執念のセクメト
大して時間も開いていないのにレクターとヴァレリアは見ていて胸焼けのするイチャイチャ劇を開催した。
エリーは呆れて部屋を後にする。
「ヴァーリャ、動く事はできるか?」
ヴァレリアはゆっくりと首を横に振る。ニーズはまだ寝ている。
「無理だわ、身体中がだるいの」
そう言って俺の顔を見上げるヴァレリア。俺は思わずドキッとした。
なんだなんだ! き、今日のヴァレリアは一段と色気がすごいな!
「そうか‥‥‥。無理は良くないな」
まぁ仮にセクメトが来たとしても追い払えばいい事だしな‥‥‥。またウードガルザにならないとも限らんが。
「ヴァーリャ、とりあえず今日は一日ゆっくりするといい。ごめんな、こんな防壁もない別荘で。何か作ろうか?」
「いえ‥‥‥。側に居てください」
グルルゥゥ〜‥‥‥
その時タイミング良くヴァレリアの腹が鳴った。
「ははは、エリーに何か頼んでくるよ」
「必要ありませんわ、その扉の前にあるはずです」
「えっ?」
俺はドアを開けた。そこには綺麗に揃えられた食事が銀の三段トレイに並んで用意されていた。
「ははは、エリーはわかってるな。とても優秀な女中だ」
「ふふ、そうですわレクター。エリーは完璧なのですわ。いつも私の腹時計を完璧に把握しているの」
「ブフッ、ヴァーリャの腹時計」
「なっ//!何がおかしいんですの?」
「いやいや、可愛いと思ってな」
俺がそう言うと、ヴァレリアの頬がたちまち赤くなる。
「かっ、かわ//もうからかうのはやめてくださいよ! 早くそのトレイを渡してください!//」
か、可愛い〜//顔が真っ赤になってますます色気が‥‥‥
気付いたらヴァレリアはガツガツと手づかみでパンと肉と魚を貪り食べていた!
「お、おお‥‥‥。今日はまた一段と食欲がすごいな」
「ふんっ! ひふらたべてもふぁんぞくしないのですわ!(うん!いくら食べても満足しないのですわ)」
私、どうしたのかしら。味わうというより食べたい!とにかくお腹を満たしたい!
(ヴァーリャ‥‥‥。よほどお腹が空いていたのだな)
ヴァレリアの横に座ってガツガツと貪り食う様子を見、その頭を撫でた。よほど腹が減っていたのだな。
「西日が眩しいな‥‥‥」
そう言ってカーテンを閉めようとした時、太陽の中でキラリと光るものに気付いた。あれは‥‥‥
「ははははは! 破壊神にして復讐者!! セクメト様のお出ましだ! 戻ってきたぜいヴァーリャ!!」
は? セクメト? あいつがセクメトか? セトとオシリスの兄弟にしては随分と馬鹿っぽいが‥‥‥。特にあの自己紹介は何だ?
それよりもあいつが今呼んだ名は、ヴァレリアの愛称じゃないか?! どうしてセクメトがヴァレリアの愛称を知っているのだ?
セクメトは先程ヴァレリアのいた部屋に激突したらしく、イッテェェ!!という悲鳴と、ゴロゴロと部屋の中を転がり回る音が聞こえた。
《セクメトは兄弟の中で一番頭が悪い》
いや、あの普段から何を考えているかわからないオシリスから聞いていた通り、セクメトは本当に頭が悪いな。いつまでもあの部屋にいるわけがなかろうが。
とはいえ今ヴァレリアが休んでいる部屋と先程休んでいた部屋は結構距離がある。
「ふぅ、仕方ない。この部屋だけでも細工をするか」
ふとヴァレリアの方を見ると、食べて満足したのか、食べかすを頬に付けたまま寝ていた。
よかった‥‥‥。ヴァレリアの前ではなるべくあの姿にはなりたくないからな。
『槌はどんな槌 鎖はどんな鎖 どのような杭で お前の城は守られたか? どのような手が どのような目が お前の城を囲んだか?』
俺はウードガルザに変身し、呪文を唱えてこの部屋とエリーのいる場所を補強した。
『まぁ、この程度でいいかな』
ヴァレリアのいるこの部屋は外側から見て一見何もない廊下になり、部屋の外には鉄の壁と忍び返しを取り付けた。
『さて、セクメトをどうしてくれようかなぁ、ククク‥‥‥。よりによって私のヴァーリャを襲おうとするとは。なんと命知らずな愚か者だ』
「ぎゃー! こ、これは一体なんなのですわー!!??」
一方でコンスタン(王子の馬)に飼い葉を与えていたエリーは、突然馬小屋が鉄製に変わり、出入り口が鉄製の頑丈なものに変わったのを見て驚いていた。
「あのクソ王子! また何かやりましたわね!! お嬢様に何かあったら今度こそ叩きのめしてやる!」
エリーは血走った目でそう言った。
セクメト笑
どんだけ馬鹿なんだ。でも個人的に憎めないんですよねぇ。
エリーはどんどん言葉遣いが壊れていってますね。
ヴァレリア様への愛ゆえですね。
ここまでお読みくださってありがとうございました。