おんぼろ荘の壁計画
酒場でオシリスの話を聞き、レクターは急いで戻るのだった。
「う。うう〜ん」
「お嬢様! お気付きになられましたか?」
お嬢様は顔面蒼白ながらも体を起こそうとする。私はそれを必死に止める。
「お嬢様! 無理は禁物です。今日は一日中お休みになってください」
「え、エリー。何故ここに? でも嬉しいわ。エリーが来てくれて。お料理も大失敗したし、かまども黒焦げにしてしまいましたもの」
どうやらお嬢様はあの不届き者の事は覚えていないようだ。私はホッと胸を撫で下ろした。
「ねぇエリー。ちょっと私の足元を見てくれない? 少し気持ちが悪くて」
「ええ、お安い御用ですわよ」
そう言って私がお嬢様の下半身の部分だけ布団をはだけた時だった。一階の大部屋で音がした。どうやら王子が帰ってきたらしい。私は急いで内側から鍵をかける。
「お嬢様いけませんわ。直ちにシーツと布を変えないと‥‥‥」
「うん、今の音は何? レクターかしら?」
私はお嬢様の言葉を無視してテキパキとシーツと布を取り替えた。
「そんな事までしなくていいのに‥‥‥。もう私はお嬢様でも何でもないのに‥‥‥」
ふぁぁ、とあくびをして、お嬢様はまた眠りに落ちてしまった。顔色はさっきより良くなっている。布とシーツを変えたからかしら? いずれにしろ顔色が戻ってよかったわ。
「そうはいきませんわ、私にとってお嬢様はいつまでもお嬢様です! いつまでも側にいさせてください。お仕えさせてくださいね」
「うーん、エリー、嬉しいわ‥‥‥」
コンコン!
ドアをノックする音が聞こえる。王子だわ!
「王子、お嬢様はお休みです。何か用事でしたら私が聞きますわ」
私はドアの前で小声で話す。
「あ、ああ‥‥‥」
「王子〜? 何かよからぬ事を企んでませんか? 例えばお嬢様を一目みたいだとか、抱きしめたいだとか」
「う、実は‥‥‥。その通りなんだ。ヴァレリアがどんなに怖かったかを思うとたまらなくて」
私はお嬢様は何も覚えていない事を説明した。
「だから大丈夫ですわ、王子。もう少しの時間我慢してください。お嬢様は今繊細な時期な」
「そうだ! 先程の不届き者がまた来るかもしれないのだ! ヴァレリアを移動させないと! もしくはこのおんぼろ荘に急いで防壁を作らないといけない!」
「いいえダメです! 今のお嬢様を動かす事はたとえ王子であろうとこのエリーザベトが許しません」
うごご‥‥‥
ドアの向こうから王子のうめき声が聞こえた。
「エリー、どうしたの?」
気付いたお嬢様がまた体を起こそうとしている。私は慌ててお嬢様のもとへ急ぐ。
「お嬢様! ご無理はなさらないでください」
バキバキッ! ベキ!
(は? 何今の音? 嫌な予感)
私はゆっくりと音のした方を振り向く。そこにはドアノブを壊して部屋に入ってきた王子が佇んでいた。
「レクター!」
心底嬉しそうに、花のような笑顔を浮かべてお嬢様が王子の名前を呼ぶ。
「ヴァレリア、会いたかった‥‥‥」
(こっ、このお二人は、何日も会えなかったわけでもないのに!)
はぁ‥‥‥。そんな心からの笑顔を見せられたら、ここを離れることしかできなくなるじゃないですか。お嬢様。
私はゆっくりとお嬢様から離れて王子に礼をし、部屋から出た。
「レクター!! 私も会いたかったですわ!」
「ヴァーリャ! 俺も会いたかった!」
二人のイチャイチャする声を背後に聞きながら、私は胸焼けを起こす前にコンスタン(王子の馬)に飼い葉を与えるためにその場を後にした。
不届き者が何度来ようと、王子がなんとかするでしょう。まぁとにかくこのおんぼろ荘から一日も早く離れる事が第一ですわね。不届き者はこのおんぼろ荘の位置を覚えているはずですから‥‥‥
この二人のせいでトラブルに巻き込まれてこの二人のせいでイチャイチャを見せつけられてエリー可愛い子。セトお前も酒場で寝てないで来いよ!このおんぼろ荘に!
※おんぼろ荘って響きが大好きで一生言ってます。
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