ガロの求婚
ガロの呪いの効果は20歳までだと聞かされたレクターとヴァレリア。
誕生日を迎える深夜12時を静かに待つのだった。
コチ、コチ、コチ‥‥‥
時計の秒針の音だけが静かな部屋に響いていた。
普段から早寝早起きだったヴァレリアは「私も起きてる!」と張り切っていたが結局ソファで寝てしまった。
「全く、どこででも眠れるんだな。ヴァレリアは」
俺はマリーの案内で、寝室にヴァレリアを寝かせた。
「いや、こんな深夜まですみません。付き合ってもらって」
「別に構わないよ、今更驚きはしないしな」
「??」
俺は今までの冒険でそれなりに酷い目に遭ってきたのでこの手の事に慣れつつあった。
「はぁ‥‥‥。慣れって怖いな」
「何か仰りましたか?」
ガロが落ち着きのない様子でこちらを見る。
「いや、なんでもないよ。それよりもガロ、少しは落ち着け」
あと3分でガロは20歳になる。
あと1分‥‥‥。5、4、3‥‥‥
カチッ!!
バリバリバリバリバリバリ!!
時計の針が12時を指したかと思うと、突然ガロの部屋中の窓が音を立てて割れた!
「おおおお何だ何だ!?」
俺は部屋のポールハンガーにかけてあったマントを素早く取り、飛び散ったガラスの破片で怪我をしないようにガロと俺を覆った。
しばらくは凄まじい音が続いていたが、やがて音が止んだ。
パキッ!
しばらくするとガラスを踏みつけるような音がした。マントの裾から音のした方を見ると、大きな黒い羽根をバサバサと羽ばたかせた、大きな女性が紫の瞳をギョロつかせて窓枠に立っていた。
「ガロ‥‥‥。ついにこの日が来たのね。迎えに来たわよ」
なるほど、ガロが言っていたのはこの事か。「呪いが解けるだけじゃ済まない気がする」とは。まさか当人が迎えに来るとは。
「ガロ、どうやら昼間話していた女性が迎えに来たみたいだが、立てるか?」
そう言ってガロを見ると、普通の人間に戻っていた。灰色の髪、深い紺色の瞳‥‥‥。俺ほどではないが整った容姿だ。
「ふふふ、ガロ。あなたをその姿にさせたのは私が迎えに来る前に結婚させない為よ」
言いながらカツっと音を立てて部屋に入った女性は大きく、浅黒い肌に吸い込まれそうな紫の瞳。
「ヴァレリアと同じだ‥‥‥」
俺は思わずそう呟いていた。
「あらお客さん? どうも、ガロはそのマントの下ね? ほらガロ出てきなさい!」
そう言って女性は半ば強引にガロを立たせた。
「あ、あ、ああ」
ガロは久しぶりの再会に緊張しているのか、それとも何年かぶりの人間の体に慣れていないのか? とにかくまたもやカタコチに固まってしまっていた。
「なぁに? カチコチになっちゃって! ほらガロ、私に何か言うことがあるでしょ?」
「‥‥‥。ドゥ、ドゥルジ‥‥‥」
ガロがカチコチのまま名前を呼ぶ。
この女性がドゥルジか。ヴァレリアほどではないが、美しい女性だな。あ、紫の瞳をしているから悪魔が取り憑いているのか? それともドゥルジ自体が悪魔なのか?
俺がジロジロ見ていると、ドゥルジと目が合った。
ドゥルジは俺の目を見て一瞬驚いたがすぐに笑みを浮かべて言った。
俺の中に魔剣があるのを気付かれたか? 悪魔は気付きやすいんだよな。まぁいいけど。
「初めまして、私は悪魔ドゥルジ。人間と共存する悪魔よ。私は人間が好きなの、お陰であの方からは破門されちゃったけど、いい機会だと思って人間の住処に降りてきたの。人間の住処はとても面白かったわ、お陰でガロにも出会えたし」
「あの方?」
「ごめんなさい、言えないの。名前を口にしたら私、焼け死んじゃうから、そういう呪いを受けた上で破門されちゃった」
ドゥルジはそう言って「やっちまった」という風に舌をペロリとだした。面白い悪魔だな。
「‥‥‥。ドゥルジ! それは本当か?!」
ガロがカチコチの状態から目を覚ました。
「あらやっと起動したの? そうよ、私は人間が好きな悪魔、ねぇそんな事より私に言うことがあるでしょ?」
「あ、あ、あ、」
と思ったら再びカチコチに固まってしまった。固まったり弛緩したり忙しい男だな。
ふと、ドゥルジがチラチラと俺の方に目を遣っている。
ーーーーなるほどそういうことか。
俺は二人を部屋に残し、そっと立ち去った。
恐らく、ドゥルジはガロからプロポーズの言葉を待っているのだな。それにしてもガロが20歳になるのを待つとは、なかなか健気な悪魔じゃないか。
ーーーーしかしドゥルジが言っていた「あの方」気になるな‥‥‥。俺の中のレーヴァテインも心なしかざわついている。
* * *
「ねぇ、ガロ。ここには私たちしかいないわ」
ドゥルジはガロの顔を引っ張って無理矢理目を合わせた。
「あ、ああ‥‥‥」
ドゥルジ‥‥‥。なんと美しい、久しぶりだというのにこのキラキラした瞳の輝きは失われていない。思えばこの吸い込まれそうな紫の瞳に私はあの時すでに心を奪われていたのだ!
「ドゥルジ」
「はい」
言ったあと私はドゥルジの前で跪く。
「私と結婚してくれないか?」
「‥‥‥! はい!!」
その綺麗な瞳に涙をいっぱい溜めて、ドゥルジは私の胸に飛び込んできた。
後悔はない! むしろ、私は、私の方がこの瞬間を待ち侘びていたのかもしれない!!
特に争う事も無くハッピーエンドでしたね。
昨日バトルシーンが沢山出てくる小説を読んだので、それだけで満足してしまいました(?)
ぬるくてすみません。
それにしてもドゥルジの言っていた「あの方」って誰なんですかね?ザダクも「あの方」って言ってた様な気がしますね
名前を口にしてはいけないってどこかで聞いた事ありますね(以下略
ドゥルジが20歳になるのを待っていたのは中世の男子の結婚の平均年齢が20歳だけで特に意味はありません。
次回はお城に戻って、ガルシアとフランシスがどうなっているか見てみましょう。
ここまでお読みくださってありがとうございます。