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第九十八章 姉の選んだ未来

 最終章まであと少しの予定でしたが、予定より長くなりました。

 読み直しが出来たら順次投稿します。


最終章まで読んで頂けると嬉しいです。最後まで

ハラハラすると思います!


「レオ、向こうで夫が貴方と話したがっているんだけど、いいかしら? 何でも貴方に提示された無駄な部署の洗い出しが一応出来上がったので、見てもらいたいんですって」

 

 カレンが少し離れた場所からこちらを窺っていた男の方に顔を向けながら弟に言った。するとレオナルドは少し驚いた顔をした。


「えっ? もう? ずいぶんと早いんだな」

 

「少しでも貴方の役に立ちたいって頑張っていたわ。貴方に早く義兄だと認めてもらいたいんじゃないのかしら? 今更だけど……

 でも、本当に急いでいるんでしょ? 貴方……」

 

「まあね、せめて新しい総務統括庁の骨子案くらい作っておかないと、長期的休暇を取れないだろう? 

 僕は一刻も早くジュジュと新婚旅行に行きたいんだよ。結婚記念日を迎える前にね!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 レオナルドは妻も連れて行こうとしたが、女性だけで話があるからと、ミラージュジュは姉達に引き止められてしまった。仕方なくジャックスとノアに目配せしたが、ノアは動こうとはせずに、

 

「私はミラージュジュ様の護衛ですから」

 

 と言ったので、レオナルドは目を釣り上げた。するとスージーがこう言って弟を追い払った。

 

「ノア君は人生の半分は女性として過ごしてきたのよ……

 だから貴方と違って女心が分かるのだからここに居てもいいのよ。

 貴方は向こうへ行って、サッサと仕事をしてきてちょうだい。早く新婚旅行へ行きたいんでしょ!」

 

 ジャックスが堪えきれず笑った。そしてスージーに何かアイコンタクトを送ると、未練がましそうな主を促した。

 ミラージュジュはスージーとジャックスの顔を見て、とうとう決心がついたのだなと勘付いた。そして今からそれを報告してもらえるのだろうとうきうきした。 

 

 ミラージュジュ達四人はサロンの壁側の角近くのテーブル席に腰を下ろした。ここなら他の人に聞かれずに済むだろう。周りに視線を配れるし……

 

 やがてそこでスージーは、これからの自分の指針について語り始めた。

 

 

 •••••••••••••••••••••••••••••••••••••••

 

 

 今回の大改革の狼煙を上げるきっかけは、バーノン男爵との司法取引きによる教会関係者の一斉逮捕と、王宮における不審者侵入事件だった。

 

 もちろん不審者はその夜、王城で当番制の日直をしていた筈の公爵(スージーの元夫)だった。

 そして彼が単なる不審者ではなく王太子妃の合意の元での不実な行為をしていた事は、王太子の主寝室に足を踏み入れた者達には明らかだった。

 しかもそれを王家と公爵家の侍女や侍従、そして護衛も分かっていて庇い立てしていたのは明白だった。

 

 不貞行為をしていた二人は裸のまま地下牢に一緒に放り込まれた。

 そして二人に協力した者も。彼らは自分達は主の命令に従っただけだと無実を訴えた。

 しかし、事情もよくわからずに王太子妃達を庇い、ただそれだけで投獄された者達に罵声を浴びせられておとなしくなった。

 

 王太子妃は自分の両親や祖父に連絡して欲しいとずっと訴えていたが、身を包む毛布が与えられただけだった。

 そして目の前の牢獄に両親が投獄されたのを見て、ようやく全てを悟ったのだ。勢力図が変わったのだ。もう自分には未来はないのだ。これからどうすればいいのだろう? ただ審判を待つだけ? 

 傍らにいる男は、投獄されてから一言も口を開かなかった。

 

 

 公爵と王太子妃が尋問の為に牢獄から出されたのは、半月ほど経った頃だった。

 後から投獄された者達はとうに牢獄から出されて尋問され、次々と新しい罪人と入れ替わっていたというのに。

 王太子妃ローズメリーの母親が先に牢獄から出された時、娘に一言だけこう言った。

 

「正直にお話して謝罪しなさい」

 

 と。しかし、娘は愚かにも夫を含めた新しいこの国の主要メンバーの前で嘘をついた。

 公爵に結婚前に無理矢理に乱暴されて妊娠し、祖父に墮胎させられた。そのせいで子供が出来ない体になった。

 それなのに、公爵はそれをネタに自分との関係を迫ってきた。どうせもう子供は出来ないのだからいいだろう? 

