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ヴァレリアとアナスタシア  作者: 杉野仁美
第一章 ヴァレリアとアナスタシア
119/269

踊れ!歌え!

やっと目を覚ましたヴァレリア。


酒場で待っていたオシリスたちに報酬を渡す。

その金額の多さにオシリスたちは歓喜するのだった。

 結局その日はオシリスの店を貸し切って打ち上げすることになった。


「うおお〜! さすが子爵様だなぁ! 今までの報酬と桁違いだ!」


 今まで見た事のない大金に、オシリスとセトは目を輝かせる。


「ネフティスとヴァレリア、良く頑張ってくれたな。特にヴァレリア、お前は本当に度胸があるよ。危険を(かえり)みず良くやりきったよ!」


 オシリスの言葉を聞き、ネフティスの機嫌が悪くなる。


「あ、あたしだって、値段交渉頑張ったし‥‥‥」


「もちろんネフティスも頑張ったよ。えらい偉い」


 オシリスはネフティスの髪をぐしゃぐしゃとする。


「〜〜〜〜//」


 ああ、オシリスとネフティス、なんか禁断の香りがして一周回って尊いわ‥‥‥


 ヴァレリアは久しぶりの推しカプの妄想ができる事に歓喜していた。


「ああ〜、禁断の恋って何故かわからないけど耽美(たんび)でいいですわねぇ。ケルベロスもそう思わない??」


 ヴァレリアはそう言ってケルベロスを撫でながら、オシリスに入れてもらったソフトドリンクに口をつける。先程は王子とウードガルザの殺気に当てられて伸びていたヴァレリアだったが、もうこの通りぴんぴんしている。俺はホッと胸を撫で下ろした。


『ウヘヘヘヘ』


「ヴァレリア?」


 まさか‥‥‥。急に様子が変わったヴァレリアに俺は慌てる!


 まさかと思ってヴァレリアのソフトドリンクの(そば)を見ると「アスバッハ」と書いてある瓶が置いてあった。かなりアルコール度数の高いお酒だ。


「お前まさかこれを?」


 俺はヴァレリアからアスバッハを奪い、オシリスに戻すように指示した。幸いにも一番アルコール度数が低いアスバッハだったらしく、ヴァレリアも一口飲んでやめていたらしい。


『ウケケケケ! 俺様はニーズヘッギュだぞぉ〜! ヴァレリアの体の中は居心地がいいのら』


 ニーズヘッグ‥‥‥


 俺は頭を抱えた。恐らく長年酒を飲んでいなかったニーズヘッグがこっそりヴァレリアが飲んでいたソフトドリンクに混ぜたのだ。


「はぁ、お前それ犯罪だからな。もしヴァレリアが前後不覚になったらどうする気だ? お前も辛い目に遭うぞ?」


 俺が呆れたようにそう言うと、急にヴァレリアが立ち上がった!


「私、ヴァレリアは! お酒を飲みました! お酒を飲んでも酔わないのはヴァレリア様の健康な体とニーズヘッグのおかげかも! ヒック」


 そう大声で言うとヴァレリアは唐突に歌い出した。


 どうやら庶民のための踊りの歌らしい。宮殿では聴いたことがないが、その歌声はとても美しく、しかもヴァレリアは素晴らしく歌が上手い!


 私は扱いづらい鳥

 誰も手なづけられない 

 だから呼んだところで大いに無駄なこと


 わぁ!と感動したネフティスが、ヴァレリアの歌に合わせて踊る。


 私は旅人、自由人

 決して、決して規則なんて知らない

 もしあなたが私を愛していないなら

 私はあなたを愛す

 もし私に愛されたのなら

 ご用心なさい

 情熱の炎に焼かれてしまうかもしれない!


 ネフティスに誘われたヴァレリアが今度は歌いながら踊る。


 俺を真っ直ぐに見て、誘うように踊るヴァレリア。先程の娼婦の化粧を落としていないので、酒の力も相まって一層蠱惑的だ! 待て待て! これ以上俺を誘惑してどうする気だ?!


 気が付けば全員。ネフティスもエリーも、セトもオシリスも、ケルベロスでさえ、ヴァレリアの踊りに釘付けだった。


 静かだと思った鳥も不意に

 翼をはばたき、急に飛び立っていく

 愛は遠くにあるわ、私と一緒!

 早く捕まえて

 待っているから!


