ケルベロスもエリーも食わない
いつにも増してわけのわからない話です。
情緒不安定なヴァレリア様が大暴れする様と、完璧超人のレクターがオロオロする様をご覧ください。
「ヴァーリャ! ただいま! 帰ってきたよ。もう心配はいらないからな」
俺は頑丈な鍵を開けてヴァレリアの寝ている部屋へ入った。
ヴァレリアは起きて、たくさんの枕をクッション代わりにしてベッドに座っていた。ベッドに取り付けられているカーテンで、その表情は見えない。俺はそのカーテンを捲り上げながら話しかけた。
「ヴァーリャ」
「誰だ?」
「え?」
ヴァレリアの頬はほんのりと上気し、瞳はギラギラと輝き、紫のオーラが少し出ている。
「ヴァーリャ、一体どうしたんだ? ニーズヘッグが入っているのか?」
「ニーズヘッグ? ああ、あいつなら出て行ってもらった。今の私には触れて欲しくないからですわ。ところでお前は誰じゃ。先程からヴァーリャヴァーリャと馴れ馴れしい」
「???」
「私には晩餐会が控えているのじゃ。お前は貴族じゃないわね? ならば私の邪魔をするな! 去れ!」
俺が「ヴァーリャってこんなキャラだったっけ?」と混乱していると
「何をしている! 早く去れ!」
バチコーン!!
「ぶべらっ!」
ヴァレリアから平手打ちを喰らってしまった。俺は思わずそのヴァレリアの手を取る。相変わらず柔らかい。ふにゃふにゃで折れそうだ。俺の顔を打ったせいで真っ赤になっていた。
「ヴァーリャ、可哀想に。お前の美しい手が‥‥‥。こんなに真っ赤になって」
ちゅ、ちゅ、とその手に口付ける。
「なっ、何してんのよ!!// 離しなさいよ!//」
「ヴァーリャ、忘れてしまったのか? 俺だ、レクターだよ」
「もぉ! そんなもんわかってるわよ!! とにかく私は一人になりたいの!! 早く出て行ってよ!」
そう言うとヴァーリャは今度は枕でボスボスと俺の頭を叩き始めた。
「いて、痛て! ヴァーリャ! わかった! 落ち着くんだ! な?」
「わかってないわ! 全然わかってない! レクターは私の気持ちなんて全然わかってない!」
「ヴァーリャ!」
俺はヴァレリアの攻撃を避け、その体を抱きしめる。その途端ヴァレリアは枕を握ったまま動かなくなった。
「ヴァーリャ、一体どうしたのだ? 俺がいない間に何かあったのか??」
「むー‥‥‥」
* * *
私はヴァレリア。何かわからないけどものすごくお腹が空くし、ものすごく眠いし、それに! ものすごくイライラしますわ! その気配を察したのか、ニーズヘッグはいつのまにか居なくなっていた。
まるでいつぞや読んだ本の悪役令嬢みたいになった気分!
こんな私をほっといてなんでレクターはいないのよ! いや、レクターの事だからきっと何か考えがあって‥‥‥。だからって酷くない?!
まるで私の中の天使と悪魔が一生言い合いを続けているみたいだわ!
「ヴァーリャ! ただいま! 帰ってきたよ。もう心配はいらないからな」
私の中の天使と悪魔が戦っていると、レクターが帰ってきた! どうしよう嬉しい〜!!♡♡♡ でも今は会いたくない! 何故私をほっぽってどこかに行っていたレクターをお迎えしなくちゃならないのよ! 自分でもこの胸のざわつきが何なのかわからないけど‥‥‥。なんとかしないと〜! そうだ! もうこうなったら悪役令嬢になり切ってしまおう!
という意味のわからない心情のままに悪役令嬢になりきってみたけど、どうもレクターには通用しないみたい!!
