セトとエリーの事情・三
ヴァレリア様に負けず劣らず女性の気持ちが分からないセトのせいで酒場を飛び出してしまったエリー。
トボトボと酒場に必要なものをお店に買いに行くのだった。
ハァ〜、セトは全くわかっていないですわ。
エリーはオシリスに頼まれていた買い物に来ていた。
さすがエリー。ちゃんとついでの買い物もしてしまう。自分の事ばかりで手一杯のレクターとかヴァレリア様とは違う。
「エリーちゃん、こんにちは」
「あ、アルフォンスさん。いつもお世話になっています。今日はこのメモに書いてあるものを買いに来たんです」
アルフォンスとエリーに呼ばれた男は、エリーが買い物に来たなんでも屋のオーナーだった。セトとオシリスと同じくらいか、ちょっと歳が上の‥‥‥。短めの黒髪に赤い瞳、なんでも屋というには不似合いな、センスの良いウェストコートとブリーチズを履いている紳士だった。
「あ、ショース‥‥‥」
アルフォンスがショースを履いていたのを見て、エリーはセトにショースを履かせてあげた事を思い出した。
セトの大きな手で、繊細なショースは何枚もダメになってしまった。
私の気持ちを知っているのに、お互い好きなのに、セトはいつまでも鈍感で。
(セト‥‥‥それでも嫌いになれない)
セトの大きな手、照れて真っ赤になる顔。大きな体のくせに、小さな虫が苦手で、私が何匹も退治してきた。
「えっ!? エリーちゃんどうしたの!?」
いつのまにか私は泣いていたようだ。
アルフォンスさんの心配そうな顔が歪んで見えるくらい目には涙の膜が貼って、やがて、溢れた。
「あ、アルフォンス、さん」
私は恥ずかしくて、思わず目を擦りそうになった。それを慌ててアルフォンスさんが止める。
「エリーちゃん、待ってこすらないで!」
「んっ」
アルフォンスさんは私の顔を持って、上等なハンカチーフで丁寧に拭ってくれた。
「あ、アルフォンスさん。そんな上等なもので拭いてはいけませんよ。前から不思議だったのですが、なぜそんな上等な物があるんですか?」
私は驚いて涙が止まってしまった。
「ははは、俺は刺繍が好きでね。趣味で作ったりしてるんだ。それより何かあったの? 急に泣き始めて」
「アルフォンスさん、ちょっと‥‥‥。恋人と、少しあって」
なんでだろう。私、こんな個人的な事を。行きつけとはいえ買い物に行くだけのお店の人に言ってしまった。自分でも知らない内にストレスが溜まっていたのかな?
我に帰った私は、自分の口から出た言葉にハッとする。
「い、いや! 気にしないでください! 個人的な事なので!」
「エリーちゃん、可哀想に。泣くほど悩んでいたんだね」
そう言ってアルフォンスさんは私を抱きしめた。
「ええっ?? ちょっと、アルフォンスさん!」
私は行き場を失った両手をわたわたする。
「俺なら‥‥‥エリーちゃんを悲しませないのに!」
「へぁ??」
「エリーちゃん、好きだ! 前からずっと好きだったんだ! エリーちゃんは美人だし、働きものだし。スタイルもいいし、結婚して欲しい!」
「けけけ結婚?! ええっ?」
ちょっとこの人、色々ぶっ飛びすぎじゃない‥‥‥? ただの買い物客とその店のオーナーってだけで、お互いのことは何も知らないのに‥‥‥。この人、こんな人だったんだ。いや、このお店には不似合いな格好をしているところも前々から変だと思っていたけど‥‥‥
ああ〜‥‥‥。めんどくさいですわ。私はこんな雰囲気は苦手なのに。こういうのはヴァレリア様と王子がやるべきでしょ。
何故かセトに会いたくなった。本当は会いたくないけど。今すごくセトに会いたい。
「アルフォンスさん、申し出はありがたいんですが。その、私は恋人と別れたわけではなく‥‥‥」
少し喧嘩しただけなんです。
「申し訳ないけど‥‥‥」
と、私がアルフォンスさんの提案を断ろうとしたその時だった‥‥‥
おお?!ついにセトの登場ですか?
この二人個人的に大好きなんです。好きなCP多すぎ。
個人的にアルフォンスみたいな男の人は苦手ですね。
何考えてるかわからない人って怖くないですか?
しばらくこういうスローライフな話が続きます
※文中に出てくるウエストコートとブリーチズは基本的に貴族の服装なので街の商人が着る衣服としては不似合いで、エリーはそこに違和感を感じているのですね(急に歴史)。
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