ユーリとセトの飲み比べ
セクメトはしばらく放置することにした一行。
オシリスの酒場にてやさぐれたセトに、ユーリは飲み比べを要求されるのだった。
オシリスの酒場はいつもより人が多かった。エリーの代わりにネフティスが入っているからだろう。
ネフティスはこの辺りでは見かけない珍しい見た目をしていた。掘りが深く、どことなくミステリアスで、肌は浅黒く唇も大きい。くっきりと黒色の縁に囲まれた緑の瞳、レクターよりも濃い栗色の髪の毛先にはいくつもの派手な装飾が施されていた。
この辺りでは見ない顔立ちをしている事で野次馬で来る客も多く、さらに露出度の高い衣装を着用し、なんとも言えない妖艶さを漂わせている。そのおかげで、オシリスの酒場はいつもより繁盛していた。
そのネフティスはオシリスと共にバーテンをしていた。エリーほど気が利かないので客のグラスが空になっても気が付かない。そんな時はオシリスがコソッと指示して、ネフティスがお客に酒を提供する。
ネフティスは慣れていないのか、それともオシリスの隣にいることが緊張するのか、カチコチだった。
だがその初々しい感じがまたいいというスケベオヤジの発想で、カウンター席は客が押し合いへし合いの満員だった。
「オシリスさんは大変ですね。あの客を全部さばいて尚且つネフティスさんにも気を遣わないといけないなんて」
ネフティスは気が強いが、いざという時はまだどうして良いかわからないようで、時々酔っ払ったスケベオヤジに拉致されそうになるのだ。
「まぁいいんじゃね? オシリスはこの酒場が好きだからな。この店に来てくれる人たちの事も好きなんだよ」
セトはすっかり出来上がっていた。昼間のセクメトの事が効いているようだ。机に突っ伏したまま言っている。
「大丈夫ですか? セトさん」
ユーリがセトに聞く。そういえば俺はユーリが潰れたところは見た事がないな。
「ユーリ、お前酒は? グラスが空だが」
「ああ、そういえばそうですね」
と言ってユーリが持ってきたお酒は「シュティーグル」というビールだった。アルコール濃度はそんなに高くない。
「僕はウイスキーとか度数の高いお酒も飲めるんですが、楽しく飲みたいのでこれで」
「シュティーグルぅぅ?? ユーリそんなぬるい度数のビールじゃ酔えんだろ! 俺がとっておきのを持ってきてやるぜ!」
とっておき? テキーラとかだろうか?
ドヤ顔でセトが持ってきた酒は、「ミード」という蜂蜜酒だった。ハチミツパンといい、セトは本当に蜂蜜が好きだな。
「ただのミードじゃないですか? これくらいなら僕のビールと大差ないような‥‥‥」
「わはは! ただのミードじゃないぞ! これは『ジャルギリス』! 聞いて驚けこの度数はウォッカ並みと言われている!」
「ウォッカですか‥‥‥」
ウォッカといってもピンキリだからなあ。僕は顎に手を当てて考えた。僕が考えを巡らせている内に勝手にミードが空のグラスに注がれていく!