 突然俺のところに鳥のようにジャンプしてきて、俺のマフラーを解いて自分の首に巻くのかと思ったらそのまま俺の顔に被せ、またマフラーを奪う! ヴァレリアのむせかえるような色香、笑った唇からチラリと見える小さな歯。

 美しいデコルテラインに透き通るような肌! そのどれもが扇状的で、俺は心臓が飛び出しそうなくらいバクバクしていた。


 俺のマフラーを持ったまま、次の瞬間にはまるで小鳥のように飛び回ってくるくると回る。まるで命が宿ったかのような真っ赤なマフラーから時折見える眼差しに俺は釘付けだ。


 こんなのは初めてだ。俺は今までどんな風に誘われてもこんなに動揺しなかった。


 やがて歌も踊りもクライマックスになる。セトとオシリスがヴァレリアに足蹴にされる。エリーもネフティスもその様子を見て笑う! 足蹴にされるのも踊りの内なのだ。


 あなたの周りをすばやく、すばやく。

 来たら出て行き、そしてまた来る。

 あなたが捕まえたと思えば、あなたから逃れ。

 あなたが逃れたと思えば、あなたを捕まえる。


 ヴァレリアはそれはそれは優雅な動きで赤いマフラーを俺に投げた!


 いつのまにかカウンターに立っていたヴァレリアは踊りのラストの決めポーズをしてドヤ顔で立っていた。


「「「わぁぁぁあ!!」」」


 歓声と共に割れんばかりの拍手が起こる! ヴァレリアはしばし余韻に浸っていた。その恍惚とした表情に俺はクラクラしたままだ。まだ心臓がバクバク言っている!


「お嬢様! すごいですわ! あんなに身軽にぴょんぴょん飛び回って! それでもどこにもぶつからないなんて!」


「あんた、すごいよ。歌いながら踊れるのもすごいけど、良くあんなに小鳥みたいに素早く踊れるわね」


「何故かわからないけど体が勝手に動くの、ヴァレリア様の記憶のおかげかしら? ウヒヒヒ」


「‥‥‥。お酒の力も働いたのかしら?」


 俺はいつかの婚約者候補の披露宴を思い出していた、ヴァレリアは確か一人だけ踊りを踊っていたのだ。こ、この踊りを見ていなかったとは‥‥‥。あの時は全然興味がなかったとはいえ俺の馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!


「‥‥‥」


 俺は今まで何をしてきた? ヴァレリアにもアナスタシアにも、城での催し事にも無関心で‥‥‥。無感情で‥‥‥


 ヴァレリアと他の婚約者たち。一人ひとりの個性にも、何の興味も持てなかったな。それが、ヴァレリアと冒険する事で変えられた。変わったんだ、俺自身が‥‥‥


「ありがとう。ヴァレリア」


 絶大な力は、それを持っている者にしかわからない孤独が常に付き纏う。

 

 追われる恐怖

 逃れられない宿命

 擦り寄る者はこの力が目的の奴らばかり。

 そしてどこまでも続く孤独!


 いつのまにか俺は、どこまでも付き纏う孤独に、すっかり他人への興味を失い、心を閉ざしていたのかもしれない。


「なんれお礼を言ってるんですか?」


 ヴァレリアはまだ酒が回っているらしく、呂律が回っていない。


「いや、ヴァレリアの踊りが素晴らしかったから‥‥‥」


 そうだ、変わろう俺も‥‥‥。無関心だった女たちに、人間たちに、もっと興味を持とう。こんな風に思えるのも、ヴァレリアのおかげだ。


 ヴァレリアはひたすら人間に興味を持ち、好奇心旺盛で。俺と違い、人が大好きなのだ!


 ありがとうヴァレリア。

 俺に気付かせてくれて

 閉ざし続けた心の扉も きっと開くだろう

 孤独に耐えてきた夜も過去も無駄じゃないと

 

 ヴァレリアが教えてくれたから。



また趣味満載ですみません( ;∀;)

一度書いてみたかったんです!

書いてて気付いたけど歌いながら踊る描写、結構難しかったです。でも楽しかったです(小声)


ヴァレリア様は何故庶民のための踊りと歌を知っていたんですかねぇ?


王子が我儘を脱却し、心を開く日は近い!


これは私の考えなんですが王子って自己中で話聞かない場合が多いですよね。これからも振り回して引っ掻き回してあげますよ色々とな!(誰?)


ここまでお読みくださってありがとうございます。



うーん、王子って結構大変だなぁと思った方は広告の下にある☆に点を付けて行ってくださいね。ヴァレリア様ー!!と思った方は☆を真っ黒にして行ってくださいね!


ご拝読ありがとうございました。また読んでくださいね!




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