私はヴァレリア・ド・ポンパドゥール
平和堂で何事もなく一夜を過ごした二人(笑)
ヴァレリアはアナスタシアの部屋へ再び足を運ぶのだった。
※ヴァレリア様視点ですが少し分かりにくいかもしれません。
翌日。まだニーズヘッグが暴走しないとも言えないため、念のためニーズヘッグを挟むように一緒に寝た三人。
ヴァレリアはまだ寝ている。
そういえば昨日寝る前にヴァレリアはアナスタシアの部屋に行きたいと言ってたな‥‥‥
俺も今日は親父と話があるし、シリウスにも言いたい事があるし、それは一向に構わないのだが。
(まさかまた前のようにならないだろうな?)
【アナスタシア様に言われちゃったの、私は悪魔憑きだって。だから、王子。レクターも、もしかしたら悪魔憑きは嫌なのかなって色々考えちゃって】
とか言ってまた俺の心を掻き乱すのではないか?
その時ヴァレリアの指輪が朝日を浴びて光った。
(あの金色は、俺の瞳の色。ウードガルザの瞳の色‥‥‥)
そうだよな、あの時とはもう違う。俺たちは婚約しているのだから大丈夫だよな。
俺はホッとひと息つくと、そっとヴァレリアの頬に口付けた。
* * *
「では私はアナスタシア様の部屋へ行ってきますわ。レクターはガルシア様とお話しになるんですっけ?」
「ああ、そのつもりだ」
俺はアナスタシアの部屋の方へ足を向けるヴァレリアをジッと見ていた。その視線に気づいたヴァレリアが口を開く。
「なんですの? また私が変な事を言い出さないかと勘繰ってる? 大丈夫ですよ! もう私とレクターは婚約者同士なんですから!」
俺はまたホッとしていた。今朝考えていたような事を、ヴァレリアが言ってくれた。
「じゃあ、お話が終わったらテラスで待っていますわ!」
ヴァレリアはそう言ってその場を後にした。
「さて、俺もそろそろ行こうかな」
俺は宮廷女官に親父の居場所を教えてもらい、そこへ向かって足を運んだ。
* * *
「よし、気合いを入れますわよ! ニーズヘッグ!」
『おう!』
私はアナスタシア様の部屋の前に立ち、深呼吸をした。
私は今日、元は私の体であるアナスタシアに永遠の別離を告げにここに来た! 私はこの体で生きていく事を伝えに‥‥‥
「アナスタシア様、ヴァレリア様です」
アナスタシア様の女中が声をかける。しばらくの沈黙の後、アナスタシアのか細い声が聞こえて来た。
(か細いけれど、とても澄んだ耳障りの良い声だわ)
「また今日は何しに来たのよ。また私を笑いに来たわけ?」
アナスタシア様は相変わらず御簾ごしに話していた。
「‥‥‥。今日はお別れを言いにきました。ヴァレリア様。いえ、アナスタシア様」
「えっ?」
「アナスタシア様と、決別しに来ました。その許可をいただきに来たのです、アナスタシア様。ヴァレリア様のこの体、私が受け取っても良いでしょうか?」
「は?」
「私はヴァレリア様の体を借りて、ヴァレリア様として今まで生きてきました。ヴァレリア様の健康な身体は、とても快活で、素晴らしいと思います。でもいつか返さなければいけない時が来る。そう思っていました」
アナスタシア様が慌てて口を挟む!
「で、でも元に戻るには、貴女が死なない限りは戻らないのよ!」
「ええ、ですから‥‥‥。私はアナスタシアには戻りません。まだ生きていたいから。この体で生きて、まだまだやりたい事が沢山あるのです!」
な、何よそれ、何よそれ! 私の体で生きたいですって!? そんな事、よくも呪いをかけた本人に言う気になれるわね?!
でも‥‥‥。この女、本当にヴァレリアとして生きていくつもりなのだわ。何となく、決意?みたいなのが伝わってくる。
そんな事、わざわざ私に言いに来るなんて、私に許可を取りに来るなんて‥‥‥。変な女、元々は私が呪いをかけたせいで、悪魔ニーズヘッグに取り憑かれたりしてるのに。
「だから、ヴァレリア様の体をいただきに参りました。許可をお願いします!」
私がヴァレリアとして生きていく事の許可を!
そう言って深々と礼をする。御簾越しのアナスタシア様を見つめながら!
私は、ヴァレリア! 元はアナスタシアだったけれど、今はレクターの婚約者!
『ヴァレリア・ド・ポンパドゥール』
「‥‥‥」
【ーーーーヴァレリアは死ななかった。ずっとずっと、憎かった私! アイシャを殺した私、憎かった! 醜かった私! 自分が嫌いで嫌いで、仕方なかった!】
アナスタシア様は少しの沈黙の後、重い口を開いた。
「そうね。元は私の蒔いた種ですものね、私も今まで貴女に言えなかった事を言うわ‥‥‥」
そう言ってアナスタシア様は自ら御簾を開けた。
まだ顔色は悪いけど、肌荒れも良くなっているし、髪も以前より艶を取り戻していた。
「貴女、髪が!」
ん?髪?ああ、ザダクの時の‥‥‥
「ははは! 思い切って切っちゃいました! いけませんでしたか?」
私は照れたように頬をポリポリと掻きながら話す。アナスタシア様はそう‥‥‥。とだけ答えた。どうやら怒ってはいないようだ。
「私、愚かだったわ、ごめんなさいアナスタシア‥‥‥。いえ、ヴァレリア。私もこの体で生きていたい。許可してくれるかしら? この私を、この体を、好きだと言ってくれる方がいらっしゃるから‥‥‥//」
アナスタシア様の口から出たのは意外にも謝罪の言葉だった!
