ヴァレリアのおかげ
高級娼館から出たレクターとヴァレリア
間もなく子爵が到着したのだが‥‥‥
アルトアが王子の婚約者を口説いた事はまるで魚のように尾鰭背鰭をつけてあっという間に広がり、アルマンド子爵の耳にも当然届いていた。
「アルトア! この馬鹿息子! せっかく伯爵様の娘との縁談が進みそうだったのに、今夜の事で一気に雲行きが怪しくなったぞ! どうしてくれる!」
子爵が開口一番、顔を真っ赤にしてそんな事を言ったので、アルトアは周りの娼婦たちの良い笑い者になってしまった。
「クスクス、いい気味だわ」
「まぁ伯爵様のお嬢様と‥‥‥。それは残念でしたわねぇ」
その声にアルマンドはハッと気付き、周りを見渡す。するとそれまでの嘲笑は消えあっという間に静かになり、娼婦たちは各々の仕事に戻って行く。
「チッ、とりあえず帰るぞ! いつまでそこでくたびれているか!?」
「またのお越しをお待ちしておりますわ」
マダムにそう言われて真っ赤になった顔をさらに赤くしながら子爵は息子を連れてそそくさと帰っていった。
『あいつ婚約者がいたのかよ! ヒェーもの好きなやつもいたもんだ』
「どうかな? その伯爵の娘も、アルトアよりかなり年上みたいだけどな。案外うまく行くんじゃないのか知らんけど。まぁ、アルトアはその縁談が嫌で逃げ回っていた所にここを見つけたらしいな。そして現在に至ると」
ニーズヘッグがそこで首を傾げる。
『ちょっと待て。それじゃ王子は最初からアルトアが娼館に来てるって事を知ってたのか? それがわかっててヴァレリアを行かせたのか? あのスケベならヴァレリアが目を付けられる事なんて分かってたはずなのに!』
ニーズヘッグが若干怒りながら言う。そうだよな、ニーズヘッグもヴァレリアの事が好きなんだよな。
「それは、まぁすまん。俺だって出来ることならヴァレリアを止めたかったよ‥‥‥。でもあいつ、ヴァレリアのあの紫の瞳がギラギラした時はどうしても止められないんだよ、ニーズヘッグもその辺はわかってるだろ?」
う、たしかに。俺様も娼婦姿のヴァレリアを見たかったってのはある。その感情がリンクしたのか‥‥‥
「それに、ヴァレリアの目的を果たしてやりたかったからな。オシリスのお店を改装し、職を探している女性たちの受け皿になればいいと‥‥‥」
『へぇ〜ヴァレリアがそんな事を』
「うん。最初はネフティスに言われて思いついたってヴァレリアは言っていたな。ここの領主の許可も得たしな」
まぁ俺もヴァレリアも色々考えてるんだよ、とニーズヘッグの鼻先をこずく。
『ふーん、まぁ〜俺様はヴァレリアが了承済みならいいんだ。それより伯爵の娘のことなんて、なんで王子がそんな事まで知ってるんだ?』
「高級娼館に来る前に調べたんだよ。(俺の)ヴァレリアが関わってることだからな。当然だ」
『ほぉん? 領主の時といい真面目ですなぁ。ヴァレリアが絡むと』
「ああ、俺はヴァレリアが絡むと」
そこでハッと気付いた。俺は少しずつ変わってきているのかもしれない。前までは自分から情報を得ようとしなかったし、既にシリウスが調査済みの書類に目を通すって感じだったのに。
今回の件もそうだった。子爵の事は有名で知っていたが、その息子のことなど、高級とはいえ娼館の事など、以前の俺だったらどうでもいい事だった。
ヴァレリアが絡むと、俺は全く違う人間になるらしい。いや、前までが異常だったのかもしれない。人の気持ちや感情など二の次で、我儘で、自己中で‥‥‥
ヴァレリアのおかげか‥‥‥
それがわかって何故かホッとする。
愛しい俺のヴァレリア! お前のおかげで俺は変われた!
「きゃあ! いきなり何をするんですの!?」
俺はネフティスを待っているヴァレリアを抱きしめてそのまま横抱きにした! いわゆるお姫様抱っこってやつだ!
「ハハハ! ヴァレリアが可愛いくて、嬉しいのだ!」
ヴァレリアはしばらく頭にハテナマークを浮かべていたがほんのり微笑んだ。
「そ、そうなんですか!? 私も、レクターが好きで嬉しいですわ!!」
そう言って嬉しそうに俺の首に腕を回すヴァレリア。
こういう光景を何度見たことか‥‥‥
ニーズヘッグは『あー』と言って盛大にため息を吐いた。
王子もヴァレリア様も色んな事考えてたんですね(他人事)
ニーズヘッグもヴァレリアが好きなので、ヴァレリアに従えさせられているニーズヘッグは王子のことも好きなのです。
ややこしや〜ですね。
もう少しだけ私の趣味にお付き合いくださ(以下略
※この時代の女性の娼婦は割と高い地位にありました。逆に庶民で専業主婦であれば一生奴隷扱いされます。自由を求めるヴァレリア様はそんな女性を少しでも減らそうと尽力しています。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
ニーズヘッグ可愛いやんけと思った方は広告の下にある☆に点を付けてくださいね!レクター気付くの遅!と思った方は☆にゼロを付けてくださいね。
ご拝読ありがとうございました。また読んでくださいね!