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第六十六章 パークスの言葉

 

 

「それと、スージー夫人の事は申し訳ないね。暫く辛い思いをさせてしまうね」

 

「殿下が謝られる事ではありません。殿下も姉と同じ立場ではありませんか」

 

 王太子の謝罪にレオナルドは慌ててそう言ったが、王太子は頭を振った。

 

「同じではないよ。私はスージー夫人のように相手を大切に思っていた訳じゃないからね。

 もちろん従兄妹だし幼馴染みだったから、そういう情は最初の頃は確かにあったんだよ。あの男に無理矢理充てがわれた妻だとしてもね。

 それにたとえ政略結婚だとしても、もし私に寄り添う姿勢を少しでも見せてくれたなら、あれを妻だと思えたかも知れない。だが結局あれはヴェオリア公爵家の人間であり続けたよ。

 一見すると自己主張などしない柔順な女に見えるかも知れないが、全くその姿勢は揺るがなかったよ。

 

 そんな女を王太子妃としても妻としても大切に思える訳だがないだろう? 

 あれは私を上手く操縦して、ヴェオリア公爵派に取り込めたと思っているんだよ。全くおめでたいよね。

 

 そして最近では子供が出来ない事でさすがに気落ちしているのかと思っていたら、なんと浮気だよ。

 しかも相手は幼馴染みで元々好意を持っていた相手だとしても、いつも親身になって相談に乗ってくれていた友人の夫だよ。もうどうしようもないよね。

 

 だから、今回の事を父から聞かされた時、あれを正当に断罪出来るいい機会だと、無意識に喜んでいたんだ。しかし、スージー夫人の事を思い出した時、そんな自分にさすがに引いたよ」

 

 心情を吐露した王太子の顔は、酷く歪んで苦しげだった。恐らく今までたった一人でその負の感情と戦ってきたのだろう。

 彼はこれまで、父親や祖父とは真逆の真人間を演じてこなければならなかったのだから。

 そうしないと自分まで悪意のある人間側に呑み込まれてしまいそうで怖かったのかも知れない。

 

「ようやく素直になりましたな。私もホッとしましたよ。

 殿下が善人の振りをし続けるから心配だったんですよ。真面目な人間ほど案外ポキッと簡単に折れてしまうものですからね。

 でも、どうしてこの場で急にその仮面を外される気になったんですか? そんなに我々を信用して下さっているのですか?」

 

 宰相がわざとおどけたよう軽く返すと、王太子は少し笑った。

 

「さっきも言ったでしょ。宰相の事は私が義母上の次に信頼している人物だって。

 それにレオナルド卿の事ももちろん信用しているんだよ。いずれは一緒にこの国を治めて行く私のパートナーなんだからね」

 

「勝手に人の人生を決めないでくださいよ」

 

 レオナルドが露骨に嫌そうな顔をした。すると王太子はそんなレオナルドに指を指しながら嬉しそうに言った。

 

「その顔、その顔がいいんだよ。

 他所では冷静沈着で無表情、鉄仮面の君が、私の前ではいつも嫌そうな、迷惑そうな顔をするだろう? それがいいんだよ」

 

「おっしゃっている意味がわかりません。殿下は私に対していつも無理難題を言ってこられますよね? 

 ですから私は殿下とはあまり関わりたくないんです。その気持ちが強過ぎて表に出てしまうだけです。

 それのどこがいいんですか? 殿下はマゾですか? それともただ嫌がらせをしたいサドですか?」

 

「おい、それは不敬もんだぞ!」

 

 宰相が愛弟子を窘めた。

 確かに自分に対しても普段生意気な態度をとり、平気で人を利用してくる腹黒だが、表面上は礼節を保っているのに、どうしたんだ、その態度は…

 

 今の王太子の口振りから察すると、彼らのやり取りは今だけのものではないようだが…

 もしかして自分の愛する妻に懸想しているから、王太子殿下を疎んじているのか? それとも取られるかもと警戒しているのか?

 

「だからね、私の前で素直な感情を表に出してくれるのは君だけなんだよ。みんな笑顔かすました顔の仮面を付けているからね。でも君は違う。だから信用しているんだよ」

 

 王太子は真面目な顔になってそう言った。

 

 自分の前で感情を表に出すからこそレオナルドを信用出来ると言った後、王太子は突然話を変えてこう尋ねた。

 

「一昨日君から依頼された養子縁組の件だが、承認のサインをしておいたよ。すぐに証明書が出来るだろう。

 しかし、何故君の家の護衛をわざわざ君の家の執事の養子にするんだね?」

 

「早速承認して頂きまして感謝いたします」

 

「パークス卿が養子をとるのかね?

