリーも、よくやってるよな。ピーク時の客のさばきかたもうまいし、どの席が空いているか頭の中で全て覚えてるし。俺には絶対できない所業だ。
ああ、考えたらもうたまらなくなって来た!!
「エリー‥‥‥。会いたいな」
* * *
「イタタタタ!! 何ですのこの痛みは! アナスタシアだった時でさえ味わった事のない痛みよ! エリー!」
「お嬢様! お可哀想に。今楽にして差し上げますからね!」
私はそう言ってお嬢様の頭とお腹に手を触れる。
「あっ、なんか楽になってきたわ。やはりエリーを呼んで本当によかったわ! 大好きよ! エリー」
お嬢様はそう言って私に抱きついて来た。
「わぁぁお嬢様! まだ終わっていないんですよ!」
「イタタタタ!! ごめんなさいエリー!」
お嬢様がお腹を抱えてのたうち回っている。全く‥‥‥。それでも私はこんなお嬢様が好きだ。あと先考えずに行動してしまうのは少し考えものですが。
「お嬢様、大人しくなさってください。痛みはまだ残ってますから」
「うう〜ん、ぽわわとあったまって楽になって来たわ。ありがとうエリー」
「お嬢様‥‥‥。お嬢様が楽になるならこのくらい何ともない事ですわ」
俺はレクター。一応バルカ王国の王子だが、もう最近王子を辞めたくなって来ている哀しき宿命の男だ。先程のヴァレリアの様子がどうしても気になって、ヴァレリアの休んでいる部屋に聞き耳を立てていた。何やらエリーとキャッキャウフフしてる声が聞こえて来た。
よかった‥‥‥。先程のヴァレリアはきっと今の情緒不安定なヴァレリアが引き起こしたちょっとした厨二病だったんだな。
【「お嬢様はご覧の通りご乱心しております。王子には申し訳ないですが、三日間ほどお嬢様に会うのを控えていただけますか?事情はその時に説明しますわ」】
三日‥‥‥。長すぎる!! ヴァレリアと話したい。あの柔らかい体を抱きしめたい。
『おー、どすけべレクターのお帰りじゃん。いや正しくは王の帰還か? わはは!』
「ニーズヘッグ、お前ヴァーリャと一緒にいなかったのかよ」
いつのまに来ていたのだろう。俺の背後にはニーズヘッグが羽根をパタパタとさせていた。
『メシ食ってきたの! だってやけに腹が減るんだ。世の中のダイエット中の人間《特に女子》共はアレ前とアレ中は遠慮なく食って食って食いまくろうな? 全部体から出てくれるからゼロカロリーだ!』
「 ? 誰に向けた言葉なんだ? 今のは」
『王子には関係ないよ! ただ現代人には体重を気にする女子が一定数いるからな! 遠慮なく食べてもいいんやで、ていう事だ』
「 ?? お前もヴァーリャと同じで少し変になっているのか?」
『うん、そうそう。眠くなって来た。エリー入れて〜! ニャアニャア〜』
「あ! 待てニーズ! 俺も、俺も頼む!」
『王子。たまには我慢も必要だぞ。もう城にはいないのだから。今はただの「レクター」だろ』
ただのレクター‥‥‥。でもそれとヴァレリアに会いたい気持ちは関係ない! ヴァレリアに会いたい。
「ヴァーリャ!!」
俺はニーズの言葉もエリーとの約束も無視して、思いっきり重い扉を開け、ヴァレリアの休んでいるベッドへと向かう!
「えっ!? レクター! どうして? 会うのは三日後じゃ‥‥‥」
「三日など耐えられるものか! もう離さない! ヴァーリャ!」
俺はヴァレリアの体をしっかりと抱きしめて言う。情緒不安定など知った事か、ヴァレリアが楽になるなら、俺はいくらでもサンドバッグになってもいい!
「王子! 早速約束を破って!」
エリーの呆れたような声が聞こえて来た。
「レクター、私も会いたかったですわ」
お嬢様は目に涙を浮かべて喜んでいる。
『あーあ、結局こうなっちまった。エリーだってセトと会いたいのを耐えてるのになぁ。我慢が足りねえんだよ王子は』
「ニーズヘッグ‥‥‥」
『エリー、ヴァーリャの苦痛を取り除いてくれて、ありがと』
そう言うとニーズヘッグはベッドに倒れ込むように寝てしまった。お嬢様と王子は何年も会っていなかった恋人同士のようにお互いを抱きしめあっている。
ていうか前もこんな事あったよね!? お前らふざけてんな?
‥‥‥。お二人は本当に見てるこっちが恥ずかしくなるようなお似合いの恋人同士ですわ。
なんか色々考えてるうちに私もセトに会いたくなって来ましたわ。ゆっくりと窓の外を見る。冷え切って曇ってしまっている窓からは何も見えないけれど。
「セト‥‥‥。会いたいわ」
私も多分性別が女性なんですけど、ダイエットや体型に悩んだりしている女子たちへのメッセージをニーズヘッグに代弁してもらいました!いきなり何って感じなんすけど。まぁ無視してください。
セト可愛いなおい!?夜じゅう起きてエリーの事しわっしわの服着ながら考えてるって想像したら萌えるし絶対この二人には幸せになって欲しい!
性癖が大爆発してごめんなさい。
ここまでお読みくださってありがとうございました!