二人の婚約
ヴァレリアと王子は自分たちの婚約をするためにバルカ城に戻っていた。
翌日、ヴァレリアたちはバルカ城に来ていた。
「久しぶりだな」
「久しぶりですね」
聳えるバルカ城の宮殿を見上げて私とレクターは同じ事を呟いた。
「レクター? もう通達は行ってますの? 婚約式は内々で行うと」
「ああ、昨日のうちに全部手配した。何故か親父が宮殿の方に来ていたと聞いたな、親父は参加していいのだろう?」
そう言うとレクターは私に参列者一覧が書いてある紙を渡して来た。
【参列者一覧】
レオナルド枢機卿
ガルシア
ハンニバル
ユーリ
マクシミリアン
テセウス
シリウス
あ、見事に枢機卿以外は見知った方ばかりだわ。しかも全員(シリウス以外)は婚約を口外しなさそうだし‥‥‥
「枢機卿はすまん。一応儀式の進行役って事で」
「いいんですよ、そうですわね。進行役がいなければ始まらないもの。レクター、私の気持ちを汲んで下さってありがとうございます」
「ハハッ、このくらいお安い御用さ。さあ城に戻って着替えよう。ヴァレリアには不服だろうが一応儀式だからな」
「わかっていますわ、私は約束を守っていただいただけで充分ですもの」
各々の部屋で支度をする。ヴァレリアは久しぶりの自室に懐かしさを覚えた。
「今日は張り切ってヴァレリア様を仕上げますわよぉ〜!! 薄い化粧もしましょう! 香水も!」
「ははは、ずいぶんと張り切っているわねエリー」
「だって! だって! お二人の婚約は私にとってもずっと前から望んでいた事ですもの、張り切りますし、感慨深くもなりますわ」
そう言うとエリーは突然わっと泣き出した。
「お嬢様! 私は嬉じいのでず! ヤキモキさせられて、イライラさせられた事も何度もあったけど、そんなお二人がやっどご、ごんやぐ、びぇぇぇぇーん!」
どれだけ夢見たことか! お嬢様がこの日を迎えるその時を!
「シーっ! シーっ! 婚約はするけど、公にはしないの! 誰が聞いてるかわからないわ!」
私がそう言うと、エリーはハッと正気に戻り、その後は黙々と準備を進めた。
「うわぁぁ、美しいですわねぇ! まるで絵画の女神のようですわ!」
私の白いドレス姿を見て、エリーはまた目を潤ませている。
「ほほほ、エリーは本当に大袈裟ですわね」
婚約式は宮殿ではなく、枢機卿がしょっちゅう祈りを捧げているという礼拝堂で行う事になった。ここなら人目にも付かないし安心ですわ! 学園の子たちは今授業中ですし。でも一応護衛の方をドアの前に立たせて入室する者が来ないように見張らせた。王子の手配だ。
婚約式にはずらりと並ぶ知り合いの面々がいた。私がその間を通って祭壇で待っている王子の元へ行くようになっている。
私は懐かしいユーリの顔を見て思わず涙ぐんだ。ユーリは目立たないように小さくこちらに手を振っている。ガルシア様はうんうんと頷いている。ハンニバル様は心から嬉しそうに微笑んでいる。マクシミリアン公は何故かウインクをしている。幸運を! と言いたいのだろうか? テセウス様はニッコリと口角を上げて笑顔を作るのに必死だ。その様子に思わず笑ってしまった。
シリウスは‥‥‥
何故か号泣していた。
私はそれを無視して、王子が待ってくれている所へ向かう。一歩一歩、これまでの王子との時間を思い出して噛み締めるように歩いた。
(思えば、色々ありましたわね)
レクターは、普段なら着ないような毛皮のマントを羽織っていた。それに普段は嫌がって着ない上等の刺繍が施してあるウエストコートを着用していた。
私がたどり着くと、レクターは私を前にして驚いたような顔をした。
「どうしたの?」
私が疑問符を投げかけるとレクターは口元を恥ずかしそうに押さえて声を発した。
「いや、まるで絵画から女神が飛び出してきたのではないかと思って‥‥‥。それほどに今日のヴァレリアは美しい」
まぁ! レクターもまるでエリーと同じような事を! 私は思わずクスクスと笑ってしまった。
「用意できたよ、ヴァレリア」
「???」
そう言って王子は小箱を持って来させると、小箱の蓋を開けた。
「ヴァレリアの指輪だ。受け取ってくれ!」
そこには限りなく金色に近い宝石と、同じく金色に近い小さな石がサイドストーンに使われており、ダイヤモンドを惜しみなく使ったであろうシャンクの指輪があった。
そのあまりの豪華さに、私は目がクラクラしそうだった。
(レ、レクター! こんなに豪華じゃなくても良いと言ったのに//)
「俺にはこれだよ」
そう言って王子が合図を送ると、今度は私の方に何かを渡してくる宮廷女官がいた。
王子と同じ小箱だった。
「ありがとう」
私は宮廷女官に礼を言い、小箱を受け取る。
(何かしら?)
