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第九章 驚愕の正体 

新しい場面になります。

そして今度は不倫、事故の話が出てきます!


 ナラエから話を聞いて、この屋敷の三不思議(さんふしぎ)のうち二つは解消したとミラージュジュは思った。

 一つはもちろん真の奥様の事。

 そしてもう一つは義父母と夫との関係性。こちらは義姉達からそれとなく、上手くいっていなかったとは聞いていたが。

 

 夫の両親は妻の両親同様、子供への接し方が歪だったようだ。

 子供に対して過干渉と無関心という、全く逆のパターンだったが。

 前侯爵夫妻は自分の子供を絶対的に支配したいと思う種類の人間らしい。

 

 ただ、たとえそれが強制的だとしても衣食住をきちんと与えられるのと、行動の抑制はないが、まともに食事も与えられず教育も施されないのとでどちらがマシなんだろうか?

 比較するだけ無駄だとはわかっているが……

 放置と過保護。子供にとってはどちらも残酷で辛い。

 

 ただ夫には強くて優しい二人の姉がいただけ、まだ運が良かったのかも知れないと妻は思った。

 しかし、そんな苦楽を共にした姉達の意見も聞き入れなかったとなると、真の奥様への思いは相当なのだろう。妻は改めて夫の思いの強さを知らされたのだった。

 

 そして残った最後の不思議が、夫と第二王子との関係である。

 初めての王宮の夜会で会った時は、二人がそんなに親密であるとは思えなかった。

 いや、正確に言えば、王子の方は親しげだったが、夫の方はそうは思えなかった。大体第二王子を長とする保守派から抜けたと、本人の前で言っていたくらいだったから。

 

 それなのに、結婚して三か月経つが、この間にこの侯爵邸に王子が二度も来訪されている。そして侍女に聞いたところ、結婚前も三度も来訪されていたらしい。

 

「一つ違いの先輩後輩で、生徒会活動もずっと一緒に頑張ってこられたから、こんなに仲がよろしいのでしょうね」

 

 侍女達は皆そう言っていた。

 保守派から抜けるつもりだということを、夫は執事以外には話していないようだった。

 それ故に王子の訪問に使用人達は何の疑問も抱いていないようだった。ここで波風を立てるのはまずいので、ミラージュジュはそれ以上の事は聞かなかった。

 

 一体あの王子はこの屋敷に何をしに来ているのだろうか? と妻は違和感を覚えた。

 今のところ挨拶だけでそれ以上関わってはいないのだが、できれば顔さえ合わせたくない人物だ。

 

 もしかして王子を尻に敷いているという、あの気の強い妃から逃避の為に侯爵家に来ているのだろうか……

 もしそうならふざけている。不敬だろうがなんだろうが、非常に腹立たしかった。

 自分の頭の上の蝿くらい自分で払え! 

 

 あの名ばかりの自分の家で、生き延びる為にずっと殺していた感情が、ミラージュジュの中で再び蘇ってきていた。

 そう。ミラージュジュに大切な人達が出来たからかもしれない。かつての二人の親友の時のように。

 

 あの王子は侯爵家にとって絶対に害になる。この屋敷の中で一番彼の素顔を知っている彼女は、そう思えてしかたがなかった。

 

 

 その妻の悪い勘は結婚半年後に、運悪く現実のものとなった。

 

 

 ある日侯爵家の侍従が馬車を走らせて帰ってきて、屋敷に飛び込んでくるなりこう叫んだ。

 

「旦那様の乗った馬車の上に落石があたって、旦那様が大怪我をされました」

 

 思いもよらない知らせにミラージュジュはその場に倒れ込みそうになり、ナラエに支えられた。

 

 その侍従は猛スピードで馬を走らせてきたので酷く疲れている様子だった。急いで食事を準備させ、彼を休ませてから詳しい話を聞いた。

 

 するとレオナルドは王都から馬車で半日くらいの距離にある保養地近くの山道を通過中、突然の崖崩れに遭遇し、馬車の上に岩が落ちてきたのだという。

 

「何故旦那様がそんな所へ? お仕事で隣国へ行かれたのではなかったの?」

 

 ミラージュジュの問に侍従は執事の顔を見た。

 二人の戸惑った様子に気がついて周りを見回すと、侍女達も気まずそうな顔をして顔を背けた。

 そこで彼女はようやく気付いた。ここ二三日どことなく屋敷の雰囲気が変だとは思っていたのだが。

 

「旦那様の怪我の様子はどうなのですか?」

 

「命には別状はないそうですが、まだ意識が戻られていません」

 

「・・・・・旦那様以外の方はどうなのでしょうか?」

 

「無傷の方もいらっしゃいましたし、かなり大きな怪我をされた方もいらっしゃいます」

 

 二人きりではなかったのか……

 どんな関係性なのだろうか?

