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ヴァレリアとアナスタシア  作者: 杉野仁美
第三章 セト達の秘密
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嫌いだけどそれでも弟

セクメトを氷漬けにした事を報告したレクター。

最初は行かない姿勢を貫いていたオシリスだが、ついていく事になった。一行はレクターの案内によって森へと向かう。

 レクターとユーリ、セトとオシリスの四人は、街からずいぶん離れた森に向かっていた。


「えっ? セクメトはこんなところで氷漬けにされてんの? ずいぶん神秘的だな。わはは!」


 だからそこ笑うところなのか? ユーリはどことなく楽しそうだな‥‥‥。オシリスは何考えてるかわからんな。表情が固い。


「もうすぐ着くよ」


 俺が手を上げると森の木々がまるで意思があるかのように俺達を受け入れて避け、先程までそこになかったはずの湖が姿を現す。


 そしてその湖の上にはセクメトの氷の彫像が鎮座(ちんざ)していた。


「おお〜! これは思ったより芸術的だな! オシリス見てみろ!」


「ああ、見てるよ。確かに芸術的だな」


 セトとオシリスの話し声に気付いたらしい。セクメトが元気よく暴れ出した!


「おお! 兄弟! 兄! 助けてくれよ! やっさで! もう凍えて死にそうだ!」


「えっ? なんだお前喋れるのか!? 意外と元気っさね。がはは!」


「セクメト‥‥‥。もうそいば状態でいいんじゃなかっさ? 芸術作品みたいでいい感じっさね」


 セト達の国の言葉だろうか? ところどころ意味がわからない。


「なんやっそい!! ひょっとしてお前ら俺のこと助けるために来たんでなくて、馬鹿にしにきたんか?!」


「ああそうだよ。どんな間抜けを晒してるのかと思ったら、結構サマになっとるっさ。なぁオシリス」


「そうだな。王子、こいつはこのままでいいですよ。どうせ反省なんかしないんだ。このくらい元気なら放置してもよかです」


「オシリスてめぇ!! 兄なら助けろっさ! 俺はヴァーリャと結婚して、故郷に帰るんさ!」


 なんだと‥‥‥?


「わわわ、王子! 王子落ち着いてくださいよ! オーラが、オーラが出てますって!」


 ユーリの制止に俺はハッとする。


 俺はまた無意識にウードガルザに変身しようとしていた。ヴァレリアの事になると俺はいつも冷静さを失う。それは多分ウードガルザもヴァレリアが気に入っているからだろう。


「すまんユーリ」 


 俺は殺意のオーラ(ウードガルザ)を慌てて引っ込めた。今ヤツ(ウードガルザ)になってしまうと、今度こそセクメトを殺しかねん。


「もー王子はヴァレリアさんの事になるとすぐカッとなるんですから! もう少し冷静にならないと。なんせ相手はセトさん達の弟さんですよ。セトさん達がどう思っているのかわからない限り下手な事はしない方が‥‥‥」


 ユーリがそう俺に耳打ちしてきた。その声が聞こえたのか、セクメトはますます激しく暴れだした!


「なんぞてめーは! 陰気な前髪ばしやがって! 俺たち兄弟の問題に首ば突っ込むなっさ!」


 セクメトはセト達が助けてくれないのがわかってやけになっているのか、ユーリに八つ当たりしだした。


「お前、ユーリは関係ないっさ。ユーリば俺たちの仲間っさね。関係ない奴に八つ当たりするの情けなかけんやめれ! ユーリ、すまん」


 セトが慌てて謝る。セトがとった言動でもないのに。やはりこの兄弟、関係性がよくわからない。


「は‥‥‥? お前、ひょっとして今ユーリの事馬鹿にした?」


「えっ、ユーリ?」


「俺の前髪がどうしたって? ああ?」


 途端に黒いオーラがユーリをまとい、その前髪をかきあげた。アレクが出てきたのだ。


「あちゃー、アレクだ。しばらく出てこなかったのになぁ」


 セトが顔を覆う。


「はっ、セクメト。お前、(ユーリ)の前髪がどうとか言ってたけど、俺の前髪は元々上がってんだよ? お前の方がよっぽど情けねーじゃねえか。ヴァレリアを襲いかけただの、卑怯でダサい真似しやがって。いっぺん死ぬか?」


 いや、それお(アレク)が言うか? お前もヴァレリアを襲いかけたのだが‥‥‥。


「よーし決めた! お前は殺す!☆」


 アレクのその言葉を聞いて俺は慌てた。


「まっ、待てアレク! セトとオシリスの最終決定がまだだ!」


「知らないよ! 俺のユーリを馬鹿にしたんだ。それなりの報いは受けてもらう」


 そう言ってアレクは何やら呪文を唱えだした!