不思議に思って小箱を開けると、そこには先程レクターに渡された金色と、アメジストが混ざったような、不思議な色の宝石の指輪が入っていた。でも私のもらった指輪とは打って変わって地味な指輪、シャンクにもまるで飾りつけもなく、石も小さく加工してあった。
「アメトリンという石らしい、珍しい石でなかなか見つけられなかったが、方々(ほうぼう)の宝石商を手当たり次第に当たってようやく見つけたよ」
「レクター‥‥‥。そこまでして」
レクターは私の目を見つめる。
「ハハッ、俺が本気を出せばそんなのは簡単だ。それよりも、俺の瞳とヴァレリアの瞳の色、合わさったらこんな感じになるのだな。美しいよ」
私はその言葉を聞き、何故か涙が溢れて来た。
「レクター、ありがとう」
いつも私の側に居てくれて。
本当はいつも寂しかった私の心に
寄り添ってくれて‥‥‥
私に差し出される手なんかどこにも無いと、ずっと思っていた。
でもレクターは、私がいて欲しい時にいつも側にいてくれる!
「受け取ってくれるか? ヴァレリア」
「ええ、もちろんよ!」
涙でぐしゃぐしゃな顔はそのままに、私はレクターの胸に飛び込む!
「ハハッ、これで婚約成立だな! 大好きだ! 愛してるヴァレリア!」
レクターは私の腰を軽々と持ち上げて楽しそうに言う。
「私も大好きですわ! レクター、愛してる!」
ふと周りを見ると、礼拝堂には誰もいなかった。皆気を遣ってくださったのかしら?
「どこを見ている、俺はここだ」
ちゅ! レクターはそう言うと、私の唇を奪った! 神聖な礼拝堂でなんて事! 私もお返しに、レクターの唇を奪ってやった!
「お返しですわ! このこの!//」
「やったなぁ〜!? ヴァレリア覚悟しろ、倍返しだ!」
「んう!」
また! 今度は深いキス! もう! レクターはどこであろうと手加減しないんだから//
「‥‥‥指輪の交換も終わった事だし、以上で婚約の儀式を終わります」
一人だけ残っていたレオナルド枢機卿がポツリと言ってさっさとその場を後にした。
ニーズヘッグはエリーと一緒に扉の前で護衛してました!
エリーは感激のあまり失神する事を危惧したヴァレリア様が急遽配置させました(笑)
※シャンクとは指輪の輪っかの部分です。
やっと婚約しやがっ、した二人!色々あったけど二人を応援してくださった皆様ありがとうございます。
第二章からは今までわからなかった細々とした事とか冒険や番外編など話していこうと思います。
ここまでお読みくださった方、本当にありがとうございました。
ああー、愛って本当いいですよね!( ;∀;)