アナスタシアの告白
少し時間を戻して、ヴァレリア様たちがザダクと対峙している頃。城の奥ではアナスタシアが歌っていた。
少し時間を戻して、ヴァレリアたちがザダクと戦っている最中ーーーー
* * *
城では、今日は少し体調が良いアナスタシアが歌いながら花に水をやっていた。
アナスタシア 寝てみても
楽しいあの日は帰りはしない
燃えるようなその頬も
今にごらんよ色あせる
その時きっと思いあたる
笑ったりしないで
ヴァレリア
私の話をお聞きなさい
「‥‥‥ッ!!」
そのアナスタシアを急に襲う激痛と熱。
な、何!? 体がちぎれるように熱い!
ほとんど直感だったーーーー
まさか! ヴァレリア(私)に何かあったの?
【元に戻りたかったら、貴女が死ぬ以外方法はないわ!】
まさか、あの時の私の言葉を間に受けてヴァレリアが自死を?!
いや、今のあの子はヴァレリアであってヴァレリアじゃない‥‥‥
あの子は自分から死のうなんて思わない。だとしたら、命が危機にさらされるような何かがあったに違いないわ!
【「レ、レクター‥‥‥。無事でよかったです‥‥‥。私の、愛、レクター‥‥‥」】
「‥‥‥ゴフッ!」
アナスタシアは吐血してしまった。
ーーーーいやよ、嫌よ! あの女がどうなろうと構わないけど、この姿で死ぬのはもっと嫌!
私は鏡を見る。
「ああ!! なんて事!?」
顔が、髪が! 瞳がヴァレリアに戻りかけている!! いやよ、嫌! 私は今の私がいいの! ヴァレリア(この姿)ではハンニバル様は愛してくれない!!
ハンニバル様はーーーー
愛して、くれない?? 私、何を考えていたの? こんな時にハンニバル様が気になるなんて‥‥‥
「ああ、ハンニバルさま‥‥‥」
私はなんて愚かだったのだろう。こんな、命の危機になって、自分の気持ちに気付くなんて。
「アナスタシア!!」
声がする方に目を向ける。御簾から透けて見えるその姿はーーーー
いつでも、どんなに体調が優れない時でも、自分の側に居てくれた。
ハンニバル様‥‥‥
心配してくれているの? ハンニバル様。こんな私を、こんな最低な私を、愛してくれるたった一人の人‥‥‥
「今日も果物のスープと、薬を持ってきたんだ。大丈夫なの?? 開けていいかい?」
そう言って御簾を開けようとするハンニバル様の手を慌てて止める。
ダメ! 今の顔を見られたら‥‥‥。私が本当はヴァレリアだという事がバレてしまう!
「だ、ダメ‥‥‥」
声を上げようとしたが、口から出たのは掠れた小さな声と血。
「アナスタシア!!」
見ないで、見ないでハンニバル様! 私のこの醜いヴァレリアを見ないで!
「アナスタシア、大丈夫だよ」
口の周りの血をハンカチーフで拭いながらハンニバル様は優しく、私を安心させるかのように囁く。
「大丈夫、アナスタシア。分かってたから‥‥‥。途中から全部。だから心配しないで、俺はどこにも行かないよ」
たとえ君の中身がヴァレリアだったとしても。
気付いた時は少し驚いたけど。
看病をしているうちにいつのまにか惹かれていた。
本当は孤独が怖くてたまらないのに、心配をかけないようにわざと人を遠ざけて。大事な人を傷つけてしまうのが怖くて。
【嘘つき、アイシャ、どんな時でも側にいるって言ったのに!!】
【アイシャ‥‥‥行かないで】
アイシャ‥‥‥。アナスタシアが魘されている時によく言っていた名前。
恐らくもうこの世にはいないのだろうが、アナスタシアはアイシャーーーーいや、アイシャというより。
大事な人を自分のせいで失うことを恐れている。
そのアナスタシアの真意がわかった時、何とも言えない気持ちで胸がいっぱいになった。アナスタシアは本当は誰よりも優しくて、誰よりも寂しがりやで。不器用で、孤独だっただけの、ただの悲しい人だったのだと。
「アナスタシア、心配はいらないよ。俺が側にいるから」
アナスタシアは目を瞠った。
「なん‥‥‥。ゲホゲホッ!」
なんで‥‥‥。知っているの!? 入れ替わりの事を! それを知ってもなお、なぜ! 何故ハンニバル様は側にいてくださるの!?
