入れ替わったお嬢様
いよいよ本物のヴァレリアお嬢様の出番です
アナスタシア(ヴァレリア)が居なくなったお城で本物のヴァレリア様は一体何をしているのでしょうか?
もうあなたの体は私のものよ! 邪魔をしないで。
せっかく愛するあの方に会えるのに、何故あなたはまだここに留まっているのよ!
おどきなさい!ーーーーーー
ヴァレリアが冒険に出る少し前、バルカ城の奥にて。
「ああ、もう何なのこの体......」
ハァハァ、と苦しそうな息を吐く女が一人。
「何日も、熱が下がらない......。何を食してもすぐに吐いてしまうから体力もない!」
何なのあの女......
アナスタシア・サヴォエラ。
天使と見間違う程透き通る肌、黒曜石のような漆黒の瞳、奇跡としか言いようがない美しく長い黒髪! 恐らく、数ある婚約者候補の中で一番の美人。
あれが私のものになると思って毎晩呪術を施した! そしてある日それは成功した!
これで私はアナスタシアとなって、晴れて王子と結婚し、祝福される事になっていたのに!
「アナスタシアが、こんなに体が弱いとは、ハァッ、ハァ......」
アナスタシアの女中には早々に暇を出した。
今は人払いをし、この部屋にいるのは私一人だけ。
豪華なシャンデリアのその光さえも、目を突き刺すように痛い!
これでは、王子に会いに行くこともできない......
コンコン
「......ッ誰? 誰も来ないように人払いをさせたばっかりなんだけど!」
自身の体の痛みで、ついつい語気を荒げてしまう。
アナスタシアは、いつもこのような痛みを抱えていたの?でもそれを感じさせない程、いつも笑って、微笑んでいた。
周りの婚約者候補達にも愛されていた。
こんな体で、いつも......
アナスタシアは精神だけで自分の体を鼓舞してたの?
なんて、強いの。
なんて、儚いの。
私には、できない、とても敵わない......
「失礼します、只今、ヴァレリア様とレクター王子の婚約破棄が決まったというお話が入って参りました」
(は......?)
「今朝がた決まった事のようで、婚約破棄が決まって早々に女中と共に出かけたと聞きました。もうヴァレリア様のお部屋はもぬけの殻のようです」
なっ、なんですって! あの女、私の体を利用して、なんて勝手な事を......。いや、でもこれはチャンスだわ。だってもう忌々しい私はもうこの城のどこにもいないんですもの!
美しいアナスタシアを人一倍気にかけてくださっていた王子なら、何も私がわざわざ部屋を訪ねて行かなくても、いつかお見舞いに来てくださるわ。
それにしても、この体では何もできない。元に戻そうにも、それはあまりにも危険だからしない方がいいと。呪術は、成功したらそれまでだと思えと禁書に書いてあった。
これがアナスタシアを呪った罰なの?
だとしたら私はなんて愚かな......
「アハハハハ! 傑作だわ!」
まるで、アナスタシアにかけ続けた呪術が返ってきたみたい。
「私はもう休みます、側にいなくてもいいから、誰も私の側に寄せ付けないで」
ああ、結局またこの繰り返し。自ら人を遠ざけて、自ら孤独になって......。体だけ入れ替わっても、中身が伴わなければ意味がなかったんだわ。アナスタシアと同等の、心の強さが有れば。
私はただアナスタシア、貴女になりたかっただけなのに....
アナスタシア(ヴァレリア)の目から涙が溢れた。
ヴァレリアお嬢様にも、ヴァレリアお嬢様故の苦しみや寂しさがあったようですね
次回はまたアナスタシアサイドに戻ります
ヴァレリア様の体に入れ替わったアナスタシアは、相変わらず生き生きとしております。
ここまでお読みくださってありがとうございます!