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第八十九章 後始末 その1

 この章はほとんど説明分です。


 面倒でしょうが、読んで貰えると嬉しいです!


★ 投稿してから、何度か修正しました。申し訳ありません。


 改革の狼煙が上がってから二ヶ月近くが経った。城の地下牢獄は相変わらず収容された容疑者で常に満員状態だった。

 しかし、そのメンバーは絶えず入れ替わっていた。

 というのも城の地下牢獄に空きが出ると、すぐに他の仮の収容所から人が移されて来るからだ。

 

 捕縛した者はかなりの人数に及んだが、実際のところ、その全員が本当に罪を犯している訳ではない事は、最初から分かっていた。

 情報がヴェオリア公爵側に漏れないように、疑いがある者やその側に居た者達を一括で捕まえていたからである。

 本来してはいけない違法な手法だったが、今回は失敗の出来ない大きな改革だったために、致し方ない措置であった。

 

 その為、黒幕のトップにいたヴェオリア公爵が捕縛された時点で、巻き添えを食らったと思われる人々はすぐに釈放された。

 そしてその後も次々に人々が解放されていったのだが、それに大きく貢献したのが『王家の影』だった。

 

 影達は地下牢獄内に潜んでいて、絶えず収容されている者達の言動を細かくチェックしていたのだ。そうしていれば自ずと彼らの人物像は浮かび上がってくるものだ。

 

 例えば、ヴェオリア公爵の嫡男アーチーの学生時代からの友人だった、近衛第三騎士団の筆頭騎士などは即無罪放免になった。

 

 彼は、顔馴染みだった元王太子妃が強姦魔に襲われていると、咄嗟に思い込んで助けようとしただけであり、彼自身がヴェオリア公爵家一派という訳ではなかった。

 というより、彼がまさしく国王一筋の男だという事は周りの人物達の証言も取れたし、投獄中の言動を見てもそれは明らかだったのだ。

 

 ただし、顔見知り、昔馴染みという理由で状況を判断するようでは近衛騎士は務まらないと厳重注意を受けた。もちろん彼は、そんな事は牢獄の中で散々反省していたのだが……

 

 そして容疑者の中にはかなり怪しいのに犯罪の確固たる証拠が無く、白黒はっきりさせられない者達がいる。

 そういう相手に対しては今までは拷問で吐かせていたが、今回は新しい手法が用いられた。

 

 そう。この国では長らく罪を白状させる為に拷問をしていたのだが、それはあまりにも野蛮な行為であり、冤罪を生む恐れがあると言う事で前々から議論されてきた。

 そしてそれを初めて公の場で指摘したのが、当時まだ学生だったレオナルド=ザクリームだった。

 

 

 実は子供の頃ミラージュジュがノアから又借りして読んでいたという例の『禁書』、それを偶然レオナルドも学生時代に読んでいた。


 自己防衛術や護衛用グッズについて調べているうちに、それが魔法具だけではなく、東の国の最新の精密機械の道具へと興味が広まった。

 そこから東の国そのものに対する興味が高まり、やがて人心掌握法であるマインドコントロールへとたどり着いた。

 というのも、図書館で東の国を調べていて、あの『禁書』の存在を知ったのだ。

 まさかその本をミラージュジュやノアも読んでいたとは思わなかったが。


 それ以降レオナルドの東の国に対する関心は益々強くなり、絶えず情報収集をしてきた。

 そこで彼は知ったのだ。犯罪者に罪を自白させる画期的な方法がある事を・・・

 


 東の国は国家統一した後、人心掌握法であるマインドコントロールのやり方を封印してしまった。その力の恐ろしさをリーダー達はよく知っていたからだろう。

 

 しかし綺麗事では国の平和は守れない。魔力や精霊に頼れなかった彼の国ではそれに替わる力を探した結果、見つけ出したのが科学力だった。

 そしてその一環で医学も進んだのだが、悪用されると困るので、副作用の出ない安全性の高いものだけを輸出していた。

 

 やがて世界から魔力を持つ人間が減り、精霊達もその数を減らしていったのだが、そうなると各国では容疑者に自供させる事に苦労するようになった。魔力を使えなくなったからだ。

 

 真実を見つけ出す事が困難になり、人々は周りを信じられなくなって疑心暗鬼になった。

 その為にとりあえず安心をしたいという人間心理が働いて、無理矢理に犯罪者を作り出してひとまず安心するという心理が人々に働いた。

 こうして拷問をして自供させるという私刑のような方法が各国で横行するようになった。

 

