レクター王子の弟
旅に出たヴァレリア(アナスタシア)を追う!と決めたレクター王子
不在の間の政務は腹違いの弟に任せるとシリウスに言い置いていったが......
バルカ城別宅にて。
「えっ?俺に兄さんの代わりを?それ絶対無理だと思う! 俺兄さんと違って頭悪いし、王子って柄じゃないし」
シリウスは、レクター王子の腹違いの弟、ハンニバルの元を訪れていた。
「ハハッ、ですよね......」
薄々わかってはいた。
文武両道でなんでもこなし、聡明なレクター王子と違って、このハンニバル様は対極的であった。
寡黙で必要な事意外は何も話さないレクター王子と違って、ハンニバル様はお喋りで人好きのする性格の持ち主だ。
レクター王子のような威圧感も感じられない。
王子の弟で、しかも腹違いである事から己の気の向くままに好き勝手に生きて来たハンニバル様。
当然、政務に携わる事など一度もなく。
そういえば、ハンニバル様はずいぶん侍女や側近に甘やかされたと聞く。
天性の甘え上手だと一時期は噂になったほどだ。
甘え上手で王子の弟、お喋り好きでしかも顔はお母様に似て顔立ちもお美しいとなれば、女性が放っておくわけもなく......。
ふとハンニバル様の部屋にかかっている肖像画に目をやる。
高くまとめた緋色の髪に花を刺し、翡翠色の吸い込まれそうな瞳。血色のいい頬、この翡翠色の吸い込まれそうな瞳、ハンニバル様そっくりだ。ハンニバル様のお母様だ。
ハンニバル様のお母様といえば、こんな噂があったな。
画家に肖像画を描かせている途中、その肌の美しさを表現できる絵の具も技術も無いと画家を泣かせてしまったと。
残念ながら、ハンニバル様を産んでしばらくして当時の王様が隠居されてしまってから、パタリとお姿を見せなくなってしまったので、私は肖像画でのハンニバル様のお母様のお姿しか知り得ないのですが。
「はぁ......仕方がないですね、しばらくは私が政務を担当する事になりそうですね」
レクター様は優秀だが頑固で一度こうと決めたらやらないと気がすまない。
ハンニバル様は王子の弟だというだけであっちにフラフラ、こっちにふらふらと、地に足つかずなお方。
自由すぎる兄弟の板挟みになり、苦労するシリウスであった。
気苦労の絶えないシリウスであった
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