 言う事をきかないと、二人の関係をばらすよ……と脅されたと。

 そしてようやく与えられた平民用のシンプルなドレスを身に纏った王太子妃は、夫である王太子に縋りつこうとして、護衛騎士に捕らえられ、後ろ手に縛られた。

 

 

 それに対して公爵は、淡々とした態度で、彼女とは正反対の事を述べた。

 

 過去に幼馴染みのローズメリーを愛していたのは事実だ。

 しかし、お互いに別の相手と結婚した以上、その想いはきちんと断ち切っていた。

 自分は妻のスージーを本当に心から愛するようになっていた。かわいい子供にも恵まれて幸せだった。

 しかし、王太子妃から王太子や妻に昔の関係をばらし、今の地位にいられなくしてやると脅された。

 それでも妻と友人を裏切る事は出来ないと拒否すると、今度は逆らうなら祖父であるヴェオリア公爵が、貴方の家族に何をするか分からないわよ、と更に脅迫してきたのだと言う。

 大切な家族を守る為には彼女に従うしかなかったと、彼は言った。

 

 

 この公爵の言葉に王太子妃は大きく目を見開いた。

 

 かつての真実の相手であるその男とは、投獄されてから一切口をきいていなかった。

 そう、話しかけても返事が無かったのだ。思いもかけない状況にきっとショックを受けているのだわ。

 いざという時に案外男は頼りにならないと昔から母が言っていたし、と王太子妃ローズメリーは思った。

 

 しかし、そうではなかったのだ。この男は自分に対して怒りのあまりに口を開かなかったのだ。幸せを壊した自分を……

 

 このままではまずい。自分だけが一方的に悪者になってしまう。ローズメリーが公爵の言葉に反論しようと口を開きかけた時、彼女の頭は護衛の手で固定され、口に漏斗を咥えさられた。

 状況が理解出来ないうちにその漏斗に透明な液体が注がれて、それが喉に流れ込んだ。

 

『毒?』

 

 ローズメリーは恐怖でガタガタと震え上がった。あの穏やかで柔和な夫が、たかが浮気で妻を殺すとは思ってもみなかった。

 夫を見るとまるで表情が変わらない。いつもの柔和な顔をしていた。しかしそれが恐怖を増大させた。

 生まれてから二十五年も側にいたのに、夫の本性を自分は知らなかった! こんなに恐ろしい人だったなんて……

 

 しかし王太子は薄笑いを浮かべるとこう言った。

 

「そんなに怖がる事はないよ。今飲んだのは毒なんかじゃない。君は死んだりしないよ。

 ただね、証言が正反対じゃ、どちらが本当の事を話しているかわからないだろう? 水掛け論をするのは時間の無駄だから、この薬を飲んで貰ったんだ。

 貴重な薬なんだけど、効果はもう証明済みだよ」

 

 そして彼女は、王太子や宰相、各騎士団長、法務大臣、それからザクリーム侯爵の前で、彼女の想い、真実を述べたのだった……

 


 王太子妃ローズメリーの父親はいくつになっても自分の父親や姉に逆らえずに言いなりだった。既に孫がいてもおかしくない年なのに、今もって爵位を譲ってもらってはいない。

 そんな父親にいくら王太子と結婚したくない、好きな人がいると言っても願いを聞いてくれなかった。

 子供が出来た時にはこれでどうにかなると思ったが、彼は堕ろせとさえ言えずに、ただ自分の父親に報告して指示を待つだけだった。

 

 祖父のように傲慢、強欲で出世にしか関心のない男は反吐が出るほど嫌だったが、父親のように意志の弱いただおとなしいだけの男もごめんだった。

 だから柔和で誰にでも気配りは出来るが、祖父にまるで反抗しないような王太子とは結婚したくなかった。

 明るく爽やかでハキハキとした、もう一人の幼馴染みの公爵家の嫡男の方が好きだった。それに本来公爵家同士なのだから、この結婚には何の障害もなかった筈なのだ。

 それなのに祖父の権力欲の為に、従兄の王太子と政略結婚をさせられてしまった。

 

