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ヴァレリアとアナスタシア  作者: 杉野仁美
第三章 セト達の秘密
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変な仲間たち。だがそれがいい

早速セクメトの事を話しにオシリスの家を訪ねたレクター。

オシリスが起きて来るまでしばらくまったり過ごすのだった。

「王子がこんな早朝からここへ来るなんて。ひょっとしてセクメトの報告か何かか?」


 セトがユーリの()れてくれた茶をさも当たり前のように飲みながら聞く。


「ああ、実はそうなんだ。あの後オシリスの言う通り、セクメトがしつこく俺の別荘にきやがってな」


 ブッ! セトは紅茶を吹き出し、むせた!


「ゲホッ、ゴホッ!! な、何ちゅうやっちゃ! 馬鹿にも程があるだろ! まさか本当に戻ってくるなんて! あーセクメトを兄弟の名から除名してぇ〜」


 セトはそう言うと、顔を洗いに行ってしまった。


「やはり元兄弟といっても、情があるのだろうか‥‥‥。セトも、オシリスも。オシリスは自分がした事でもないのに頭を下げてきたし」


【故郷には戻したつもりだったけど、まさかセクメトがお嬢様を襲いかけたとは‥‥‥。本当に申し訳ない!】


 横で話を聞いていたユーリが口を開く。


「僕には兄弟がいないからなんとも言えないけど、アレクは憎いけど、消えて欲しくない存在だと、思っています。アレクはなんだかんだ言って、僕を守ってくれたし、昨日王子の殺意を感じた時にも、僕を守ろうとしてきた。セトさんたちとは少し違うかもしれないけど‥‥‥。ハハッ、参考にならないですね!」


「いや、充分参考になったよ」


 憎いけど消えて欲しくない‥‥‥。か。


 談笑していると、ハチミツが乗ったパンがユーリの魔法によって運ばれてきた。俺が驚いていると、ユーリが笑う。


「驚いたでしょう? セトさんたちの故郷ではハチミツが一般的に普及しているんです。ここでは滅多に食べられないのにびっくりですよね!」


「あ、ああ‥‥‥。ヴァレリアに言ったら喜びそうだ。ヴァレリアは甘いものが大好きだから」


「オシリスさんに言えばいくらでも仕入れてくれると思いますよ」


 しばらくしてセトが洗面所から着替えて出てきた。エリーがいないからか、ボサボサの赤い髪があちこちにほっちらかり、服はヨレヨレだった。


「セト、お前その格好はないだろう。俺でも毎日洗濯しているのに。魔法でだけど‥‥‥」


「俺は着れりゃあそれでいいの! お? ユーリ〜!ハチミツパンを用意してくれたのか? ラッキー! やはりお前を住まわせて正解だったぜ」


 俺は驚いてユーリを見る。まさかユーリはセトやオシリスの服や靴下まで洗っているのかと?! 俺の言わんとしている事を察知したのか、ユーリが自分の後頭部に手をやりながら言う。


「ははは、僕も住まわせてもらうからにはと一度打診してみたんだけど、セトさんもオシリスさんも嫌がりました。今のところ僕は朝食を出すだけですね。あとは各々やってるみたいです」


 ユーリはそう言って肩をすくませた。


「セト、お前はエリーに一度来てもらって溜まった洗濯物を渡せ。不潔な男は嫌われるぞ」


「なんだよ王子、今日は説教に来たのか?」


 あ、忘れてた。セトの不潔さとあまりの無頓着ぶりに、セクメトの事が頭からポンと抜け出ていた。なんか今日の俺ヴァレリアみたいだな。


「まぁ座ってくれ。セクメトの事だが、結論から言うと、俺が氷漬けにしてしまったんだ」


 ビシッ! という音が聞こえそうな程、今度はユーリが茶を口に運んだまま固まってしまった。


「ええっ? セクメトを氷漬け? うわぁそれは悲惨だな。俺たちの故郷はあったかい地域だからなぁ。今頃ガチガチ震えてるんじゃないか? ははは!!」


 いや‥‥‥。そこ笑うところか? うーむやはり分からん。この兄弟の関係性が分からん。


「面白そうだから見に行こうぜ、オシリスも誘ってな」


「お、おい。それでいいのか!? いくらセクメトが馬鹿だといっても、俺はお前たちの弟を氷漬けにしたのだぞ?」


 セトがハチミツパンを貪り食いながらキョトンとした。


「ははははは!! いくら弟でもやっていい事と悪いことがある! 今回あいつはオシリスの言うように大人しく帰ればよかったのに、よりによってお嬢を傷つけかけたんだ! 氷漬けにされても仕方ねぇよ! お嬢は俺たちの仲間だし、王子もそれは同じだ。仲間を傷つける奴はたとえ兄弟でも許さねぇ!」


 俺はセトが「仲間」といってくれた事が嬉しかった。

 だが同時に‥‥‥


 《オシリス、たすけ、て‥‥‥》


 俺はセクメトが氷漬けになる前の断末魔をセトに告げた。


 セトは俺の話を聞いてしばらく顎に手を置いて考えていた。


「うーん、たとえそれが本当の事だとしても、俺には(セクメト)がお嬢を傷つけかけた事の方が重要だ。お嬢はエリーの大切な人で、王子のかけがえのない存在だ。俺は、セクメトより、俺の仲間が傷付く事の方が恐ろしいよ」


 セトはそう言うと自分で言って恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にした。


「セト‥‥‥。お前、そんなことを思っていたんだな。普段そんなことを話さなかったから。わからなかった。ありがとう、そんな風に思ってくれて!」


「べべべ、別に!//」


 エリーが惚れるのもわかる。セトの豪快さ、不器用ながらも仲間を思う気持ち。それでいて自分の言葉に迷いが一切ない。


「まぁ、オシリスが起きてきたらセクメトがどんな様子か見に行ってみようぜ。あいつは馬鹿だけど、生命力も蛇並みにしつこいんだぜ。ははは!」


「そ、そうなんですか? (ラー)の恩恵が薄くても、そこは大して違いがないとか?」


 パンを食べながらユーリはセトに聞く。


「いや? 恩恵とかは関係ないぜ。これはあいつの性格」


「ははは、じゃあなおさら氷漬けにしてよかったですね王子!」


 天使のような悪魔の笑顔を浮かべてユーリがこちらへ目を向ける。


 うーむ、やはり俺たちは変わり者の集団のような気がするな。二重人格のユーリ、王位など無関心なセトとオシリス、セトよりヴァレリア命のエリー。滅多に口を開かないが独特な話し方のケルベロス、そして何より城での生活より外の世界の方が好きな。変わり者で、天真爛漫な、ど天然のヴァレリア。


 思えばヴァレリアには、ずいぶんと振り回されてきたな。


「ハハッ! そうだな!」


 だがこれでいいのだ。俺たちはこれで。


 王位の事はまた親父と話して、レーヴァテインとも話して‥‥‥


 《魔剣とは仲良くなれないのですか? 私とニーズヘッグみたいに。だって魔剣は生きているのでしょう?》


 俺はいつぞやのヴァレリアの言葉を思い出していた。最初は何を馬鹿なことをと思っていた。


 でも、今のレーヴァテインなら、もしかしたら‥‥‥



それぞれ個性強いけど、セトがレクターの事を「仲間」といつのまにか自然に言える関係性になっていた事が嬉しくて驚きでしたね。


※ハチミツについては諸説ありますが、この話では王子のような貴族以外は滅多に食べられないものだった設定にしております。


ここまでお読みくださってありがとうございました!


最近恋愛要素少ないですよね( ;∀;)

私もイチャイチャが書きたーい!

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