森で迎える朝
ヴァレリアお嬢様の体を借り、アナスタシアは目覚めた
もうシャンデリアの光も、天蓋付きのベッドもない、ただの寝袋の中で
改めてアナスタシアは旅の喜びを噛み締めるのだった
お嬢様〜!ヴァレリアお嬢様ー!朝ですよ!
んん‥‥‥
「お嬢様、何故泣いてらっしゃるのですか??」
エリーの心配そうな声がして、ムクリと起き上がる。
「ん、何故私‥‥‥涙なんか」
見渡すと今までの景色とは違い、シャンデリアもレースもない、ただの寝袋で寝ている己の姿が目に入った。
ああ、そうか。もう私はお城を出て、外に出たのだったわ。
「まさかもうホームシックですか?お城はとっくに出たというのに」
エリーが困ったような、優しい笑顔を向ける。
「朝ごはんできてますよ!昨夜セトがお魚を釣って来てくれたんですよ!」
セトというのは最初の冒険の時に魔物から助けてもらった戦士の名前だ。
テントから出ると、セトが焼き魚を食べているところだった。
「焚き火、初めて見ましたわ」
言うとセトは笑った。
「ブフッ、どんなお嬢様育ちかしらねぇが、俺こそ火を初めて見たやつには初めてお目にかかったわ!」
「すみません、青い炎なら見たことあるんですが。まだ私が学園にいた、授業中の実験で‥‥‥。ですけど、あと‥‥‥」
少し照れながら言う私にエリーがフォローを入れてくれた。
「私はお城でしょっちゅう見てましたけどね!薪をくべて火を起こすんですよ。お嬢様はもう準備されたのをご覧になっただけだから、直接火を見るのは初めてかもしれませんね!見た事ないのも無理ないです、火は危ないですからね」
「おいおい、城とかお嬢様とか、マジモンのお嬢様だったのかよ。だったら尚更ラッキーだったな俺が通りかかって」
セトは笑って言った。
「はい、昨夜はお世話になりましたわ、ちょっとすみません、顔を洗ってきますね」
「気をつけて行けよ!まぁまだ朝だからそんな活動的なやつにはそうそう遭わないかもしれんが」
そのセトの言葉に続いて、エリーが声をかける。
「お嬢様、お気をつけて、私はセトと一緒に片付けてます」
セトと一緒に‥‥‥ファ〜いいなぁ!推せる推せるわ!体格差カップルゴリ推しできるわ!
半ば妄想気味に岩場をぴょんぴょん駆けて、私は川にたどり着いた。川の水は澄んでおり、吸い込まれそうだった。水を両手で掬って顔を洗う。
「ぷはーいい気持ち!朝の空気がこれほど美味しいとは知らなかった!頑張るぞ〜!」
ふと、徐にタオルが差し出された。
「あ、エリー?ありがと‥‥‥?」
エリーだと思って見ると、違った。
そこには城にいるはずのレクター王子が立っていた。
ファー!体格差カップル私も推せますヴァレリア様!
ところで王子はどうやってヴァレリア様を見つけたのですかねぇ?
ここまでお読みくださってありがとうございました。