「うーむ。相変わらずいい匂いがするなぁヴァーリャは。ほっとする、しばらくこのままでいさせてくれ」
「わ、私も‥‥‥//。レクターに、会えて、会いたくて‥‥‥」
そこで私の涙腺は崩壊した。
「うわぁぁぁぁぁん! レクター! なんでレクターは私のそばにいないのよ! 私のいて欲しい時に、そばに居てくれるのがレクターでしょ!?」
私は再びレクターの腕の中で暴れ始めた。
「触らないでよ! 触らないで! 嘘! 嘘なの! このまま抱きしめていて!」
自分でも言っている事がめちゃくちゃである。でもどうしようもないこの気持ち。誰か説明してよぉ〜!!
「ヴァーリャ、落ち着くんだ。落ち着いて‥‥‥。深呼吸しような?」
ああ、レクターの腕の中。暖かくて気持ちいい。なんだか頭の中がふわふわしてきましたわ。
「んっ?!」
気付いたら私はレクターに口付けていた。離れたくない。離したくない。レクターは私のものよ!
「ヴァ‥‥‥。ちょっ‥‥‥」
「ちゅっ、ちゅ、んー、レクター」
「ちょっと待て! ヴァーリャ! これ以上はまずい!!」
「何がまずいんですの?? それよりまだしたいぃ〜!」
そう言いながら私はレクターを押し倒した!!
「ふふ、逃しませんわよぉ〜」
「ヴァーリャ! ふざけるのはよせ! いくらお前でも‥‥‥」
「いくら私でも、なんですの? 怒るんですの??」
私は知っている。レクターは私に対して絶対怒らないんだわ! だからわざと怒られるような事をしてるの! 悪いことだとわかってはいるけど、でも自分でもどうしたらいいかわからない!!
「クソッ‥‥‥。このっ//」
可愛いヴァレリア。悪戯っ子のように笑う姿も、キラキラと輝く紫の瞳も、全部が愛しい!! クソクソッ!
ギギギギイイイ!!
その時ものすごい音と共にエリーが頑丈なドアを自力で開けて部屋に入ってきた。えっ? エリー? それ、確か鉄製のドアだったよね?
「はぁはぁ、ニーズヘッグから聞いて急いで来ましたわ!! お嬢様! 大丈夫ですか!? お怪我はないでございますか?」
エリーの体全体から怒りのオーラが見えた《気がした》。
エリーの視界には、ヴァレリアが王子を押し倒している姿が見えた!!
「ヒィィィーーーーッ!!」
そう叫ぶとエリーは私とレクターを離した!
「王子! 今のうちです! どうか何も聞かずに出て行ってくださいませ!」
「エ、エリー、助かったよ。色々と。だがヴァーリャが‥‥‥。ヴァーリャの様子がおかしいんだ」
「出ていけって言ってんだよ! このクソレクター!! うわぁぁん!」
嘘! 本当は出て行って欲しくない! やっぱり出て行って欲しい! 私はもうめちゃくちゃだった。まぁ先程からめちゃくちゃなんだけど。
「お嬢様はご覧の通りご乱心しております。王子には申し訳ないですが、三日間ほどお嬢様に会うのを控えていただけますか?事情はその時に説明しますわ」
「みっ、三日間!? それではいくらなんでも寂し‥‥‥」
「三日間ですよ。たったの!」
エリーが口元だけで笑い、目元はめちゃくちゃ笑っていなかった。怒りだ。このオーラは怒りだ。何度も経験してきたからわかる!
「あ、ああ‥‥‥。はい」
俺はエリーに従うしかなかった。すごすごと部屋を後にしようと、足をドアに向けた時だ。
「レクター!!」
ヴァレリアに呼ばれて振り返る。
「レクター、ごめんなさい。グスグス‥‥‥。愛してるわ」
エリーに支えられながらヴァレリアが呟く。
「あ、ああ! 俺も愛してるよ! ヴァーリャ!」
俺がそう叫んだ途端にドアがバタンと閉められた。
本当何やってんだろうねこの二人は(笑)特にヴァレリア様は何やっそい。めちゃくちゃやないか。
個人的にはもっとレクターをオロオロさせたかったなぁ〜。
この二人の喧嘩?は、多分ケルベロスもエリーも誰も食わないと思います私は(汗)。
次回は何故ヴァレリア様が情緒不安定になったのか!!エリーが優しく解説してくれると思います!多分。
ここまでお読みくださってありがとうございました!