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ヴァレリアとアナスタシア  作者: 杉野仁美
第二章
155/269

ブランシュ公爵夫人

前回「大人の女性」になったヴァレリア。

久しぶりに聞くエリーの声に安心して眠りにつくのだった。一方王子はマッハ10でバルカ城に戻っていた。


※こちらを読む前に第136部分の「番外編・私はシリウス」を読んだ方がわかりやすいかもしれません。

いや読まなくても大丈夫かな?(どっちやねん)

 一方バルカ城にて、王子は執務室に直行していた。


「シリウス! シリウスはいないか!? 急いで清潔な布を用意してくれ!」


 返事の代わりに返ってきたのは静寂だった。


「シリウスはいないのか?」


 バルカの宮殿を後にした俺は、学校へと続く長い廊下(と言っても城の一部なので広い)を歩いていた。


 暇な貴族たちがヒソヒソ声で扇で口元を隠して噂をしているが話しかけては来ない。身分の低いものは一度でも俺(王子)に話しかけられない限り、自分から話しかけてはいけない決まりがある。


「王子?」


 その中で一人の女性の声に呼び止められて振り向く。この女性は確か‥‥‥。親父の異父弟の愛妾‥‥‥


「ブランシュ、ここに来るとは珍しい。ヴィクトル公は今確か国外に行っているはずでは」


「ふふ、そう(おっしゃ)る王子こそ、ここに来るのはお珍しいですわ。いつもは宮殿にいらっしゃるのに。私は今日は偶然ですのよ。主がいない城のお守りなど退屈ですからね。今日はここでカジノが行われると聞いて待っているのですわ。王子は誰かをお探しですの?」 


 確かに公爵夫人であるブランシュには取り巻きがいなかった。いつもここに足を運んでいるのなら侍女なりつけるものなのに。偶然というのは本当なのだろう。


「ああ、シリウスを探しているんだ」


 それを聞いてブランシュは驚いた様子だった。


「あら、ごめんなさい。シリウスは今いないのです。少し私の私用を頼んでしまって。お詫びに私が用を承りますわ。ちょうど退屈していたところだし」


 実を言うと俺はこのブランシュがあまり好きではなかった。派手好きで浪費癖も激しく、何度かヴィクトル公が国庫の金を前借りするほど。そのせいでヴィクトル公は外国に行って交渉をするハメになっているのだ。ブランシュ、確かに美しいが、ヴァレリアほどの美しさや聡明さは垣間見えない。


 俺は何も期待せずにブランシュの話を聞く事にした。


「はぁ、それなら‥‥‥」


 俺は事情を簡単に説明した。


「何ですって? 清潔な布? ああ、それでしたら。ギシェットが良く知っているはずよ。この城のあらゆるお嬢様のお抱えの仕立て屋さんだから」


 ギシェットとはブランシュの従姉妹であり、城下町の仕立て屋をなんとたった一人で切り盛りしていた。


「そこに行けば上等の布をいくらでも出してくれると思うわ」


 ブランシュ以外の親戚たちはみんな質素なのだ。ブランシュだけが公爵夫人でいい気になっているのかもな。


「ブランシュ、ありがとう。早速訪ねてみるよ」


「こちらこそ王子のお役に立てて光栄ですわ」


 ブランシュ、公爵夫人の地位にはついているが夫であるヴィクトル公爵はもうとうにバルカでの権力を失っている。ブランシュがその事に気づくのは果たしていつだろうか?


 とはいえ、ブランシュのおかげで上等の布を確保できる。ヴィクトル公の身の振り方も少し考えねばな‥‥‥。まずはバルカに呼び戻して‥‥‥

 俺はそう考えてハッとした。いかんいかん、この城に来ると、ついつい仕事脳に切り替わってしまうな。


(ヴァレリア〜! 待っていてくれよ!)


 俺は慌ててギシェットの仕立て屋に足を向けた。


「ふふふ、王子があれほど慌てるとは‥‥‥。ヴァレリア様がよほどお好きなのでしょうね」


 ブランシュは高級娼館(ラ・パイヴェ)で働いていた事があるので情報は筒抜けだった。もちろんヴァレリアと王子の関係も。シリウスが王子を怒らせた事も。


 一見噂好きかと思われたブランシュ。案外口が堅いのだった。派手好きに見せているのは仮の姿。むしろブランシュは一番の苦労人かもしれないのだ。

 ブランシュの身内には女性がたくさんいた。当時は女というだけで舐められる時代だ。そのためなるべく高い地位に上り詰めるために、知識と教養、美しさを人一倍磨き、どうすれば男性の懐に入れるのかを人一倍勉強した。もちろん身内の女性にもそのように教えてきた。


 女性が権力を得るためにのしあがるには、ブランシュのような影で努力する(したたか)さがものを言うのかもしれない。


「ふふふ、まぁ私はまだただの噂好きな道化のふりをしていましょう。いつか女性が輝ける時代が来るまで」


 それに私はヴィクトル公を愛していますわ。王子は誤解されているかもしれないけど。いつかまた二人、領地でのんびり暮らす日を過ごせる日を願って。だからこそ今はどんなチャンスも見逃さないわ。


 それにしても、ヴァレリア様は本当に不思議な女性だわ。最初は王子に媚びを売るだけの馬鹿な小娘だと思っていたけれど、高級娼館(ラ・パイヴェ)での一連の出来事を知り、百八十度見方が変わったわ。王子が夢中になるのも頷ける。


「密かに応援していますわよ。ヴァレリア様」


 これからは貴女(ヴァレリア様)のような強い女性が輝く時代。ブランシュはそう呟いて窓の外を見た。



ブランシュ公爵夫人は道化を演じるのがうまいですね。憑依型女優ですね!


ここまでお読みくださってありがとうございました。


ブランシュ公爵夫人はポッと出のキャラかと思ってたという方は広告の下の☆に点をつけて行ってくださいね!今回王子出番少なくね?と思った私は、自分でもそう思います。


ご拝読ありがとうございました。また読んでくださいね!

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