ハンニバル様は何も言わずに微笑んでいる。
『一輪の花の中に天国を見るには。君の手のひらと私の手のひらで永遠を握り 一瞬の永遠を掴みとる。私の中の秘めた愛が おまえのいのちを 蘇らせる』
ハッ‥‥‥。ああ‥‥‥
この感覚は何!? まるで、体が浄化されていくような‥‥‥
「アナスタシア、大丈夫。大丈夫」
痛みや熱が引いていき、体の内側が軽くなっていく。
この体になってから久しぶりの感覚だった。体が軽い‥‥‥
「アナスタシア、鏡を見てごらんよ」
そう言ってハンニバル様が私の体を起こし、手鏡を見せてきた。
「あ‥‥‥」
そこに映っていたのは、美しさを取り戻したアナスタシアだった。黒髪には艶が戻り、瞳は輝きを取り戻した。肌の血色も素晴らしい!
「私、さっきまで苦しかったのに」
もう今は何ともない‥‥‥。むしろ今までで一番体調が良いかもしれない。
ヴァレリア?? もしかしてこの短時間に何かあったの?
「生きている‥‥‥。ヴァレリア」
ーーーーヴァレリアは死ななかった。
ずっとずっと、憎かった私!
アイシャを殺した私、憎かった!
醜かった私!
自分が嫌いで嫌いで、仕方なかった!
でも今、ヴァレリアが生きている事にホッとしている自分がいる‥‥‥
(ヴァレリアにも、生きていて欲しい! その手で幸せを掴み取って欲しい!!)
ーーーーもう遅すぎる、かもしれないけど。
私はハンニバル様の方を振り返る。
本当の事を言わなきゃいけない! 何故かそう思った。
「ハンニバル様、私‥‥‥。本当はヴァレリアなの」
私はぎゅっと目を瞑った!
ハンニバル様は、呆れるだろうか?
ただの嫉妬で、願望で‥‥‥
「私、ずっとアナスタシア様になりたかったの!」
どうしてだろう‥‥‥
言葉がすらすらと出てくるのは
それは恐らく良心の呵責と、
私の意思‥‥‥。謝罪の気持ち。
ごめんなさい、ごめんなさい
ヴァレリア、アナスタシア!!
「うん、知ってるよ。でも今はその事はいいから、ベッドに横になろう?」
そう言って私を抱き上げて、何事も無かったかのように私を横たえる。
「軽蔑しないのですか?」
「別に軽蔑しないよ、君は君だから」
ハンニバル様のその言葉を聞き、私は堪らなくなった!
私はヴァレリアになんて酷いことをしてしまったの?!
自分の事なのに!自分の事をあんな風に罵って‥‥‥
「私、アナスタシア様になりたかっただけなの。ヴァレリアは、あの体は嫌だったの! アイシャを殺したあの体が憎かった! でも、今は、ヴァレリアには生きて欲しくて、感謝もしていて。ヴァレリアのおかげで気付かされた事もあって‥‥‥。頭の中がぐちゃぐちゃなの‥‥‥」
私は意味がわからない事を一方的に話し続けた。ハンニバル様はそんな私の話を頷きながら聞いてくれていた。
何とも言えない感情が、溢れて、こぼれて‥‥‥
「うっ、うわぁぁぁん! ごめんなさい! ヴァレリア!!」
私は堰を切ったように、子供のように泣きじゃくった! そんな私を、ハンニバル様は何も言わず抱きしめて、私の背中をトントンしてくれていた。
燃えるようなその頬も
今にごらんよ色あせる
その時きっと思いあたる
笑ったりしないで
私の事を
とはいえアナスタシア
寝ていると
お前と一緒に若返る‥‥‥
美しい鳥の歌声が聴こえてきた。
ハンニバル様優しすぎるー!!
アナスタシア様はただアナスタシア様になりたかっただけでなく、アイシャを死に追いやったヴァレリアの体がずっと嫌だったのですね、うーん難しい。
あれ?元を辿れば全部ニーズヘッグが悪いんじゃない?
悪魔ニーズヘッグ「」
ここまでお読みくださってありがとうございます。
それでも私はニーズヘッグが好きだと思った方は広告の下にある☆に点を付けて行ってくださいね!悪魔でもなんか可愛い〜と思った方は☆にZEROを付けて行ってくださいね。
ご拝読ありがとうございました。また読んでくださいね。