私はアナスタシア様の頬が僅かに紅潮しているのを見た。ああ、それで身なりに気を遣うようになったのね‥‥‥? 態度が以前より軟化している気がするのも、そのせいかしら?
ああ、いいわね//いいわね//恋の力って偉大だわ‥‥‥
「ええ! もちろんですとも!」
「私今だから感じるわ、貴女の強さを。貴女は美しいだけじゃなく、心も強かったの。アナスタシア、いえ、ヴァレリア。私は大事な人を失ってから誰にも心を開けなくて、ずっと氷の様に心を閉ざしていたけれど」
【自ら人を遠ざけて、自ら孤独になって‥‥‥。体だけ入れ替わっても、中身が伴わなければ意味がなかったんだわ。アナスタシアと同等の、心の強さが有れば‥‥‥】
「入れ替わっても、結局私は何も変わらなかった」
「そんな事ないわ! 貴女には今好きな人がいるのでしょう!? その人のために、美しくなろうと、健康になろうと頑張っているじゃない、貴女も充分強いわよ」
アナスタシア様は一瞬ポカンとした顔をした後、少し笑った。
「ふふふ、貴女って本当変わってるわね。憎むべきは私のはずなのに、憎むどころか私を励ますだなんて‥‥‥」
完敗よ。アナスタシア、いえヴァレリア。貴女はきっと誰と入れ替わっても、自分の意思で切り替えて、自分の意思で人生を切り開いていくのでしょうね。
「アナスタシア様、貴女と私。会うのはこれで最後にしましょう」
私はアナスタシア様の肩に手を置いて話しかけた。その手にアナスタシア様が触れる。
「‥‥‥。ええ、そうね、それがいいと思うわ。私のために、ごめんなさいヴァレリア」
「何を言っているのです。貴女のおかげで私は念願叶って外に出る事ができて、こんなに充実しているのに」
私がそう言うと、アナスタシア様は私の姿を上から下まで見た。コルセットの代わりに皮の鎧を付け、短剣を差し、いかにも冒険者の様な格好。
アナスタシア様は思わず吹き出した。
「そうね、貴女にはその生き方が合っているのかもしれないわね!もうその体は貴女のものだわ。髪を切るなり冒険に行くなり自由にすれば良いわ。私は健康的な体を持ってしても、きっとこのバルカにしがみつく人生しかなかったと思うから」
笑っているアナスタシア様を見て、私はこの人はもう大丈夫だ。なんとなくだけど、そう思えた。アナスタシア様、貴女はもう平気だと言える。たとえバルカにしがみつく人生しかないと言っても、貴女が選んだ道なら大丈夫。
「じゃあ、私はこれで‥‥‥」
私はアナスタシア様の部屋から出て、婚約者候補だけに用意された広い敷地内を見渡す。もうここに来る事もない。会いに来るのは恐らくハンニバル様だけになるのね‥‥‥
「あっ、肝心な事を伝えるのを忘れていたわ!」
私はバタバタと再びアナスタシア様の部屋に入る!
「何よ! もう会わないんじゃなかったの!? 騒がしい人ね! もう寝ようと思ってたのに!」
アナスタシア様は怒ってはいるが、本気では無さそうだ。先程の謝罪といい、アナスタシア様はずいぶんとお変わりになった。
「アナスタシア様! アイシャは生きていますよ! ここだけの話ですから、お耳を貸してください」
「えっえっ?! アイシャ! ななななななんでヴァレリアがその名前を知って」
「ヴァレリア様だった時の記憶が残ってたんですよ。とにかくお耳を貸してください」
私はそっと小声で女中に聞こえないようにアナスタシア様に耳打ちする。
「ハァーーーーッ!? なななな何ですってェェェ?!」
「あ、アナスタシア様! そんなに興奮しないで! 血圧が上がりますわ! 落ち着いて!」
私の心配も虚しく、アナスタシア様はショックで倒れてしまった。
ヴァレリア様早速永遠の別れの事忘れててワロタ。
すみませんどっちがどっちか分かりにくかったですね。
いやどうなるんでしょうねこの二人は‥‥‥
入れ替わったアナスタシア様、少しずつだけど心を開くようになっていますね。恋の力って偉大だわ//
私はアナスタシア様にも幸せになって欲しいのですが‥‥‥
どうかな?
ここまでお読みくださってありがとうございます。
アナスタシア様に幸せになってほしい!と思った方は広告の下にある☆に点を付けて行ってくださいね。
ヴァレリア様途中までかっこええ〜けど抜けてると思った方は、私と握手して下さい。
ご拝読ありがとうございました。また読んでくださいね。