 そして無理矢理に墮胎させられたせいで子供が出来ない体になった為に、ローズメリーは周りから責められ続けた。

 役立たず!と祖父であるヴェオリア公爵に罵られる度に、お前のせいでこうなったんだ!みんなお前のせいだ!と、祖父を殺してやりたいという思いが募った。

 

 ところが運命の相手の方は、この国一番の才色兼備と評判の侯爵令嬢と結婚し、続け様に二人の子供まで授かっていた。

 

 夫である王太子が、彼の幼馴染みでもある公爵夫妻を事ある毎に王宮に呼び出して、四人でよくお茶会にした。

 仲睦まじそうな二人を見るのは辛くて嫌だったが、何も知らない王太子にお茶会を止めてとは言い出せなかった。

 

 しかし、公爵位を継いだ昔の男が立派になり、妻と幸せそうにしている姿を見ると、段々と彼を憎いと思うようになっていった。

 私だけ辛い想いをしているなんておかしい。そんな事は許せないと思った。貴方だってかつては私を真実の相手だと言ったじゃないの。それなのに、何故別の女と幸せそうなの?

 私の事も幸せにしてよ! とローズメリーは思った。

 

 そして二年前に彼女は公爵を脅した。また以前のような恋人関係に戻りましょうと……

 私達は真実の愛で結ばれているのだから……

 大丈夫よ。どうせ子供なんかもう出来ないし問題ないわ。

 応じてくれなかったら、私達の過去をスージー様にお話しするわ。

 貴方が私のお古だと知ったら彼女怒るわよ、プライドの高い人だから、許してもらえないわよと。

 

 しかしそれでも公爵が応じなかったので、祖父の名前を使って脅迫した。すると彼は真っ青になって叫んだという。

 

「言う通りにする! だから妻子には絶対に手を出すなと……」

 

 

 自白剤によって二人の関係が全て明らかになった。公爵には自白剤を飲ます必要はない、そうみんなは判断した。

 

 王太子は離縁状を差し出し、ローズメリーにサインをさせた後でこう言った。

 

「お前も哀れな女だな。あの爺のせいで人生を狂わされた。こうなったのはお前の全てを受け入れる度量がなかった私にも責任がある。

 しかし、お前が私の真の素顔を見せるに値する人間だとは、どうしても思えなかった。

 お前に王族になる覚悟があるとはとても思えなかったからだ。そう、私の母親同様……

 

 そしてそれは正しかった。お前はただ自分の悲しみだけに溺れ、そこから這い出す努力をしないどころか、周りの大切な者達まで一緒に引き摺り込もうとした。

 幼馴染みで初恋の男と、お前を親身になって助けようとしてくれていた友人を……

 それは王族としてだけでなく、人として恥ずべき行為だ」

 

 ローズメリーは、公爵に対して脅迫めいた事を言って彼を陥れた。それはやろうとすれば実現可能な事だったので、その効果は抜群だった。

 実際のところ彼女が本当に実現しようとまでは思ってはいなかったとしても。

 

 彼女は祖父や伯母である側妃、そして父親のような犯罪は犯していなかった。しかし、脅迫や不貞行為が悪質だった為に、実の母親と同じ修道院に入る事になった。

 

 公爵の方は不貞行為と職務放棄違反はあったものの、情状酌量されて公職を外されたものの罪には問われなかった。そして、公爵から侯爵へ落とされ、領地を減らされただけで済んだ。

 

 これは思ったより軽い処分だった。しかも、彼が裸で地下牢へ放り込まれた不名誉も、王城によって大分払拭された。

 彼の行為が元王太子妃による脅迫のせいだったと、公に発表された事で、風当たりが大分弱まったのだ。

 あの悪名高いヴェオリア公爵一族に目をつけられたせいだから仕方ないだろうと。

 

 これは王太子の指示だったが、幼馴染みの名誉回復のためにしたという訳ではなく、親友のスージーと彼女の子供達の将来のためだった。

 その証拠に、妻と会わせて欲しいと泣きながら懇願する幼馴染みに、王太子は彼にただ離縁状を指し示し、これが君が唯一出来る償いだよと告げたのだから。

 

読んで下さってありがとうございました!

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