「あっ、ちょっと! セトさん勝手に注がないでくださいよ!」
「ははは! ユーリ! 飲み比べしよう! 今日はセクメトの事もあったし楽しい気分になりたいんだ」
「それってやけ酒じゃないですか。悪酔いしやすいし、良くないですよ」
「いいの!」
ユーリはセトの言葉に呆れたように肩をすくめた。
「後悔しても知らないですよ?」
〜二時間後〜
そこには完全に潰れてしまったセトと、涼しい顔をして魔法書を読むユーリがいた。
「ゆ、ユーリ‥‥‥。お前酒強かったんだな」
レクターがそう言うと、ユーリはゆっくりと顔を挙げた。
「そうですね、僕はザルなんです。一緒に冒険するメンバーが変わるごとにお酒を飲んできたんですけど、何故か僕だけ全然酔わないんですよね。お酒を飲んでも楽しい〜って気分になるくらいですね」
そう言ってユーリは天使のような悪魔の笑顔を浮かべる。いや何故平気なんだ? 俺はレーヴァテインが酒に強いので全然酔わないが、ユーリにはそんな者はいない。フランシスがいるにはいるが、死んでいるしな。と言う事は素でこれなのか。ほぉ〜。今までセトが一番強いと思っていたが、ある意味ユーリが一番酒が強い説浮上してきたなこれは。
俺たちと違いユーリは何も宿していないものな。大魔法使いを先祖に持つらしいが、それと酒とは別だし。
「王子、もう夜も更けてきました。別荘にお戻りください。セトさんの事や、オシリスさんの事は僕がしていますから」
そう言ってユーリはサッと魔法の杖を取り出してOKサインをしてきた。
いざとなったら魔法でどうとでもなる、ということか‥‥‥。確かに、フランシスが同化してからユーリは爆発的に魔力が上がってるもんな。
うん、やはりユーリが酒も何に対しても最強説の可能性はあるな。敵に回したら一番厄介そうだ。
「ではユーリ。お言葉に甘えて先に帰らせてもらうよ。セトの事、よろしくな」
俺はデカい体を床にゴロンと投げだして寝ているセトを見た。うーむ、エリーはこの男のどこに惹かれたのかな? 服はヨレヨレだし、不器用だし‥‥‥。
まぁそれを言えば俺も同じか‥‥‥
* * *
〜以下レクターの回想〜
俺は最初は黒髪で黒い瞳のアナスタシアに惹かれていた。でもそれは所詮見た目だけだった。アナスタシアが仮に俺の婚約者になったとて、それは建前であって、王位を継ぐための基盤に過ぎなかっただろう。表向きは煌びやかでも、でもその裏には愛もなくて‥‥‥
「ヴァレリア‥‥‥」
ヴァレリアとアナスタシア、この二人が入れ替わっているということは、今のヴァレリアは中身はアナスタシアという事なんだよな。
でもこの際どっちがどっちかはどうでもいい! 俺は今のヴァレリアに会いたい!
【お嬢様はご覧の通りご乱心しております。王子には申し訳ないですが、三日間ほどお嬢様に会うのを控えていただけますか?】
俺は先日のエリーの言葉を思い出していた。そうだった。俺は今別荘に帰っても、ヴァレリアにはあえないのだ‥‥‥
俺は重い足取りでコンスタン(俺の愛馬)に跨ると、その歩をゆっくりと進めた。
「ん? あれは‥‥‥ヴァーリャか?」
視線を凝らすと、バルコニーに立つヴァレリアが見えた。
俺は思わず手を振った。だがヴァレリアは気付いてないようだ。
(ん? 何をしているんだ? ヴァーリャは)
ヴァレリアは虚ろな目をしてバルコニーに佇み、ゆっくり片手を挙げた。その片手の中には光の玉があった。
『一度も愛した事のない者へ。明日には愛する事を望みます‥‥‥。あるべきところへ、おかえりなさい』
ヴァレリアがそう何かを唱えると、虚ろだったヴァレリアの瞳がカッと見開き、紫のオーラがゴウゴウと音を立ててヴァレリアを纏う。
その時ヴァレリアの片手の中で浮遊していた光の玉がヴァレリアの片手を離れ、一斉にある方向に向かってすごい速さで消えていった。
(何だ? 何が起こっているんだ?)
「お嬢様〜!! 外は冷えますよ! 特に今はお体を冷やしてはいけない時期ですのに! 全く何をやっているんですか!? 怒」
「あ、ごめんなさいエリー‥‥‥」
「全く! 少し目を離したらすーぐこれなんですからブツブツ‥‥‥」
ブツクサ怒っているエリーに手を引かれてヴァレリアは部屋に戻っていく。
その時ヴァレリアがこちらを振り返り、目が合った気がした。
(ヴァーリャ‥‥‥?)
俺は心臓が跳ね上がった。ヴァレリアは気付いていたのだろうか?
ヴァレリアは、何故か泣いていた。
えっ今のヴァレリア様はなんぞや?
ユーリは意外と酒も強いしアレクもいるし魔法も使えるし、ひょっとするとユーリが一番強いんじゃね?ユーリ最強説浮上ですね!ていうかユーリ可愛いなぁ!
作者は全然お酒は飲めませんが、親戚のおじさんが酒豪なのでなんとなくお酒の名前を覚えました。
この話が面白いと思った方は★★★★★入れてくださいね!今のヴァレリア様は何ぞやと思った方は応援よろしくお願いします。
ここまでお読みくださってありがとうございました。