表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァレリアとアナスタシア  作者: 杉野仁美
第一章 ヴァレリアとアナスタシア
128/269

無償の愛・ヴァレリア

前回馬鹿なことをしてスズメバチに変身し、フランシスに気絶させられたシリウス。

ヴァレリアが通りかかり、その声に目覚めてしまう。

 もう一度スピーヌム(気絶)をかければいいのだが、今のシリウス君にまたあの魔法をかけると元のシリウス君に影響が出ないとも限らない!


 どうすればいい?! どうすれば‥‥‥


「ヴァレリアさまァ〜! お助けくださいー!!」


「え? ヴァレリア‥‥‥?」


 フランシスが入り口の方を見る。そこには何とヴァレリアがいた!


「なっ!」


「ヴァレリアさ、ま‥‥‥。お助けください」


「えっ? その声はシリウス?」


 ヴァレリアの言葉を聞き、ザワッ! と入り口の親子が一瞬で殺気立つ。


 部屋の中からシリウスだったスズメバチがふらふらとこちらへ向かってくる!


「シリウス、落ち着け」


 ガルシアが(さと)すように言い。


「シリウス、ヴァレリアに手を出すな。お前を殺したくはない!」


 レクターは以前の高級娼館(ラ・パイヴェ)の出来事を忘れた訳ではなかった。放つ殺気はそのままに、(つと)めて冷静に話す。一言ひとこと、丁寧に。


「シリウスなの?」


「はい、ヴァレリア様。助けて」


 スズメバチのシリウスは話すたびに鋭い牙がガチガチと鳴る。


 ヴァレリアはレクターとガルシアの自分を止めようとする手を振り払って、自ら部屋に入る。


「ヴァレリア! やめろ! そいつに近付くな!」


「大丈夫よ! 元々はシリウスなんでしょう?」


 ヴァレリアのその眼差しには恐れも、憂慮(ゆうりょ)も微塵も感じさせなかった。


「ヴァレリア! 危ない!」


 俺は慌てた! ヴァレリアはよりによってスズメバチ(シリウス)に触ろうとしている!


「ヴァレリア! そいつは毒針を持っているんだ! 今すぐ離れろ」


 俺の声にヴァレリアの肩がピクリと揺れた。


「毒針? 毒ですって?」


 それを聞いた途端、ヴァレリアは少し考えた。


「ああ!☆」


 とさも良い事を思いついたかのようにヴァレリアの顔がパッと明るくなった!


 俺の方を振り向いて、大丈夫というようにウインクをするヴァレリア。


 と、ヴァレリアの周りに紫の煙が上がってヴァレリアの体を紫の煙が包む。


「待てヴァレリア! お前また‥‥‥。あの呪文を使う気では」


『イムブレカーティオ!』


 ジューダ‥‥‥ッ!! あぁ‥‥‥


「あなた、本当はそんなに綺麗な瞳をしていたのね‥‥‥」


 こんなに悲しいことがあるなんて‥‥‥


 ジューダに使ったあの術で、ヴァレリアは肉体的にも精神的にもしばらく苦しんだ。まさかまたそれを?


 ヴァレリアは俺の心配している様子に気付いたのか、ゆっくりと首を横に振った。


(ヴァレリア、大丈夫なんだな?)


「シリウス、落ち着きなさい。必ず助けてあげますよ」


 フランシスはハラハラしてどうするのかと眺めていた!


 このお嬢様は元に戻す方法を知っているのか?? 複雑で難解な魔術のひとつなのに?? 僕やガルシアでさえ、解呪の仕方はわからないはずなのに?


 ヴァレリアは紫のオーラをポンッと手のひらに出すと、その手でシリウスをひと撫でした。


「ぐわぁぁぁぁーーーーッ!! 熱い!熱いィーーーーッ! ヴァレリア様ァ!」


「落ち着いてシリウス! 大丈夫よ、必ず助けてあげます。必ず」


『ディリティディオ・リキュペリオ!!』


 ヴァレリアが何か唱えたかと思うと、スズメバチが段々人間の形を成してきた!


 まさか、元に戻っている!?


『ハァハァ、お前お前お前! どこまで面倒かけたら気が済むんだよ!』


 ヴァレリアの代わりにニーズヘッグが出てきて怒ったように言う。


『毒を以て毒を制するってあるだろ? 最悪な事に、スズメバチの毒は俺様の毒よりも弱いんだぜ! 本当に最悪だよ! こんな奴ほっとけばいいのに全くヴァレリアはお人好しというか何というかブツブツ‥‥‥』


 そうか、そういえば元々ニーズヘッグは毒を(つかさど)る悪魔だったな‥‥‥


 シュゥゥゥ‥‥‥


 スズメバチは、みるみるうちにシリウスの形になっていく!


