ウードガルザの力
ウードガルザ(レクター)の咆哮に、
気絶してしまったユーリとエリー
レクターは一人、悪魔リヴヤタンと対峙するのだった。
(ヴァーリャは、気を失ったままか、)
ウードガルザはヴァーリャ(ヴァレリアの愛称)に目を向けた。
『ッ‥‥‥』
リヴヤタンは先程の自信満々な勢いはどこへ行ったのか、ブルブルと震えて縮こまっている。
当然だ、普通の人間が見たら死ぬほどの殺気を放っているからな。たとえ相手が悪魔でも、この姿の本気の殺意は堪えるだろう。
『これでも加減はしている。さて、まずはお前の目的を教えてもらおうか?』
俺はヴァーリャとニーズヘッグを安全な場所に隠しながら言った。
もちろん殺気はそのままに。
『目的? 目的はないよ。ただ海賊が僕の住処を荒らさないようにここら一体に定期的に叫び声を上げているだけだ』
ふー‥‥‥
『私が聞いているのはそっちじゃない、歌を使ってヴァーリャを誘惑した事だ。お前はヴァーリャを誘って何をする気だった?』
『そ、それは僕もいい歳だし、生涯の伴侶を探していたんだ‥‥‥』
リヴヤタンは言葉を詰まらせながら言った。
『生涯? お前は悪魔だが、ヴァーリャは人間だ、人間が悪魔の伴侶になれるわけが無かろう。それにヴァーリャは私の婚約者だ』
俺がそう言うと、リヴヤタンは高笑いをした。
『はははッ! そんなの知ってるさ! その女の命が尽きれば、また他の女を探せばいい、僕は今までそうやって生きてきたのだ。どうあっても、人間の方が早く死んでしまうからな!』
『‥‥‥。お前の生き方に文句を言う筋合いは私にはない。だがヴァーリャはダメだ。ヴァーリャは、私の命なのだ』
【「レ‥‥‥レクター‥‥‥無事でよかったです‥‥‥私の、愛、レクター‥‥‥」】
あの時のヴァーリャの表情を思い出し思わず目をぎゅっと閉じる。
『リヴヤタン、今回は諦めろ。他の女なら好きにすればいい。それにこの船のことも、お前の好きにすればいい』
そうしたら見逃してやる。
逆らえば、どうなるか分かってるな??
リヴヤタンはヴァーリャの方に視線を向ける。
その視線には、迷いがあった。
俺はその視線の迷いを見逃さなかった!
『おい、お前、諦めろと言っただろ、死にたいのか?? それに軽々しく私のヴァーリャを見るな』
だがリヴヤタンは食い下がった!
『‥‥‥。せめて触れるだけでも許してはくれないか? なんと柔らかそうな肌だ‥‥‥』
(この俺の殺気を前に何を言い出すのだ? 馬鹿なのか? コイツは)
ウードガルザは深いため息を吐いた。
『お前は何もわかっていないな。よろしい、見せてやろう‥‥‥。このウードガルザ・ロキに逆らった者がどうなるのかを』
視線を海の方に向ける。リヴヤタンがいるからか、荒々しく渦を巻いている。
『インサニア・フィーニア!!』
パァ‥‥‥ッン!
海が割れた。という表現が正しかったのか。ウードガルザが何かしら唱えて指を鳴らすと、海の渦を巻いているところを中心にパックリと穴が開いた。
ヒッ、とリヴヤタンが小さく叫んだのがわかった。
急に海が割れたのでビチビチと魚が驚いたように跳ねている。
『お前もこうなりたいか?』
うっすら微笑みながら、リヴヤタンの方を見る。ウードガルザの金色に燃える瞳を見て、リヴヤタンはぶんぶんと首を振ることしか出来ない。
恐怖で喉がひりつき、声が出せないのだ。
『そう、いい子だね。素直な子は大好きだよ』
そう言うとウードガルザは海に翳していた片手を離した。その途端、荒々しかった波は収まり、先程のことが嘘のように凪いでいた。
まだガタガタと震えている様子のリヴヤタンを見てウードガルザが口を開く。
『もう大丈夫だよ。私は基本的に余計な争いはしたくないんだ。ザダクのように刃向かってくる奴は徹底的に潰すがな‥‥‥』
ウードガルザはふふっ、と笑って言った。
『ああ、そうそう。私はおまじないができるんだがね。素直に言う事を聞いてくれたから、お前にもかけてやろう』
リヴヤタンはまだ喉がひりついているのか、答えられない。
【慈悲、愛、そして憐れみがあるところには、また愛も宿るだろう】
ウードガルザがそう唱えると、それまで闇色に染まっていた船の周辺、空、海に光が差してきた。
『お前は海賊に自分の寝床を荒らされたくない余りに、少々闇に染まってしまっていたのだ』
この光を見たらきっとまた人々が集い、お前を海の神と崇める者もいずれ現れるだろう。
そう言ってウードガルザは、バチッと指を鳴らした。
『あっ』
リヴヤタンのひりついたままだった喉が解放され、瞳は青くなり、震えていた体が元に戻った。
『お、お前‥‥‥。いや、貴方様は、まさか』
リヴヤタンが言いかけたのをウードガルザが自分の唇に人差し指を立てて制する。
『それはもう良い。その代わり私のヴァーリャを二度と誘うなよ。もし再びよからぬ想いを抱いたら、お前が死んでも地獄の果てまで追いかけて殺してやるからな』
ウードガルザがそう言うと、リヴヤタンが冷や汗を流し背筋を伸ばした。その様子を見て、やっとウードガルザはレクターの姿に戻る。
レクターを包んでいた青い炎は消え、金色に光っていた瞳もやがて青い色に戻った。
(今回は俺一人で解決してしまったな。仕方がない、相手が悪かった‥‥‥。悪魔がいるなんて聞いてなかったからな!)
レクターはふーっとひと息を吐いた。
レクター強すぎてワロタ
※会話文の中に「。」←を入れてみました。
今まで読みにくかったと思います、気付かなくてすみませんでした
今回はレクター一人で解決してしまいましたね。
いや、その方が良かったのかもしれませんね
普通の人間なら死ぬほどの殺気を放ってたから
バトルシーンがなくて本当すみません( ;∀;)
ここまでお読みくださってありがとうございます。