『おやすみ。哀れな子羊よ。寄り添って寝る者もおらず、救いの天使を思い描きながら死にゆく者よ‥‥‥レクゥィエスカ』


 その時アレクの前にオシリスが立ちはだかった。


「オシリス‥‥‥。お前」


「‥‥‥‥‥」


 セトの呼びかけに無言で(うつむ)くオシリス。やがて長いため息を吐き、ひとことひと言噛み締めるように言葉を綴った。


「アレク、すまない。こ、こんな奴でも一応弟なんだ‥‥‥。ユーリを馬鹿にしたのは必ず謝らせる。だから殺すのは、勘弁してくれ」


 そう言うとオシリスは完全に項垂(うなだ)れて片手で顔を覆った。


「自分でも何をしているか意味がわからないよ、こんなに馬鹿で、嫌いなはずなのに。それでも弟なんだ‥‥‥。セクメトは幼い頃は誰よりも怖がりでね」


「わわわーーーー!!// オオオオオシリス!! それ以上ば言わんでくれ!! 恥ずかしいっさ!」


「よく俺とセトのどちらかの部屋に来ては一緒に寝ていた。セクメトは馬鹿だけど、そういう可愛い一面もあったんだ」


 セクメトの方を見ると、顔が真っ赤になっていた。ほぉ? セクメトにはある意味これが一番効果があるんじゃないのか?


「ふーん? わかった、殺さないでおいてやるよ。ふーん、怖がりでセトとオシリスと一緒に寝た事があるんだァ、セクメトかわいい〜。ちなみにそれ何歳くらいまで続いたの?」


 アレクが意地悪な笑みを浮かべ、からかうように言う。


「まぁ俺がセトのあとを追うように王位を放棄するまでは続いたよ。図体ばかりデカくて中身はまるで子供。馬鹿で、考えなしで、おまけに怖がりなんて、欲張りだよね。それもあって俺はセクメトが嫌いなんだよ」


「もぉぉぉ!!// そいば言わんでくれよぉ!! 頼むから! もうヴァーリャも王位も諦めるから! セトとオシリスにも甘えないから!! ちゃんと自立するからぁ!!」


 セクメトは涙目で騒いでいた。でかい図体が狭い氷の中で小さくなっているような気がした。


「ははは、それを聞くと可愛いな」

 《ヴァーリャの件は許せんが》


「ふぁぁ〜、なんか馬鹿らしくなってきちゃった。じゃあ俺は引っ込むよ、あとはそっちでやって」


 そう言うとアレクは引っ込み、馬の上でピクリと体が跳ねたかと思うと、やがて眠ってしまった。


「騒がせてしまったな。ユーリには申し訳ない事をした。セト、オシリス、セクメトはああ言っているがどうする?」


「セクメトもユーリの怖さがわかった事だし、しばらくあのままにして反省させて、そのあと解放したらいいんじゃないか?そのかわりお前本当にこれがラストだぞ? 今度変な真似したら俺が《元》兄弟代表で殺すからな!」


「うん、にいちゃんごめん‥‥‥」


 にいちゃん? 今にいちゃんって言った? さっきまであんなにオラついてたやつが? まるで子供じゃないか。ハハッ


「っ! お前こういう時だけ『にいちゃん』呼びやめれ! 氷漬けの期間延ばすぞ!」


 セトの一喝で、セクメトは黙ってゆっくり頷くと、シクシク泣き始めた。


「‥‥‥っ! あーダリィ! 王子〜もう今日は帰ろう! オシリスも!」


 セトの言葉を受け、俺はまた森の木々で湖を隠した。


「あいつ、ああいう事するのうまいよな! 卑怯だよな! マジ嫌いだわ〜!!」


「ああ、本当に。できれば一生俺達の見えないところで大人しくしていて欲しいものだ」


 セトとオシリスが口々に言うが、恐らく本音ではセクメトは「可愛い弟」なのだろう。ユーリの中のアレクのように、「憎いけど消えてほしくない」存在。


 それが兄弟というもの、セクメトなのかもしれんな‥‥‥


 でもそれとヴァレリアの事は別だ!!



「なんやっそい!」やら「そいば」はセト達の故郷の方言です。「やっさで」は「急いで」という意味があります。可愛いよねぇ〜方言本当好き。


うーむ、例え腹違いといってもやはり兄弟の縁は切っても切れないのですかね。セクメトの意外と可愛いエピソードに思わずニッコリ☆(ニッコリか?)


ここまでお読みくださってありがとうございました!



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