波乱の予感
王子がおんぼろ荘に着く頃にはもう夕刻に差し掛かっていた。そこで王子が目にした光景は‥‥‥
「お疲れ様コンスタン。ありがとう。あとで上等の飼い葉をやるからな」
コンスタンから荷物を取り部屋に置き、俺はヴァレリアが待つ部屋に急いだ。時はもう夕刻に差し掛かっていた。
「ヴァーリャ?」
ふと見ると、ヴァレリアの部屋の扉が開いており、内部が荒らされているようだった。
「‥‥‥ッ! ヴァーリャ!」
慌てて部屋に入ると、ベッドには顔面蒼白のヴァレリアが寝ており、ボサボサ髪のエリーがベッドに突っ伏し、部屋中にガラスの破片が飛び散っていた。
「これは、何という事だ。エリー! 俺が城に行っている間に一体何があったのだ?」
エリーがゆっくりと顔を上げる。泣き腫らして目が浮腫んでいる。その双眸にはメラメラと怒りの炎が見えた《ような気がした》。
「何があったのだ?(キリッ)じゃないのですわ! このクソ王子! 王子がこんな城壁もない、防壁もないクソおんぼろ荘にお嬢様を置きざりにしたからこんな事になったのですわ! 前にも言ったように、王子がお嬢様を一番守りたいはずなのにいざという時に守れなくてどうしますの!?」
そう言うとエリーはそこら辺の調度品やら飾りやらを俺に投げつけて来た。
「えっ、エリー! 落ち着くんだ! 俺がいない間一体この部屋で何があったんだ?!」
「お嬢様は、お嬢様は、暴漢に襲われかけたのですわ! それをニーズヘッグとお嬢様で撃退して、最悪の事態は免れたのです! それでこの有様なのですわ! お嬢様がどんなに怖かったか‥‥‥。それを思うと‥‥‥。びぇーん!」
な‥‥‥
俺の背中に冷たいものが走った。一気に顔が青ざめる。
「ヴァーリャ!」
ヴァレリアの方へ足を向ける俺をエリーが止めた。
「お嬢様を起こさないでください! お嬢様は今」
「エリーすまん! ヴァレリアの顔が見たい」
「‥‥‥」
俺はヴァレリアの寝顔を見る。ヴァレリアの呼吸は落ち着いているが、顔が青白い。
「ヴァーリャ‥‥‥」
名前を呼びながら思わずヴァレリアの体を抱きしめる。冷たい‥‥‥!! ヴァレリアの体は割れた窓ガラスから入る冷たい風ですっかり冷たくなっていた。
「ヴァーリャ、こんなに冷たくなって。ごめんな。ごめんな」
「‥‥‥。王子、お嬢様をどこか暖かい部屋に移動したいんですが、ここ以外にありますか? 何しろこのクソおんぼろ荘に来たのは急でしたのでまだ全ての部屋の確認ができていないのです」
「ああ、そうだな」
俺はそう言うとヴァレリアを抱き抱え、暖炉のある部屋に移動した。俺はその部屋にあるベッドにヴァレリアを寝かせた。エリーは急いで材料を持ってきて暖炉に火をつけた。
「‥‥‥。エリー、お前の言う通りだ。こんなおんぼろ荘に住むのはやめて、もっと頑丈な作りのヴァレリアの為の城を用意しよう」
油断していた。しばらく何もなかったから‥‥‥。
《王子がお嬢様を一番守りたいはずなのにいざという時に守れなくてどうしますの!?》
クソッ! エリーの言う通りだ!
『おー王子〜やっと帰ってきたのか?』
ニーズヘッグがふらふらしながらやってきた。
『王子には一応説明しとかなきゃな、ふぁ〜眠い』
「あっ、そうでしたわ!」
エリーが何かを思い出したかのように部屋から出ていった。
『俺様も何がなんだかわからなかったが、どうやら暴漢の名前は「セクメト」と言うらしい。俺様はその響きからしてセトの知り合いか何かかと思ったんだけど、セトは紳士だしなぁ。関係があるとは思えないが。とにかく今はヴァーリャは疲れてて起きないし、俺様も限界だから、あとはそっちで何とかしてくれ。王子ならできるだろ』
そう言うとニーズヘッグはヴァレリアの胸元にこてんと倒れてしまった。
そういえばニーズヘッグとヴァレリアは繋がってるんだよな。ヴァレリアが眠い時ニーズも眠い。ヴァレリアが疲れている時はニーズも疲れている。ニーズが傷ついたらヴァレリアも傷つく!
ニーズヘッグ、そんな状態で伝えてくれてありがとう‥‥‥。今はヴァレリアと一緒に思う存分休むといい。
と同時に怒りが湧いてきた。セクメト? 誰だろうが関係ない。俺のヴァレリアに手を出す者は、誰であろうと許さない‥‥‥
王子の体を青い炎が包み込んだ!
「王子、部屋から出て行っていただけますか〜?」
布を持ってきたエリーがその場に立ち尽くす。
「王子?」
レクターはその場から居なくなっていた。
「これは‥‥‥。羽根?」
床に目をやると、金色に輝く羽根が落ちていた。
エリー笑
完全に八つ当たりですが、ヴァレリア様の為には我も立場も分からなくなります。いいなぁ〜ここまで尽くされて、ヴァレリア様愛されてるなぁ〜。
ここまでお読みくださってありがとうございます!
また読んでくださいね。