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第六十八章 料理長の栄養ドリンク

 レオナルドが王城での自分の待遇についてどう思っているか、という話です!


「私と妻が孤児であったノアと知り合ったのは教会です」

 

 レオナルドが教会の話をしていた時、宰相閣下は王太子には見られないように、時折胡乱な目で愛弟子を見ていた。彼はその男と妻との出会いの話を聞いて知っていたからだ。

 

 よっぽど王太子の前では図書館の話はしたくないのだろう。心配症な男だな。

 仕事に関しては大胆不敵、勇猛果敢なのに、自分の妻の事になると途端に用心深くなる。そして意味深長な言葉選びになる。

 

「今日中には先程の養子の承認の証書を受け取れそうですので、明日にでも教会に調査に入りたいと思っています。

 それでよろしいでしょうか?」

 

 レオナルドの言葉に王太子と宰相は頷いた。策士だとか切れ者だとか呼ばれている二人だったが、知謀家というのは目の前のこの男のような人間なのだと納得した。

 

 今まで誰も手を付けられずにいた教会や王宮の聖堂にまで、こうもあっさりと踏み込むとは!

 ああ、宗教家がもっとも神聖視する黄金の髪と黄金の瞳を持つ天の使いのようなこの風貌のおかげか? まあ中身は天使とは真逆の腹黒な人物だが・・・

 いやいや、それは冗談だが……

 

「それと……ヴェオリア公爵家一派の中で、誰があの教会と繋がっているのか、もしかしたら間もなく分かるかもしれません。まだはっきりとしない情報で申し訳ないのですが」

 

 珍しく口籠りながらこう言った策略家を見て、これにも何か意図するものがあるのか? とも思ったが、これ以上のびっくり情報は今日はもういいかな…と二人は胸焼け気味だったので、何も追求しなかった。

 

 そして中洲の共有と教会の件の話が終了すると、レオナルド達三人は再び黙々と帳簿の確認作業に追われたのだった。

 

 やがて一番下っ端のレオナルドがその沈黙を破った。

 

「明日の打ち合わせがありますのでお先に帰らせて頂きます」

 

 彼は王太子と宰相にそう告げると、承諾を得る前に、さっさと宰相の執務室を出て行ってしまった。

 そして事務局で養子承認証書を受け取って、お偉方を残して本当に下城したのだった。

 

 秋になったとはいえ、まだまだ日は長いはずだ。しかし療養生活を終えて仕事を開始してからというもの、レオナルドがお天道様を拝みながら帰宅した事は一度もない。

 今日はいつもよりかなり早い時間に仕事を終えたつもりだったのに、既に外はすっかり暗くなっていた。

 馬車の中から街灯が照らす高級街を眺めて彼はため息をついた。

 

 今回の騒動が終了したら職員の待遇改善を提案し、絶対に定時で帰れるようにするぞ!と、レオナルドは強く思った。

 何が王太子のパートナーだ。何が宰相の後継者だ。

 冗談じゃない。そんなものになってしまったら、愛するジュジュと過ごす時間がますますなくなってしまうじゃないか。

 

 もし労働環境を変えてくれないのなら、城勤めを辞めて領地経営に専念しよう。

 レオナルドはそんな事を考えながら馬車に揺られていたのだった。

 

 

 王城は小高い丘にそびえ立っている。ザクリーム侯爵家はその丘を下って、市街地とは反対方向の森林の緑豊かな長閑な地区に、広大な土地を所有し、大きな屋敷を構えていた。

 城とは馬車でわずか十五分ほどだ。時間の余裕さえあれば思考を纏めるためにも徒歩で通いたいくらいだった。

 

 しかし城勤めが決まってから何故か馬車通勤を強要されているレオナルドだった。しかも護衛付き。まるで要人クラスの待遇だな。

 そんなもの付けるくらいなら、さっさと家に帰らせろ! とレオナルドは思っている。

 そして上司と宰相に掛け合ったのだが、一応申し訳なさげの顔をされてこう言われただけだった。

 

