その頃バルカ城では?
先日、シリウスの呼び出しで鳳凰に乗って城にやってきたガルシアとフランシス。
ガルシアは身分にこだわるシリウスに激昂し、その場でフランシスに爵位を与えた。
一方バルカ城では、自分がガルシア達を呼んだくせにシリウスがほぼ灰になりかけていた。平民だったフランシスが飛び級で侯爵になり、テセウスも他人事。元々金持ちで、あまりお金に興味のないテセウスからしてみれば関係ない事ではあるが‥‥‥
(当時は平民に爵位を与える事はそれなりにお金がかかる事だった)
ガルシアは玉座でなく、談話室の適当な椅子に腰掛けた。
「あ〜かっこよかったなーあの鳳凰、もう一回乗りたいな」
「ハハッ、よほどお気に召したらしいな。ではまた後で召喚しよう。それよりまずはシリウス君の話を聞こう」
ピクリ、とシリウスの眉根が動く。
(クソッ! ガルシア様の親友か何か知らないが、さっきまで平民だった男に、この私が心配されるなど‥‥‥)
私はフランシスからフンっという感じで思いっきり目を背け、真っ直ぐガルシアの方だけを見て口を開いた。
(フランシスが何者であろうと、この城にいる期間は私の方が長いのだ!)
「ガルシア様、レクター王子の事ですが、いくらなんでも城を空けている期間が長すぎます。たまにでしたらいいですが、この城でも噂が立っているのです。もしかしたら王子はいないんじゃないかという噂が。テセウス様は確かにそっくりですが、王子ほどのコミュ力がないので、バレそうになった場面がいくつあった事か」
私は椅子に座って白ブーダンに食らいつこうとしているテセウス様に目を遣る。
白ブーダンに食らいつこうとしていたテセウス様はその手を止めて私にニッコリと微笑んだ。全く白々しい。‥‥‥元々はこのテセウス様をはじめレクター王子、ハンニバル王子と個性溢れる面々が、私を振り回しているのに!
ああ、出来ることなら私もヴァレリア様と旅をしたい!
「あ、何かダメだった? 立ってるだけでいいって言われたからさ」
ハハハ、とテセウス様は笑う。全く呑気なものだ! 確かに立っているだけでいいとは言ったが、昔から王子の事を知っている侯爵様方の目は騙されない。
「ああ、それなら私が請け負うよ」
私はギョッとしてガルシア様の方を見た。
「つまり君は誰かにレクターの代理を頼みたいんだろ? それならレクターの父である私がしよう。まぁ侯爵や親戚なんかには事情を説明しておくよ。何心配ないさ、昔からの知り合いなら分かってくれる筈だから」
「えっ? えっ? 宜しいのですか?」
「うん、いいよ。レクターには幼い頃から何でもできるからと私も好き勝手やりすぎた‥‥‥。でも今レクターが自分の意思で、ヴァレリアとの旅について行きたいと言うのならそれを止める権利は私にはない。そりゃまぁいつかは城に戻る時が来るだろう。でもまだあいつは若い。幼い頃にできなかった経験を、今のうちにやっておいても罰は当たらんだろう。(マジで知らんけど)」
「なー? フランシス!」
と言って先王様はフランシスにウインクをする。
「ふふっ、そうだな。ガルシアも大概好きな事をしてきたもんな」
「んなっ‥‥‥」
このフランシスとか言う男、もしやこのバルカに留まる気ではあるまいな‥‥‥。先程まで平民だった男が??