 彼のお眼鏡にかなった者なら、さぞかし優秀なんだろうね」

 

「はい。ノアと言いまして、私と妻の共通の友人で、とにかく優秀な男なんです。

 何せ北の隣国の公務員養成学園を数年飛び級して卒業したくらいですから」

 

「北の隣国出身の者なのかね?

 赴任先で知り合ったのかい?」

 

「いいえ、宰相閣下。子供の頃に友人になりました。ノアは元々この国の民でした。

 しかし、例の人身売買をしていた教会の手によって、北の隣国へ売り飛ばされたのです」

 

「なっ!」

 

「隣国は他所から来た人間にもきちんと教育を施してくれる懐の深い国です。まるで王妃殿下のように。

 それに比べて我が国は自国の民にすら教育を与えられない情けない国です。私は外交官として大変情けない思いをしました。

 ノアは売られて良かったと言っていました。隣国でなら毎日食べられて、暖かな部屋で眠れて、犯罪を犯さずにすむからと……」

 

「「・・・・・」」

 

 レオナルドは落ち込む王太子と宰相に向かってこう言った後、ノアが何故この国に戻ってきたかを話した。

 

 故国ではまだ、昔の自分のように辛い思いをしている子供達が沢山いるだろう。

 だから彼らを助け出す為にも教会の不正を暴こうとしているのだと。

 

「彼はその教会に住んでいたので内部に詳しいのですよ。

 しかし、平民だと教会の中を自由に調べ回る事は出来ないので、貴族の地位を彼に与えたいのです」

 

「そうか、わかった……

 それで、君達はそもそもその者とどうやって知り合ったんだい?」

 

「例の教会です。妻も私もその教会で奉仕活動をしていましたので。

 しかし、私があの黄金事件のせいで領地に軟禁になっているうちに、彼は隣国に売られてしまっていたんです。

 その後彼が行方不明になったと知って探し回りましたが、結局彼を見つけ出す事ができませんでした。

 

 教会が悪事をしていると薄々気付いてはいましたが、まさか人身売買にまで手を出していたとは思いもしませんでした。

 その後暫くして人身売買を疑うようになったのですが、まだ子供で何も出来ない自分が悔しくて、ずいぶんと歯痒い思いをしました」

 

 当時、レオナルドが相談出来るのは執事のパークスだけだった。ある日レオナルドは教会が怪しいと彼に相談をしたのだが、それを運悪く父親に聞かれてしまった。

 そして教会は正しく清く尊い場所だという認識から抜け出せない両親は息子を酷く叱責した。そして彼を無理矢理に教会の懺悔室へ連れて行った。

 

 とはいえ、もちろん彼が懺悔なんかする訳がなかったのだが。

 

「自分は教会を疑った悪い子です」

 

 なんてわざわざ告白して、自ら教会に目をつけられるような馬鹿な真似をするわけがない。適当に悪戯を反省する言葉を並べておいた。

 

 レオナルドは自分の両親の頭の悪さに呆れ返った。これでよく魑魅魍魎跋扈する貴族社会で生きていけてるものだと。

 

 いや、策略も駆け引きも出来ないからこそ、寧ろいいように利用出来る腰巾着ポジションとして需要があるのかも知れないと、幼いながらもそう納得した息子だった。

 そしてそれを本当に実感したのは、第二王子との偽装愛人契約を知った時だった。

 

 それはともかく、教会の懺悔室から帰宅した時、レオナルドはパークスからこう言われたのだ。

 教会は国王や高位貴族と繋がっているのだから、生半可に関わるとこの侯爵家もレオナルド自身も本当に潰されると。

 本気で教会を改革したいと思うのなら、もっと自分自身を磨いて力をつけ、人脈を作って人の輪を広げなさいと。

 

 今何も出来ないとただ地団駄を踏んでいるよりも、必ず叶えたいという目標があるのなら、先を見据えて今出来る努力をしなさいと。

 

 あの日のパークスの言葉があったからこそ、今のレオナルドはあるのだった。

 それがなかったら、何も出来ない歯痒さ、惨めさ、悔しさに耐えられなかっただろう。

 

 北の隣国への亡命問題と教会の人身売買の二つを解明出来たのも、子供の頃からコツコツと調べてきたり、疑惑や疑問点の洗い出しをしてきたその賜物だったのでる。


レオナルドは妻との出合いの場所の件で王太子達に嘘をついていますが、もちろん宰相はわかっているという設定です!

 レオナルドは図書館というワードを王太子の前では絶対に使いたくないのです(笑)


 読んで下さってありがとうございました!

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