 とにかく、亡くなった方がいなかった事は良かった。

 

「パークスさん、私も一緒に参ります。すぐに仕度をしてきます」

 

 ミラージュジュが執事にこう言った。すると、

 

「「奥様!」」


 侍女頭のマーラとナラエが悲鳴ような声をあげたのだった。

 

 

 ザクリーム侯爵家の馬車がとある保養地近くの病院に着いたのは、知らせを受けた翌日の昼前の事だった。

 夫の病室へ向かうと、夫は頭と顔に包帯を巻かれて眠っていた。

 傷のない綺麗で大きな手に触れて名前を呼んだが、ピクリともしなかった。

 しかし、静かに呼吸をしているのを確認してホッとした。

 

 そして暫く夫の寝顔をしみじみと見つめた。黒縁眼鏡が外された夫の顔をこんなに近くで見るのは初めてだった。金色の長いまつ毛がまるで少女のようにクルリとカーブしていてとても美しかった。

 

 ふと視線を感じて顔を上げると、部屋の隅に女性が立っている事に気付いた。

 全く気配を感じなかったが、恐らく最初からそこにいたに違いない。きっと夫に付き添ってくれていたのだろう。

 女性にしてはかなり背が高く、とてもスタイルが良くて、大変な美人だった。看護人の服ではなく、上品だがシンプルなデザインのドレスを着ていた。

 

「奥様、この度は旦那様をお守り出来ずに申し訳ありません」

 

 その女性が頭を下げた。

 女性が謝る理由がわからず執事のパークスの顔を見ると、彼がため息をついて頷いたので、ああ、と納得した。

 

「あなたはヴィラの方の侍女かしら?」

 

「はい。ご挨拶が遅くなりまして申し訳ありません。リリアナと申します」

 

「そう。はじめまして、リリアナさん。

 あなたが謝る必要なんてないのよ。だってこれは自然災害による事故なんだもの。

 それにあなたは護衛じゃなくて侍女なんだから、大の男を守れなくて当然よ」

 

 ミラージュジュの言葉にリリアナが少し震えていた。初めて本妻と対面して怖いのかしら……

 

「それであなたのご主人様の方の具合はどうなのですか?」

 

「石に押し潰されて内臓破裂をして、かなりの重症です。手術をしたのでまだ眠っていると思います」

 

「まあ! なんてこと!」 

 

 リリアナの言葉に驚いたミラージュジュは両手で口を覆った。

 そしてスクッと立ち上がり、部屋に案内するように命じた。

 すると隣の部屋だと言われて、そこへ向かった彼女は、ベッドの上に横たわっている女性を見て絶句した。

 

「ラナキュラス様、どうして……?」

 

 夫の真の奥方は、正妻の知り合いだった。彼女は学園の学年が二つ上の先輩。

 

 しかも、あの第二王子の運命だか、真実の愛だかの恋人で、卒業式で公爵令嬢と三つ巴の争いをした男爵令嬢だ。

 確か騒動の後、修道院へ送られたと聞いていたのに、何故旦那様の愛人に?

 

 ミラージュジュがあまりの事にショックを受けてのけ反って倒れかけ、執事のパークスとリリアナに受け止められた。

 

「奥様はアノ方をご存知なのですか?」

 

 待合室のソファーに座らされて、そうパークスに尋ねられたミラージュジュは力無く頷いた。

 

「学生時代の先輩です。卒業後に修道院へ入られたと聞いていました」

 

 それを聞いてさすがのパークスも目を丸くした。

 

「彼女はもしやラナキュラス=ボンズ嬢だと言うのですか?」

 

 いくら箝口令が敷かれようが、あれだけのスキャンダルだ。表立っては誰も口には出さなくても、それは噂になっていたのだろう。

 しかし、優秀で情報通のパークスさえ、『真の奥様』が件の悪名高い令嬢だとは知らなかったようだ。偽名を使っているのか?

 

「彼女は今は何ていうお名前なのでしょう?」

 

「ラーリナ=ホールス様です」

 

 リリアナが答えた。

 

 やはり偽名か。旦那様はこの事を……、いや、知らないはずはない。

 学年が一つ違うとはいえ、あれだけ目立つ美人である彼女を知らなかった筈がない。

 しかもあの二人が付き合い始めたのは入学早々だと聞いているから、嫌でも夫の目や耳にも入っていただろう。

 

 いくら先輩の屋敷といっても、大した用もないのに王子が度々訪問してくる。

 しかもこの屋敷には昔の恋人がいる。これはどう考えてもおかしい。

 二人はまだ切れていなかったのだろうか? 

 旦那様はもしかしてダミーの愛人なのか? 

 それとも二人で一人の女性をシェアしているのか? 

 一瞬そんなゲスな考えが頭をよぎって吐き気をもよおしたので、ミラージュジュは慌ててその思考を排除した。

 

 ミラージュジュが顔を上げるとパークスと目が合った。彼も似たような疑問を抱いたようだった。

 

 するとその時、二人は医師からの呼び出しを受けたのだった。 



読んで下さってありがとうございます!


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