ロキとの邂逅
結局翌日領主に会いにいくことが決まり、レクターは心がざわついて眠れない。
気晴らしに散歩に出るのだが‥‥‥
とはいえーーーー
結局その日はセトと一緒に帰ってきたエリーとヴァレリア。俺とセトとケルベロスの三人とで分けて寝ることになった。明日は領主に挨拶に行くのだが、案の定ヴァレリアがついてくると言ってきた。
俺について来たいと言って‥‥‥
「うーむ、眠れん」
眠れなくて少し散歩に出ようとマントを羽織った。
「ハァ‥‥‥」
しばらく歩いていると妖精?ーーーーじゃない! ヴァレリアがそこら辺の大きな石に腰掛けていた。
ほんのりとした月明かりに照らされたヴァレリアのその神々しい美しさに思わず息を呑む。こんな夜中に一人で外に出てきたのか? この辺りは確かに安全だが変な奴がいないとも知れないのに。
「ヴァレリア!」
「あら、レクター!」
ヴァレリアの危機感の無い微笑みに俺は腹が立った。
「ヴァレリア! 一人で外に出るな! いくらこの辺りが治安が良いと言っても、危ない輩はどこにでもいるもんだ!」
俺の言葉を聞いたヴァレリアは、どこ吹く風でしれっと答える。
「あらレクター、お忘れですか? 私はニーズヘッグを従えているのですよ! いざとなったらどうとでもなりますわ」
「それでもパッと見はただの町娘なのだから‥‥‥。それに何故こんなところに? お前も眠れないのか?」
「うん、そう。私は平気なんだけどニーズヘッグが何故か落ち着かないから出てきちゃった」
「なるほど‥‥‥」
ニーズも一応明日領主に会う事が気がかりではあるんだな‥‥‥
「レクターはどうしてここへ? レクターも眠れないのですか?」
クスクスとヴァレリアは微笑む。俺の気も知らないで‥‥‥。まぁ、ヴァレリアの笑ってる顔が可愛いからいいか。俺は肩を落としてヴァレリアに聞こえないようにふぅ、と息を吐いた。
「そういえば私、レクターの中の魔剣と話してみたいですわ」
前言撤回だ!こいつは本当に何を言っているのだ?
「我儘なレクターの体は不便じゃないですか?って聞いてみたいわ」
「なっ! 最近はあまり我儘になっていないだろう!? これでも我慢してるんだぞ」
色々と‥‥‥
ヴァレリアはしばらく黙ったあと口を開いた。
「レクターは私が気絶してる時に魔剣の力を借りて変身したのでしょ? ニーズから聞きました。見てみたいわ」
「ほぁ?!」
思わず変な声が出てしまった。先程から何を言ってるんだこいつは。見てみたい?! あの姿を?
「レクター、今私に見せてください。その変身した姿を。レクターの中の魔剣と話してみたいわ」
‥‥‥。ヴァレリアのこういう好奇心旺盛で無邪気なところ、好きだけど心配になるな。
「うーむ、別にいいけど、見た目が変わるから怖いかもしれんぞ? しかもあいつは気まぐれだから、おいそれと変身できるとは限らんぞ」
「それでもいいですわ! あの時私の命をレクターと共に助けてくれたウードガルザにお礼を申し上げたいのです」
俺は声を失った。
「ヴァレリア、お前その名前をどこで?」
「ニーズが呼んでましたわ。レクターとウードガルザって」
【『ああ、ありがとう‥‥‥。レクター、ウードガルザ‥‥‥。ウードガルザ、お前は気まぐれだから、ヴァレリアを助けてくれるか心配だった』】
あー‥‥‥。あの時か。
俺は首の後ろを掻きながら答える。
「どこから説明したら良いか。ウードガルザは普段は魔剣レーヴァテインとして俺の体の中にいるんだが、ウードガルザはその魔剣が実体化した姿なんだよな。まぁ、ヴァレリアがそこまで言うなら、見てもらった方が早いか。そのかわり、後から文句言うなよ!」
ヴァレリアは深く頷いた。
ふぅ、と一息ついてレクターは目を閉じる。
しばらくの沈黙が流れる。
ゴクリ‥‥‥
ヴァレリアの唾を飲み込む音が夜の静寂に響く。
バキバキッ、バキン!!
「‥‥‥ッ!!」
ヴァレリアが息を呑む! 目の前でその姿を変えていくレクター。胸がドキドキする! やがて変身が終わり、神々しい光を纏いながらその魔剣は姿を現した!
