ヴァレリア様の記憶
前回お酒の勢いで歌と踊りを披露して王子を魅了したヴァレリア様。
そのまま店を飛び出してしまうのだった(なんで?)
※視点ウロウロします。少し読みにくいかもしれません。
「ウハハハハハ!! ちょっと気分がいいので夜風に当たってきますわ!」
バタン! と音を立ててヴァレリアはオシリスの店を出て行ってしまった。
「お嬢様! 夜は冷えますわ! 王子!」
エリーが素早く口パクで「追え」の合図を送る。
「ああ、わかってるよ」
俺はエリーに手で「OK」の合図を送り、慌ててヴァレリアを追いかけた。
ヴァレリアは店の外で踊っていた。店で見せていたのとはまた違う踊りだ。
ヴァレリアは一体何種類の踊りを覚えているのだ?
「ヴァレリア。お前はどうして、庶民の歌や踊りを知っている?」
俺は街の真ん中の噴水に腰掛けて、踊っているヴァレリアに聞いた。
外の冷たい空気に触れ、いくらか酔いの醒めたようなヴァレリアは答えた。
「夢の中に、アイシャという女中がしょっちゅう出てくるのです。私にはない記憶ですから、きっと入れ替わる前からヴァレリア様に残っている記憶でしょう。ヴァレリア様はそのアイシャと一緒にしょっちゅう街に降りてきたのです」
そう言うと、ヴァレリアは踊りをやめてその場に立ち尽くした。
『アイシャ! 次はあの歌を歌って!』
夢の中の幼いヴァレリア様がアイシャにそう言うと、アイシャは歌う。それに乗せてヴァレリア様が踊る。
(アイシャ? どこかで聞いたような名前だな)
「城下町でお二人は人気のようでした。ヴァレリア様のご両親も、ヴァレリア様が楽しそうで何よりと言った感じで、ヴァレリア様が街へ出かけるのは特に気にしていない様子でした」
幼少期の頃のヴァレリア様は、周りにも女中とも誰とも仲が良く、優しかった。特にヴァレリア様の侍女アイシャと仲がよろしいようでしたわ。
アイシャに爵位を持たせようと考えていたほど。
「そのアイシャが良く知っていたのですわ。歌も、踊りもアイシャがヴァレリア様に教えていたのです。それで私も踊れるのですわ、ヴァレリア様の記憶が残っているから」
そこまで言ってヴァレリアは、言いにくそうに俯きポツポツと話し始めた。
「‥‥‥。ヴァレリア様は。アイシャが生きていた頃は、素直で優しくて、誰からも愛されていたのです。それがある時、禁断の祠に行ってしまわれ‥‥‥。ニーズヘッグに出会い、そしてニーズヘッグに気に入られ、取り憑かれてしまったのです」
「ニーズヘッグに!? なんと、それは知らなかったな」
ヴァレリアに、そのような過去があったとは‥‥‥
「そこで全てが変わってしまった‥‥‥。全ての責任を負わされた侍女アイシャは処刑され、ヴァレリア様はニーズヘッグの力を借りて城を焼き払ってしまった」
燃えろ! 燃えろ! あはははは!
私の頭の中にヴァレリア様の悲しみが伝わってくる! 私は思わずぎゅっと目を閉じた。
「これは私の想像ですけど、ヴァレリア様が婚約者のお披露目会で一人だけ踊っていたのは、アイシャを思い出して踊っていたのではないでしょうか」
「そうか‥‥‥。そうだったのかもしれないな」
私はレクターの方を振り返って目を合わせる。
王子の青い瞳と私の紫の瞳が交錯する。
「王子。貴方は最初、私のこの紫の瞳が嫌いだと言っていましたね、悪魔の色だと言って。実際私にはニーズヘッグが取り憑いていますわ。でもヴァレリア様は、元々黒い瞳だったのです」
王子は少しムッとした。
「ヴァレリア、二人の時はレクターと呼べと言っただろう」
「‥‥‥。レ、レクター//この話を聞いても、お気持ちは変わりませんか? ヴァレリア様は元々黒い瞳で、ニーズヘッグが取り憑いてから紫の瞳になってしまったのだけど」
えっ?
俺は改めてヴァレリアの顔を見る。
ヴァレリアの頬は動いたからか、ほんのり上気していた。娼婦の化粧と、むせかえるような香水の香り、デコルテラインの何とも形容し難い肌の色。そして何より夢を見るような紫の瞳!こんなにも美しいのに‥‥‥
「ヴァレリア、何故今さらそんな事を聞くのだ??」
「だって私、ヴァレリア様は元々黒い瞳だったから、そういうのレクターは気にしないのかなって‥‥‥」
「ははははは! 気にするものか、可愛いなぁヴァレリアは!」
私の話を聞いてレクターは笑う。
「ヴァレリアを愛している! この気持ちが変わることはない。何よりお前は俺の金やら青やらに変わる瞳を見ても何も思わないだろう!? それと同じだ!」
まっ//またこの人は歯の浮くようなセリフをしれっと‥‥‥
でも確かにそうだわ。私は王子の瞳の色が変わろうと変わるまいと気にしてなかった。
「それにニーズにも愛着があるしな。ヴァレリアの事をなんだかんだで心配してくれているし」
【王子‥‥‥。ヴァレリアを救ってくれよ。グスン、普通の人間なら何もできないだろうけど、でも王子なら、王子だったらできるだろ!! うぅ。可哀想な、ヴァレリア‥‥‥】
あのように、宿主と思い合っている悪魔は俺は一度も見たことがない。俺の中の魔剣は未だに主従関係から抜け出せていない。
『うわばばば! バッ、バッカじゃねーの!? 王子! 余計な事思い出してんじゃねぇよ! 恥ずかしいだいだろが!!//』
どこから湧いて出てきたのか、ニーズヘッグがレクターの口を塞ぐ。
「ニーズヘッグ、おいで」
『むっ?』
私がそう言うと素直にこちらにやってくるニーズヘッグ。ニーズヘッグもレクターとは違う意味で、私にとって特別な存在になった!
『ストゥルルエッダ!!』
バサっと私の背中にドラゴンの羽根が生える。
「なっ‥‥‥」
レクターが私の突然の変身に目を丸くしている!
『レクター! 私はしばらくニーズと一緒に飛行してきますわ!』
「待てヴァレリア! 夜の空は冷えるぞ!! おい聞いてるのか!?」
バサバサとドラゴンの羽根を羽ばたかせ、レクターの声を遠くに聞きながら、私は先程の歌を口ずさむ。
静かだと思った鳥も不意に
翼をはばたき、急に飛び立っていく。
愛は遠くにあるわ、私と一緒!
早く捕まえて!待っているから!
エリーと王子の合図の速さワロタ。
ヴァレリア様の記憶は悲しいですね( ;∀;)
ニーズヘッグも元々は守り神だったのになぁ。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
ニーズヘッグが好きだと思った方は広告の下にある☆に点をつけて行ってくださいね!本物のヴァレリア様可哀想すぎだろと思った方は私と一緒に本物のヴァレリア様の幸せを願いましょう!
ご拝読ありがとうございました。また読んでくださいね!