セトとエリーの事情(完)
初っ端から激甘コースになっております。
※砂吐き注意です。
そこには背丈2メートルの赤鬼‥‥‥。ではなくて顔を真っ赤にした大男が立っていた。
恐らく走ってきたのだろう。呼吸が荒い。
アルフォンスに抱きしめられていた私はその大男がどうするのかを見ていた。
いや本当なら「セト!」と言って今すぐその胸に飛び込みたいですよ? でもしない。一体どうするのか様子を見てみるわ。
「‥‥‥誰だお前は? エリーちゃんを傷つけた男か?」
アルフォンスさんが私を抱きしめる力を強めてセトに言う。
痛い‥‥‥
セトならこんな強く抱きしめてはくれなかった。セトは自分の体が大きいので私に触る時はいつも気を遣って、小動物を摘むように優しくしてくれた。
その優しさが歯痒かった時もあった‥‥‥。でも今その優しさがこんなにも愛しい。
「ああ、そうだよ‥‥‥。俺が傷つけたんだ! だがお前には関係ないだろが!」
「ふーん? 先程俺とエリーちゃんは婚約したのだが?? それでも関係ないとでも?」
「えっ?」
「えっ??」
私はアルフォンスの腕の中で暴れた! 何を勝手な事!
「ちょっと!(怒) 私そんな約束していないわ! 私の意志を無視して勝手にそんな事言わないでよ! 離してよ! 離して!」
アルフォンスにはもはや私の声は聞こえ無いようだった! そればかりか、私に口付けようとしてきた。
ゾォォォ〜!!
いやよいやよ! セト以外とそんな事!! 私はアルフォンスに渡されたハンカチーフをアルフォンスの顔にぶつけて叫んだ。
「いやー!! セト! セトじゃないと嫌よ!!」
そう叫んだ瞬間、ものすごい力で私はアルフォンスさんの腕から離された!
「わぁぁ!!」
気付いたら私はセトの肩に軽々と持ち上げられていた!
腰はしっかりとセトの片手で支えられている。
「ヒィィ〜! お許しください!」
アルフォンスさんが店の床に頭を擦り付けながら命乞いをしていた。
セトはいつのまにか自分の剣を抜き、その刃先をアルフォンスの頭上に突きつけていた。
セトの顔は見えないが、アルフォンスの様子から静かな怒りが伝わってくる。
「もうエリーをこの店には来させない! 代わりに俺が来るからな! 毎日毎日、首を洗って楽しみにしてろ!」
セトはそう言ってくるりとアルフォンスに背を向けて店を後にした。
私はヴァレリア様と違って高所恐怖症ではないので、セトの歩くままに任せていた。
一体どこに行くのかと思ったら、いつも魚を釣っている川にたどり着く。
私たちはオシリスさんが時々魚料理を作る時に、ここによく釣りに来ていた。ここの領主様は、川魚がお好きなようで、比較的川が綺麗で、魚もあまり臭くないのだ。
それでも火を通すか塩漬けにした方が美味しくいただけるのですが‥‥‥
セトはずっと黙っている。もちろん私もずっと黙っていた。私はまだ許していないのです!
川沿いの大きな岩に腰掛けて、セトはやっと私を肩から下ろした。
「はぁぁぁぁ〜‥‥‥。よかったァァァァ〜!!」
クソでかいため息を吐き出すと共に、セトは私を抱きしめた。
ーーーーなんかさっきから私めっちゃ抱きしめられてない?ま、まぁ今はセトだからいいけど‥‥‥
ただセトの抱擁は、アルフォンスと違って優しいということ。相変わらず小動物をつまむような抱き方。もう少し強く抱きしめてくれてもいいのに‥‥‥
私はこんな時、怖かったと声をあげて泣く事もできない可愛いくない女。
ネフティスさんはこんな時、声をあげて泣いたんだろうな。あの人は美しいし、扇状的だし、男心を掴む術を心得てる。それでもヴァレリア様よりはずっとレベルは違いますけどね! ヴァレリア様は持ってるオーラが違いますから!
でも私は? 私は川に映る自分を見た。
そこには胸もない、ただの痩せっぽちの女が映っていた。
ハァ‥‥‥。私がため息を吐いているとセトが私の名を呼んだ。
「エリー」
呼ばれてセトの方を振り返る。
「なんですか?」
自分でもびっくりするくらい冷たい声が出た。
「‥‥‥。その、すまん。傷つけて、ごめん」
「‥‥‥」
私はセトの困ったような顔をまじまじと見ていた。
「セト、もういいのですよ。セトは私を追いかけてくれた」
そう、それだけで十分です。ネフティスさんにも、他の誰にも目もくれず、私を追いかけてくれた。それだけでいいのです。私は‥‥‥
「よくねぇ」
「えっ?」
セトは私を立たせて、片手を持って跪いた。
「エリー! おおおお俺と、けけけ、結婚してくれ!!!!」
「えっ? は?」
「お前があのアルナンチャラと婚約したって聞いた時、マジで血の気が引いた。今までこんな気持ちになったことは、なかった。エリーが俺の前から居なくなってしまうって‥‥‥。もう二度と触れられないと思うと、焦った」
そう言ったセトの真紅の目は気のせいか潤んで見えた。
「セト?」
私はふふっと笑ってそっとセトの頬を撫でる。
「セトは血の気が引いてばっかりね。どうせセトの事だから、慣れて私がいつも側にいると思っていたのでしょう? それで、私が離れてしまいそうで怖かったのよね」
「ウッ‥‥‥すまん」
「セト、本当に私でいいの? 私はネフティスさんみたいに胸は無いし、抱きしめたからわかってるかもしれないけど、抱き心地も最悪、ガリガリよ? 幼少期にろくな栄養摂っていないから」
それでも!
「俺はエリーがいい!! エリーの見た目だけじゃなく、エリーがいいんだ! だから! おおおお、俺の、そばに居てくれよ!」
セト‥‥‥
私はセトの大きな手を握って言う。
「セト、私はどこにも行かないわ。セトを置いてどこへ行こうと言うの? 私たちはいつも一緒よ」
私はセトのいつぞやの言葉を使って返した。
「貴方と結婚してもいいわ。セト」
「えっ」
「ただし、今は婚約段階よ」
「‥‥‥ああ、今は」
セトが私の金髪を撫でる。そういえば、この髪だけは自分でも気に入っていた。思わず顔が綻ぶ。
「エリー。やっと笑ってくれた」
セトが安心したように言う。
「エリー! 俺たちはいつも一緒だ」
「ははっ、そうね! 私たちはいつも一緒ね!」
いつのまにか私たちは、二人とも何がそんなにおかしいのかというくらい笑い合っていた!
私はもう悩まないわ! セトが居てくれるから!
なんだこの甘々カップルは‥‥‥
お互いが好きかどうかの確認作業しなくても良くない?!まぁ私がそういうの好きなんですけどね(笑)
エリーはヴァレリア様と違って恋愛に対し積極的ですよね。このままセトを転がして欲しいです。
末永く爆発しろ?
アルフォンス見事な当て馬でワロタ。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
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ご拝読ありがとうございました。また読んでくださいね。