幸せなキス
高級娼館で子爵の息子アルトアに目をつけられてしまったヴァレリア。
そこへレクターが王子のように華麗にやってくるのだった。いや元々王子なんだけど。
王子の登場、そしてアルトアの土下座で高級娼館は一気にざわついた。
「ちょっとあの方レクター王子じゃない?」
「うわァ本当だ。何故こんなところに? ひょっとしてお忍びで遊びに来たのかしら」
さすが高級娼館だけはある。この辺りの王侯貴族たちをもてなす為、王子に近しい親戚の者も、もちろん王子の似顔絵も、いつ来てもいいようにあらかじめリストアップしているのだ。
王子がこの高級娼館に来ている事はたちまち女たちの噂になってしまった。
まるで城の噂好きの奴らと同じだ。居心地が悪い‥‥‥
「ヴァレリア。ここはネフ‥‥マルティーヌに任せよう。ほら立てアルトア! いつまで跪いてるつもりだ! 立て立て、子爵には遣いをやったからな。もうすぐ子爵が着く。そこで大人しく沙汰を待て」
「は、はぃ‥‥‥」
アルトアは蚊の鳴くような声で答え、もう抵抗する気力がない様子だ。
(そりゃそうだ、俺の本気の殺気をむけてやったもんな)
俺はアルトアにそう言って、マダムに「世話になった」と、いくつか色をつけて金を渡し、慌ててヴァレリアを連れて娼館を出た。
「俺は摂政やらアルマンド子爵とは違い遊び人じゃないからな。それに女は城で事足りてる」
俺は娼館を睨みつけ、ハァ‥‥‥。とため息をつきヴァレリアには聞こえないように小声で呟いた。
ヴァレリアはネフティスが心配なのだろう、心配そうに娼館の方を見つめていた。
その様子に俺の呟きは聞こえてないようだとホッとした。
やがて俺の方に視線を移して佇むヴァレリア。
「‥‥‥ッ!」
思わず息を呑んだ。先程はアルトアをヴァレリアから引き離す事に必死になりすぎていて気が付かなかったが、今宵のヴァレリアはなんと美しい。
アルトアが心奪われるのも頷ける。
普段は滅多に化粧などしないヴァレリアが、今は短い髪も纏められていて、いつもは付けない頬紅とそれに口紅がヴァレリアの透き通る白い肌に映えて、まるで可憐に咲く赤い薔薇のようだった。
その薔薇のような唇から覗く真珠のような歯、髪飾りに使われているシトリンと俺が贈ったアメジストのペンダントで、ヴァレリアの紫色の瞳が一層キラキラ輝く。
すみれ色の品のあるたっぷりとしたドレスは、普段は隠している肩からデコルテラインにかけて見える肌が、桃色とも桜色とも何色とも形容し難い美しさと柔らかさと色気を放っている。
「ヴァレリア、今宵は特に美しい‥‥‥。まるで女神の祝福を受けたようだ」
「と、突然何をおっしゃっているのですか?」
「本当だよヴァレリア、いい匂いもする‥‥‥」
ほとんど唐突に抱きしめていた。
ああ、ヴァレリア‥‥‥
「レクター、私正直怖かったんです。まさか本当に子爵様の息子が来て、それだけでなくまさか私を選ぶなんて‥‥‥。見て、あの男が触れてから、手の震えが止まらないの。レクターが来てくれて本当に良かったわ。貴方は私が居て欲しい時に、いつでも私の側にいて下さるのね‥‥‥」
そう言ってヴァレリアは俺の胸に安心したように体を預けた。
いつもは隠されていてなかなか見れない谷間を俺の体にピッタリ押しつけて、その腕をぎゅっと背中に回す。目にはうっすら涙の膜が張っている。
「レクター‥‥‥」
上目遣いで俺の方を見上げる。
(これは、フラグか?? OKサインか?! ニーズには順序立てて云々とか、純粋なヴァレリアに合わせて云々とか言ったような気がするが、どう考えてもこれは誘っているよな? ここでやらなくてはヴァレリアに恥をかかせてしまう。よし! やるぞ! 俺はやる!)
「‥‥‥ッヴァレリア!!」
そう言って俺がヴァレリアにキスをしようとした時。
『ブッブー!! 残念でしたなぁー!』
どこから湧いたのか、ニーズヘッグがヴァレリアの唇の前で両手でバツを作っていた!
「ニーズヘッグ!! 今は出てくるなよ! 空気を読め? どう考えても今は出るタイミングじゃなかっただろう!?」
俺はキスができなかった事に苛立ち、若干声を荒げた!
「レクター! 急に大声をだすから驚いたわ。何を怒っているんですの? ニーズヘッグも私を心配して来てくれたのね、ありがとう。大好きよ」
『ハッハー! 当たり前なんだぞ! 俺様優秀!』
俺は思いっきり拗ねた! もうマジで何なんだコイツらは!
「レクター? どうしたんですか? お腹が空いたんですか?」
『レクターは俺様に邪魔されて拗ねてるだけなんだよ。レクターがヴァレリアにキスしようとしたのを邪魔したから』
まあ、とヴァレリアはつぶやいた。
「まあレクター! 私にキスがしたかったのなら、そう言ってくだされば宜しいのに」
そう言ってヴァレリアは俺の唇に自分の唇を重ねた。
「えっ」
『わぉ、ヴァレリア積極的』
「これで機嫌が直りましたか?レクター‥‥‥」
「‥‥‥ない」
「えっ」
そう言って、俺は去ろうとするヴァレリアの腕をグッと引き寄せる。
レクター?
「直らない、足りない」
そう言って俺はヴァレリアの柔らかい肩を掴むと、甘い果実のようないい香りのする唇を貪った。
『ほぁ』
ニーズヘッグが何か呟いていたが、俺はもう止められない! 何回もしてきたけど、ヴァレリアの唇、キスがこんなに柔らかくて、幸福をもたらす物だったなんて‥‥‥
『ふーん、何か絵画みたいだなぁ。まるでラファエロの描く一枚絵のようだ』
ニーズヘッグは今度は邪魔しなかった。月明かりに照らされた二人があまりに神秘的で、美しかったからだ。
いやほんと最近趣味満載ですねすみません。
もふもふの呪いだったりでかい女性だったり娼館だったり(笑)
果実とかいう例え文句が好きで好きで仕方がない!
できればもう少し娼婦のヴァレリア様書きたかったけど、王子に怒られそうだからこの辺でやめときます。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
ヴァレリア様は相変わらず罪な女だなお前と思った方は広告の下にある☆に点を付けて行ってくださいね。ヴァレリア様シリウスで嫌な思いさせられたのに懲りてなくて草と思った方は☆を漆黒に染めてくださいね!
ご拝読ありがとうございました。また読んでね。