シリウスのその様子を見て、ガルシアがピクリと眉根を上げる。
「君はまだフランシスの事がそんなに気になるか? フランシスはこの私の親友なのだぞ?」
フランシスはこちらを見ている。ユーリにそっくりの、紺色の瞳が優しく微笑んでいた。
「どうやら君は知らなかったようだな。フランシスは私の弟のマクシミリアン公をはじめ、ザイード公、ジュール侯爵、オーギュスト伯、メルシオール伯、その他色々重役と交流があったのだぞ!」
それを聞いて慌てるフランシス。
「ガルシア、やめろよ恥ずかしいじゃないか。それにそんな昔の話‥‥‥」
「言わないどこうと思っていたが、シリウス君がまだお前の実力と王家にどんなに尽力したかわかってないみたいだからな!! 俺はフランシスが馬鹿にされるのが一番嫌なんだ!」
はぁ‥‥‥とフランシスはガルシアを制しようとした手を下げる。
私はギッとガルシア様を睨んだ。先王様とて‥‥‥
「ではフランシスが具体的に何をやってきたか、話してくれますか?! 私はその頃のバルカを知らないので」
ガルシアとシリウスはお互い目を離さなかった。二人の視線の間にはバチバチと火花が見える‥‥‥ような気がする。シリウスも負けていない! シリウスはただ城の秩序を守りたい! それだけなのだ。元平民がバルカに出入りするなど、シリウスにとっては考えられない事だったのだ。
「では話そうか。まだ私が国王になって間もない時、フランシスが結婚していない時、フランシスは主に私が招待してバルカに出入りしていた。その時についでだからと言ってフランシスは数々の功績を残したのだ。ザイード公の時は難病の娘を治療し、ジュール侯爵は魔物からフランシスが魔法で守り、オーギュスト伯は晩餐会の時にその実力を買われて衛兵を務めたし、メルシオール伯も魔物に襲われそうだったところをフランシスの魔法で助けたし、マクシミリアン公には投資の方法を教えてやったしな」
「えっ‥‥‥。何、最後の親父のエピソード。ショッボ‥‥‥。ブフッ」
テセウスが我慢できずに吹き出す。
「ハハハ、確かに! でもフランシスに教えてもらってから投資好きになったのだぞ! そのお陰でお前は遊んで暮らせているし。フランシスは人を見抜く才能があるからな! お前の父親は投資の才能があると見たのだろう」
「あー‥‥‥。それもそうか」
と言ったかと思うと、テセウス様はおもむろに席を立ちフランシスに礼をした。
「俺が好き勝手に研究できるのも、元々はフランシスのおかげなんだよな、ありがとう」
なっ、なっ、なっ‥‥‥
「いや、たまたまだよ。ガルシアが今話した事は全部たまたまだって。僕も平民の身分でこの城に出入りするのには気が引けてたからね! せめてものお礼にとした事なんだ。もう恥ずかしいなぁ」
「ハハハ、フランシスはいつも謙虚だなぁ! そういうところも大好きだ! どうだねシリウス君、君が思っているよりこのフランシスは王家に貢献しているのだ。わかったか? 王家に尽力した者が、バルカに留まっても何もおかしくないだろう? しかも去り際も何も言わず別れも言わず去ってしまってかっこいい! 王侯貴族たちの制止を振り切って変なところに行ってしまったんだよなぁ〜! エグエグ」
ガルシア様は半泣きで言いながらフランシスの肩にもたれかかる。
「ちょっ! やめろ! 仮にも一国の王だろうお前は!」
シリウスの顔がサーっと蒼ざめる。
(い、いくら王侯貴族たちに貢献してきた経歴があるとはいえ、先程まで市民だった男が‥‥‥。バルカに)
「で、ではガルシア様は、フランシスをバルカに留めておくおつもりですか?」
「そうだな。そういう事だ、大丈夫だシリウス君。フランシスがいると何かと都合がいいぞ! 鳳凰に乗る事もできるし」
はっはっは! 笑いながらまたガルシアはまたフランシスと肩を組んだ!
シリウスにとっては願ったり叶ったりの状態なのに、まだ納得いかないのか、シリウスはその場にカカシのように立ち尽くしていた‥‥‥
シリウス(笑)可哀想すぎて私は大好きだよ。
シリウスは城の秩序を守りたい一心で肩に力入りすぎですね。んー心の中で見下していたユーリの父親フランシスが嫌いなんだと思うなぁ。
なるほどマクシミリアン公の投資好きはフランシスの助言があったからだったんですね。
テセウスもガルシアものんびりマイペースで好きです。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
ガルシア適当すぎワロタと思った方は広告の下にある☆に点をつけてくださいね。理論的に言えばシリウスの言ってる事全然おかしくなくない?と思った方は☆を漆黒に染めてくださいね。
ご拝読ありがとうございました。また読んでくださいね。