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愛していますよ皇子様?ええ、本当に。

「本当は君の事を愛していたんだ!!!」


 私を抱き上げて彼はそう言った。

 金髪碧眼の彫刻と見間違うほどきれいな顔をした男性。

 この帝国の第二王子で私の婚約者。

 頬を伝う熱い血の流れを感じながら、その言葉を私は聞いていた。

 

「いい加減束縛するのはやめてくれないかな?」


 そう言いながら婚約者の私の前で平気で女性と談笑する彼の姿を見守るしかできなかった日々。

 帝国の第二皇子と公爵家の令嬢ということで、私は彼と婚約した。

 出会ったころの皇子はとても優しくて、私はその愛に溺れていった。

 けれど、次第に彼の優しさは別の女性に向かうようになる。

 彼に嫌われるのが怖くて、かといって彼に他の女性が付きまとうのも許せなくて、つい相手の女性に八つ当たりをしてしまった。そのせいで私は悪女として社交界で噂が広がってしまう。


 私の悪名が広がれば広がるほど、彼は意に添わぬ婚約者と婚姻を結ばなければならない悲劇の皇子として周りからの同情が集まった。


 父が何度あの皇子との婚約を解消しよう、あの男ではお前は幸せになれないと説得してくれても、私は彼の愛を求めてしまった。


 そして――いま、私は死を迎えようとしている。


 浮気相手と騎乗する皇子の浮気現場を目撃し、二人を引き離そうとしたその時、皇子が下りた馬に私は踏みつぶされてしまった。


 ああ、私死ぬんだ。


 頭がぱっくり割れたと言われて頭に手をやると、手にべっとりと血がついた。

 不思議と痛みはない。事故直後は緊張で痛みがないと聞いたことがあるけれどそれと同じなのだろうか?


 今更になって、私をないがしろにした皇子が私によりそって、「しっかりしろ愛している」と泣きながらすがりついてくる。


 愛している?


 いいえ違うわ。


 貴方が泣いているのは、私を失って婚約関係が解消されてしまえば我が公爵家の支援がなくなり王位継承レースで不利になるからにすぎない。


 ああ、泣いている。彼が。私に振り向くことなく他の女と遊んでいたあの男性が。


 私の家の庇護下から外れるのを悟った彼の涙は本当に滑稽だった。

 私が皇子にすがっていたから、父は貴方に援助したけれど、死因がこれでは父は貴方の援助どころか、貴方と敵対する皇子を支援するでしょう。


 自分が死ぬ恐怖よりも綺麗な顔でみっともなく泣く皇子の泣き顔にぞくりとした。


 ――-ああ、もっと泣かせたい。

 私をないがしろにした罰を。本来あるべきだと信じて疑わなかったものが一瞬でなくなる絶望を。


 どうか神よ、私の願いを聞き入れてくださるなら――私にもう一度チャンスをください。


 薄れゆく意識の中で私は必死に祈る。


 まだ生きていたい。死にたくない。私にはやらなければいけない事がある。



 どうか――神様――





「大丈夫かいフランチェカ?」


 次に目覚めたのはベッドの上だった。

 いつもの私の部屋で、心配そうに父が手を握ってくれていた。


「お父様……私……生きていた?」


 父が泣きながら頷いてくれた。父の話では馬にけられた後、たまたま通りかかった父が魔法で応急処置をして、回復魔法の使える大神官のもとに運んでくれたらしい。おろおろとするだけで何もしなかった皇子に父はいらだった様子で、もうあんな男とは婚約を解消しなさいと、私に言い聞かせるように言った。


 ダメよ。まだなのお父様。


「お父様は……私を愛してくれますか?」


「ああ、あのような男と結婚するくらいなら、独身でも構わない、私が命を懸けて守ろう、だから皇子との婚約は……」


「ごめんなさい、お父様。私は彼を心から愛しているの」


 そう言って私は微笑んだ。



 それから、私は今まで以上に彼に縋り付いた。

 最初は私に大けがを負わせた事を謝ってきた彼だったが、私が変わらずに彼の愛を追い求めると知るとまたいつもの傲慢な彼に戻る。

 むしろ前よりもひどくなった。

 彼が高価なものが欲しいといえば、彼名義で与え、彼がこの領地を自分の物にしたいと言えば彼の名義で彼に買ってあげた。


 そのたびに彼は私に何をやっても離れないと確信をしたのか横暴になっていった。


 その姿が可愛くて、愛おしくて、私はうっとりする。


 彼は知らない。

 高価な物を与えてはいるが、私が買ったなどとは一言も言っていない。

 彼が勝手に公爵家からお金が出ていると思っているだけ。


 私を馬鹿にしていたせいで、彼は契約の内容すら見ないでサインをしてしまっているけれど、その品の金の出どころは彼自身の借金。

 彼が欲しいと言うように仕向けた領地は、観光地という事に溺れて借金漬けで破産寸前の領地。

 私が彼に逆らわないと勝手に誤解した彼は私をすっかり信用しきっていた。商人の説明も聞かず私の言うがままに契約を結んでしまう。


「好きだよ、テーシェ」

「皇子、でも皇子には婚約者のフランチェカ様が……」

「あんな悪女より君みたいな可愛い子のほうが魅力的だ」


 今日も目の前でこれみよがしに他の女といちゃつく彼を見て私は心の中で微笑んだ。


 --ああ、もうすぐよ。

 彼はじきに多大な借金で王位継承権をはく奪され、愛しているとささやいている女たちから見放されて、私にみっともなく縋り付くしかなくなるの。


 そうしたらたっぷり愛してあげる。


 貴方を跪かせて泣かせて、命乞いさせたらどんな綺麗な顔をするのかしら?

 私を失うと蒼白になったときの彼の美しい顔を思い出して私はぞくりとした。


 傲慢なその顔が、私に泣き請う事しかできなくなるなんて今から想像するだけで胸が締め付けられる。


 お父様に頼んであなたを囲う場所は用意してあるの。

 それはもうとっても素敵なところ。

 真綿でじわじわ締め付けるようにあなたは窮地に陥れられているのに気づきもしない、その馬鹿なところもとっても魅力的だわ。


 

 好きよ、皇子、心から愛してる。


 ―――だから、私から決して離れられないようにしてあげるから……ね?


 大好きな皇子様。


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