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ヴァレリアとアナスタシア  作者: 杉野仁美
第三章 セト達の秘密
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戯れのウードガルザ・ロキ

前回ウードガルザに変身したレクターは、とりあえずヴァレリアの部屋とエリーのいる馬小屋を補強し、セクメトに会いに行くのだった。

 バキバキ、バキッ!


 レクターの身体がひと回り大きくなり、髪は金色になり、瞳の金色がギラリと光る。背中には金色の翼が生えて体が浮く。


『全く、今日は忙しいなレクター。相変わらずヴァーリャの事になると必死だな。ハハハ』


 そう言ってウードガルザ(ロキ)は、セクメトのいる部屋に(おもむ)いた。


 * * *


「イッテェェ〜!! 頭思いっきりぶつけっちまった。ヴァーリャはいないし! どこにいっちまったんだ?」


 俺はセクメト。ヴァーリャの部屋から吹っ飛ばされたが、しつこく戻ってきた男だ。この俺の力をもってすれば、このおんぼろ荘に戻ってくる事など朝飯前よ!


 それにしても寒いなここは! 俺の国とは大違いだ!


 セクメトはほぼ裸の腕をさすりながらぶるる、とその身を震わせた。


『やあ、はじめまして。君がセクメトか? 私はウー‥‥‥レクターだ。申し訳ないがヴァーリャは今別室で休んでいる。出直してくるか、私と勝負して君が負けたら大人しく帰るというのはどうかね?』


 いつのまに居たのだろう。窓の外でバッサバッサと羽根を羽ばたかせている全身金色コーデの男が、こちらを見ていた。


「わぉ! イカしてんじゃんその格好。で? お前はヴァーリャの何なわけ? いきなり勝負とか負けたらどうとか意味がわからんのだが?」


『私はヴァーリャの婚約者だ。だからお前にはヴァーリャに指一本触れさせたくないし、できれば私の目に付かないところで静かに過ごしてほしい。な、セクメト?』


「え? なんで俺の名前を知っているんだ?」


『ハハハ! どうでもいいだろそんな事は! それより早くこちらに来い! 勝負だ、セクメト』


 目の前の金色コーデの男は自分のことを「レクター」と名乗り、ヴァーリャの婚約者だと言う男の言う通り、おんぼろ荘とは離れた場所に来た。まぁ俺もヴァーリャを傷つけたくはないからな!


「どのようにして戦うんだ?」


『ふーむ、さすがセト達の兄弟のことはあるな。この姿を見てもこのオーラを感じても何ともないとは』


 レクターは俺の事をジロジロ見ながら感心したように言った。


『ところでさっきからお前は鳥肌がすごいが、寒いのか?』


「んお? お、おお‥‥‥。この国は俺の故郷よりすごく寒いぜ。なぁ、それより一体どんな方法で戦うんだ? 武器は材料さえあれば作れるが」


 レクターはこちらに向けて微笑んだ。その妖艶な微笑みに、思わずドキッとしてしまう!


「な、なんだなんだテメェ! 俺に魔法をかけるつもりか? 言っとくが俺は魔法とか不確かなもんは苦手だぞ! 恩恵は受けてないし、馬鹿だからな」


 セクメトの言葉を聞いて、思わず目を丸くするロキ。


(えっ? 今自分で馬鹿って言った? コイツ‥‥‥。まぁ馬鹿には違いないだろうが、少し面白いな)


『ふふふ、いい事を教えてやろう。お前が先程から「勝負、勝負」と言っているその「勝負」についてだが。悪いが初めから勝者は決まっているのだよ』


「おん?」


『お前がヴァーリャに触れたと聞いた時は殺そうと思っていたが、面白いからお前は殺さないでおく。仮にもセト達の兄弟だしな』


「なっ、なんだよ! 何をするつもりだ!」


【青く若々しいその姿よ。お前の青臭さは深くさげすまれ お前の彫像を この雪原は残す事を許すだろうか? そして唯一許された湖は冷たく流れつつお前の姿を(たわむ)れに引き裂いてゆく】


 ロキが何事か唱えると、たちまち俺の周りに冷たい湖が広がった!


「うわぁ!」


 叫んでもがくが、まるで足が縫い付けられたかのように動かない!


「なんだこれなんだこれ! さみぃ!! やめろ〜!!!!」


 ふとセクメトが自分の足元を見ると、氷が蔦のようにセクメトの足をつたっていた!


【満ちゆけよ湖よ お前、かくもか細き青きものよ ほどなくお前は この湖の(ぬし)となり 誇らしげにお前のその姿を湖に映すだろう】


「うおおお〜! オシリス、たすけ、て‥‥‥」


 ビシィッッッ!!!!


 その瞬間、セクメトは湖の上で、生きたまま氷の彫像になってしまった。湖の上で固まるその姿は、セクメトの化粧と相まってなんとも言えない芸術作品のようになった。


『ハハハ、素晴らしいな。過去最高の傑作ができた』


 ウードガルザ・ロキがそう言って高笑いをした時、レクターの姿に戻った。


「調子に乗りすぎだ! 加減をせんか馬鹿もの! セト達の故郷はここよりずっと暖かい場所なんだぞ。危うくセクメトが死んでしまうところだったぞ!」


 レクターはウードガルザに怒っていた。


「セクメト、生きているか?」


 レクターは氷の彫像(セクメト)に話しかける。セクメトは凍ったままレクターを(にら)みつけて来た。


「ははっ、睨むほどの元気があるなら大丈夫だな。本当ならお前の命はここで終わっていたところだが、お前はオシリスとセトの兄弟だと言うじゃないか。二人には借りがある。お前の処遇はセト達と相談して決める。それまでその湖の上で大人しくしていろ」


 それにしても‥‥‥


 《オシリス、たすけ、て‥‥‥》


 自分の断末魔でオシリスに助けを求めるとは‥‥‥。兄弟とはそんなものなのか?


 《セクメトが来た理由は、兄弟で王になるはずだったイシスを殺しかけて、国を追放されたからなんです。それで俺を頼って来たんだ。俺はセクメトが大嫌いだったので‥‥‥》


 俺は酒場で聞いたオシリスの言葉を思い出していた。


「はぁ‥‥‥。兄弟というのは、ややこしいものだ。時には傷つき、傷つけて。たとえ殺しかけたとしても、心の底からは憎しみ合えない。ということか?」


 そういえば、ハンニバルはどうしているかな。


 俺とは対称的に誰にでも笑顔を振り撒き、全権を俺に譲り。俺を心から尊敬し、俺とは魔剣が選ぶ前からずっと『王位を争う意志のない』弟。ハンニバル。


「あいつ、元気でやっているかな。アナスタシアとも‥‥‥」


 あっ、そういえば!


 レクターはヴァレリアをおんぼろ荘に置き去りにして出てきた事を思い出した!


「待ってろヴァーリャ〜! 添い寝をしてやるからな〜!!♡ 俺の体温で温めてやるからな!」


 そう言うとレクターはウッキウキでその足を金色に染めたかと思うと、おんぼろ荘に向けてすごい速さで走っていった。



セト達が暖かい国出身というのは、話には出ていないけどずいぶん前からレクターは知っていました。なんかメイン以外でそういう日常話も書いてみたい。


うーむ。さすがウードガルザ・ロキ。戦う事を楽しんでますね。

この物語は基本的にほのぼの目指してますのでよっぽどの悪以外は殺しませんよ。甘いかな?


ここまでお読みくださってありがとうございました。



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