「は‥‥‥」
声が出せない! この膨大な魔力と近寄り難さと、全てを圧倒するオーラは何!? これが、魔剣レーヴァテイン! この人が、ウードガルザ!!
髪は金色で、肌の色はレクターと違う色。ツノも金色で、よく見ると装飾が施されている。体格もレクターよりひと回り大きい! 装備も変わっており、白い上等の絹の布の縁にはこれまた金色の装飾が‥‥‥
唯一レクターと変わっていないのは金色の瞳だわ。
「あっ、あの、あの‥‥‥」
先程まで言おうと思っていた事が一瞬で真っ白になり、私は軽くパニックに陥る。
『ふふっ、また会えたねヴァレリア、嬉しいよ。髪は残念だったが、そちらも似合っている。むしろその方が良く似合っているね』
ッ‥‥‥!!
「あ! あの時は! 命を助けていただき、ありがとうございました」
私はやっとそれだけ言えた。喉がひりつき、冷たい汗が背中を伝う。ニーズヘッグも怯えている? 恐怖の感情が伝わってくる‥‥‥
レクターの中の魔剣って、こんなにも怖いんだ。
私はこんな恐ろしいものと、コミュニケーションを取ろうとしていたの?
恐怖で小刻みに震えている私の肩に手を置き、ウードガルザは落ち着かせるように口を開く。
『ふふっ、私が怖いのか? ヴァレリア‥‥‥。震えている』
ウードガルザはそう言って、私の髪に触れてきた。
「わっ、わっ‥‥‥」
私は焦り、両腕をわたわたさせる。こんな感覚は初めてかもしれない! まるで、神さまに触られているような‥‥‥。ふわふわした、いい匂い。ああ‥‥‥
『こちらこそありがとう。レクターを守ってくれて‥‥‥。あの時のザダクの攻撃は、恐らく捨て身だったのだろう。その攻撃を恐れもせず、命を懸けて守ってくれた。レクターの中でずっと見てきたがやはり、人を守るためにあるのだな。ヴァレリアのその力は‥‥‥
『レイシガルドル』術者の力を無限に解き放ち、同時に全ての邪悪な者の時間を止める効力がある。
ただし、その術には欠点がある。
術者の力を無限に引き出してくれる代わりに、体力の消耗が酷く早くなる。その呪文は、慣れるまではもう当分使わない方がいい。クスクス‥‥‥。レクターが心配するからな』
はわわわわ〜‥‥‥。ウードガルザが笑っていますわ!
私の意識が朦朧とし、ふっとそこで途絶えた。もう、無理‥‥‥
『おっと』
ヴァレリアはウードガルザの腕の中で気を失っていた。
「ヴァレリア!」
『ふふっ、私との邂逅はよほど緊張したらしいな、また会えると嬉しいな‥‥‥』
そう言ってウードガルザはレーヴァテインの中に静かに戻っていき、レクターもいつもの姿に戻った。
「ヴァレリア! 大丈夫か?」
「うーん、らめれす。怖いです、緊張しますた」
ヴァレリアは目を回しながら譫言を言っていた。
「初めてにしては上出来だったよ。ウードガルザが人に対して微笑むところなど見たことないよ‥‥‥。全く、大した女だよヴァレリアは」
そう言いながらレクターはヴァレリアを抱きしめる。
本当は、心配していたのだが、もしかしたらヴァレリアの言う通りになる日もそう遠くないのかもな。
(「魔剣とは仲良くなれないのですか? 私とニーズヘッグみたいに。だって魔剣は生きているのでしょう?」)
いつぞやのヴァレリアの言葉を思い出してレクターは微笑む。
それにしても、『レイシガルドル』にそんな効果があったとはな‥‥‥。時間を止める効力があるのか。
だが同時に諸刃の剣。ウードガルザが言っていたように、ヴァレリアにはもう一度あとで言っておこうーーーー
レクターはそう独り言ちながらヴァレリアの頬を撫でた。
ヴァレリア様のあのわけのわからない力は「人を守るため」だったのですね!時を止めるってそれなんてディオ様?
悪魔ニーズヘッグ「」
次回はウードガルザも出た事だし、少しだけ時を戻そうと思います。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
あなたはニーズヘッグが悪魔でも好きですか?好きだと思った方は広告の下にある☆に点をつけて行ってくださいね!だっ、誰が悪魔なんか!って思った方は☆にZEROを付けて行ってくださいね!
ご拝読ありがとうございました。また読んでください。