 ところがそうなると、今度はいつ自分が濡れ衣を着せられるか分からない、という人々の不安が広がって行った。

 すると当然政府や国に対する人々の苛立ちや怒りが段々と大きくなって、社会全体の秩序が乱れていった。

 

 やがてこの問題は、国際会議でも大きな議題として取り上げられるようになっていった。

 そして各国は、拷問をしないのに政情が安定している東の国に助言を求めてきた。

 最初は自国の方法を表明するのを躊躇っていた東の国も、各国の必死な要請に、とうとう自国で生み出した自白剤の存在を表明したのだった。

 

 東の国の発明した自白剤は無味無臭で副作用無し。水に混ぜて飲ませれば、尿として出すまで効果が現れる。

 人間の良心に訴える作用があるようで、善悪の基準が違う他国の者が問いただしても、納得いかない返答がある事もあるらしいが。

 

「悪用されると困るので、一定数しかお売りできませんし、製造方法も教えられません。よく考えてお使い下さい。

 もちろん我が国の人間にこの薬を使って何かを聞き出そうとしても無駄ですよ。耐性がついてますからね。

 自国民に使用している自白剤はバージョンアップしてあるものなんですよ」

 

 東の国の代表はこう言ったそうだ。そして、各国はすぐにこの薬に飛びついたのだった。

 

 ところが、封建的で保守的なこの国では新しい事に対する拒否感が強く、今日までそれを採用される事がなかった。

 ただし法務局の若い職員達の間ではこの件がずっと検討されていたのだ。レオナルドと共に……

 そしてこの自白剤を使用する事を見越して、毎年限度数一杯まで薬を購入してストックしていた。

 今回それを役立てようという事になった。

 

 この薬の効果はばっちりだった。

 容疑者グループの上の地位の人間に飲ませれば、何も全員に自白剤を飲ませずとも、自分達のしでかした悪事をスラスラと全て喋ってくれたので効率が良かった。

 

 ただ一つ困ったのは事情聴取される人間の数が多すぎて、それを筆記する人間が足りなくなった事だろうか……

 まあ、宰相の命令で全ての職場から強制的に応援に借り出された職員達によって、どうにか事なきを得ていたが。

 

 三年前、法務局主催で催された法律セミナーに、もし宰相があのレオナルド=ザクリームを連れてこなかったら、今城内がどうなっていたか分からない。

 全ての業務が滞って国中が混乱状態になっていた事だろう。

 

 法務局の若手は、自白剤の有意義性とそれをストックするように意見してくれた現ザクリーム侯爵に、改めて深く感謝した。

 そして今まで権威を振り回し、自分達の上申を無視し続けてきた無能上司を睨み付けながら、侯爵のような人間に自分達の上司になって欲しいと思ったのだった。

 

 そしてようやく裁判が開始したのは、それから更に一月後の事で、季節は初秋からすっかり冬になっていた。

 まあ冬といっても一年中温暖な国なので、裁判にはさして影響もなく、毎日のように裁判が開かれ、審判が下されていった。

 

 爵位が降格される者、爵位を取り上げられる者、財産を没収される者、そのまま牢獄へ戻され禁錮刑や懲役刑となる者、強制収容所へ送られて労働者として働かされる者、むち打ちの刑に処される者、修道院へ送られる者・・・

 

 教会関係者のうち青薔薇作りに名を連ねた者達は裁判をされる事はなかったが、この件を外に漏らせば、無期懲役刑を受ける事になっている。

 もちろん特定期間に生まれた子供達の分の、青薔薇のプリザーブドフラワーを作りを放棄した場合も……

 

 そして人身売買に関与していた者達は鉱山で死ぬまで強制労働する事になった。

 ただし彼らの裁判は非公開であり、国民には知らされなかった。

 彼らはあくまで悪魔の化身であるヴェオリア公爵と教会長によって、惑わされて訳がわからないまま手伝わされた、という設定になっていたからだ。

 本来なら絞首刑になってもおかしくないのだが。

 

 そしてヴェオリア公爵の嫡男一家は自白剤を使用しなくても正直に罪を告白した事で、平民落ちをしたが、大分罪が軽くなった。元々父親の公爵の指示通りに動いていたので。

 夫は二十年の懲役刑、妻は修道院、息子は懲役十年、息子の嫁は結婚してまだ日が浅いという事で、お咎めなしで実家へ戻る事になった。

 

 そしてついに最後の裁判が開かれる事になった。それはそれまでの裁判所ではなく、王都の中央広場に設けられた仮設の公開裁判所で行われたのだった・・・

 


 読んで下さってありがとうございました!

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