 俺は我慢が出来ず、部屋に入った。ヴァレリアが支えているシリウスを代わりに支える。このままではヴァレリアが潰されてしまうからな!


「ハァハァ、ナイスタイミングだよ! 王子、そのままシリウスを支えていてくれさい!」


 またヴァレリアは口調がニーズヘッグと混ざっている。


「ヴァレリア。苦しそうだが、大丈夫なのか!?」


「おう! シリウスが重くて少し苦しかっただけだ。もう少しで終わる」


 やがてスズメバチは完全にシリウスになった。だがシリウスは気を失っていた。


「ふー、あとは寝たら治っているはずだよ。めでたい日に何やってんだかこの男は! さて私の役目はもう終わったし、予定通り平和堂に行きましょう」


 俺はシリウスをソファーに横たえながら答えた。面白い女だな、ヴァレリアは‥‥‥。さっきまで虫が苦手とか言いながら震えていたのに。


 その虫に平気で触れ、思いもよらない方法であっという間に解呪してしまった。


 だが同時に怖いもの知らずもいいところだ! これは後で説教だな!


「ヴァレリア様? もしよかったら解呪の方法を教えてくれないですか? 聞いた事のない呪文だった」


 フランシスが目を輝かせて聞く。


「あら、ユーリ? のお父様? どうしてここに‥‥‥」


 フランシスは事の経緯を簡易的に説明した。


「まぁそうでしたのね! 素晴らしいわ! どういう原理かはわかりませんが、とにかく素晴らしいわ!」


「それで‥‥‥。あの、どうやって解呪したのですか? シリウス君の呪いを」


「あはは、ただ解毒しただけですよ! 私には毒の悪魔が取り憑いているので、その悪魔がシリウスの毒を吸い取ったのです」


「えっ? たったそれだけで?」


「それだけですわ、本当に。解呪などはよくわかりませんけど、たまたま通りかかってよかったですわ。シリウスを助ける事ができたんですもの」


 フランシスはポカンと口を開けたまま信じられないといった様子でヴァレリアを見ていた。


「ははは! すまないフランシス。ヴァレリアは少し、その、恐れ知らずというか、世間知らずなところがあって‥‥‥」


「何か仰いましたか!? レクター!(怒)」


 二人は久しぶりにぎゃーぎゃー言い合いながら談話室を出て行ってしまった。


 後に残ったのはシリウスの規則正しい寝息と。ガルシアと、口を開けたまま固まっているフランシス。ガルシアは気まずそうに声をかけた。


「ま、まぁなんだ。フランシス。レクターの言う通りあのお嬢様は少し変わっていてな、自分に取り憑いた悪魔も逆に支配してしまった程なんだ! でも私はあのお嬢様が好きだ。今度は何をやらかすか楽しみですらある」


 ふとガルシアが見ると、フランシスの体が震えていた。


「ど、どうしたフランシス! 解毒で呪いを解いたのがそんなに気に食わなかったのか??」


「ガルシア、僕は今感動しているんだ。ヴァレリア様はただの命知らずでも、世間知らずでもない! 純粋にシリウス君を助けたい一心で虫になったシリウスに触ったんだ」


「??」


「ガルシアはあの状態のシリウス君に触れる事ができたか?」


 フランシスが聞くと、ガルシアはとんでもない!と言った感じでぶんぶんと首を横に振る。


「でもヴァレリア様は躊躇なく触れた!」


 皆恐れて触れなかった中で、優しさと愛だけを(たずさ)えてシリウス君を助けた。


【「落ち着いて! シリウス! 大丈夫よ。必ず助けてあげます、必ず」】


「シリウス君を助けたい、その一心だけで彼に触れたんだ‥‥‥。なかなか出来ることじゃないよ!」


 僕は、ヴァレリア様の勇気ある行動に、忘れかけていた何かを思い出していた。


 無償の愛だ。


「ははは! どうやらヴァレリアは、フランシスまで虜にしてしまったようだな! まぁ仕方ない。俺もレクターも、ユーリもヴァナルカンドもニーズヘッグも、みんなヴァレリアに魅入られているからな!」


 そう言ってガルシアは豪快に笑った。



ヴァレリア様、シリウスに色んな怖い目に遭わされたのに、鋼メンタルすぎ!(ただ単に危機感がないのかも)


シリウス元に戻ってよかったね!本当はバルカ城の周りを飛び回って城内パニック!ていうB級映画みたいな事やりたかったのですが、シリウス的にそんな事しないかな、て思ってやめました。


ここまでお読みくださってありがとうございます。



ニーズヘッグなんだかんだで助けてあげるのツンデレで可愛いと思った方は広告の下にある☆に点を付けて行ってくださいね!ヴァレリア様危機感なさすぎてワロタと思った方は正解です。


ご拝読ありがとうございました。また読んでくださいね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