「徒歩通勤だけはやめてくれ。政敵にいつ狙われるかわからないから。それに甘い蜜は蜂を引き寄せる。しかし君はそれを望んではいないのだろう? だから君自身を守るためには仕方ないよね? 言っている意味がわかるだろう?」

 

 全くわからないね・・・

 

 レオナルドは幼い頃からその風貌のせいで、老若男女から妙に好かれるというか、執拗に絡まれた。

 しかし子供の時、そう、ミラージュジュに男に絡まれているところを助けて貰ってから、彼は自己防衛の大切さを思い知った。

 

 それからというもの、レオナルドは真剣に剣術や体術、護身術を学び、今ではトップの騎士同等の強さだ。

 もちろん、ミラージュジュに教わった護衛用グッズも必ず身に付けている。しかも、彼はそれを絶えずバージョンアップさせていた。

 

 外交官になってからは、世界中の防犯グッズを収集するのが彼の趣味の一つとなり、魔法具や東の国の最新の精密機械の道具までラインナップも豊富だ。

 王城で付けてくれる護衛などいらない。彼らはただ自分を見張り、束縛しようとしているだけで、申し訳ないが自分にはなんのプラスにもならない、そうレオナルドは思っていた。

 どうせ付けてくれるなら、脳筋ではなくブレインとして役に立つ者にしてくれれば、こちらの負担も多少は減るだろうにと。

 

 いずれ自分の側にノアが付いてくれたらいいなとレオナルドは思っている。部下というより仲間として。しかし、恐らく彼は嫌がるだろう。彼は自分ではなくてミラージュジュの側で彼女を守りたいのだから。

 それに城にはあまり近づきたくはないだろう。

 

 レオナルドが屋敷に帰ってくると、執事や侍女長、その他の使用人と共に、愛する妻が出迎えてくれた。

 

「お帰りなさいませ。

 今日はずいぶんとお早いお帰りなのですね。嬉しいです」

 

 妻は嬉しそうな顔でこう言った。夜八時過ぎで早いと言われて、夫はちょっと複雑そうな顔で微笑んだ。

 

 妻は今朝、徹夜をした為に目の下にクマを作っていたのだが、今は綺麗に無くなっていた。夫の指示にちゃんと従って昼寝、いや朝寝をしたのだろう。そして料理長特製の栄養ドリンクを飲んだに違いない……

 

 実はレオナルドもミラージュジュと同様、子供の頃は一つの事に夢中になると寝食を忘れてしまい、目の下にクマを作ってふらつく事が度々あった。

 その時、料理長が彼の体を心配して作ってくれたのがその栄養ドリンクで、本当によく効く。

 料理長は医者や栄養学者、農家、色々な人から話を聞き、たくさんの専門書を読んで、その栄養ドリンクを作り上げたのだ。

 

 人のいい料理長はその栄養ドリンクのレシピを誰にでも気前良く教えてやっている。人の役に立つのなら嬉しいと。

 しかしレオナルドはその栄養ドリンクを栄養補助食品として、彼の名前で特許の申請を済ませてある。

 そうしておかないと、必ず勝手に人の発案したものを自分のものとして特許を取り、使用料を支払わないと他人に使わせないようにする、そんな図々しい輩が出るからだ。

 

 パークスが王都の屋敷に異動になり、マーラが産休明けで仕事復帰してからは、レオナルドは彼らに厳しく健康管理されるようになった。

 それ故に成長と共にその栄養ドリンクには滅多にお世話にならなくなっていった。ところが記憶を喪失後、レオナルドは非常に忙しくなって、再びこのドリンクのお世話になっている。

 懐かしいような、切ないような……

 

 そして今日は愛する妻の目の下のクマを消してくれたようだ。後で料理長に礼を言わなくては……

 

 それはともかく、何故大切な大切な愛する妻が目の下にクマを作っていたのかというと、昨日、つまりレオナルドとノアの正体がばれたその翌々日の朝、ミラージュジュが突然ある重大な事を思い出したからだった。

 

 読んで下さってありがとうございました!

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